ある女の苦悩

外の世界

妻の発信

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

いつも通りに玄関まで夫を見送る。

「今日も遅くなりそうだから、夕飯はいらないからね」

夫がすまなそうに私に説明をする。
夕飯を作らなくていいならむしろ楽だ…なぜ、すまなそうな顔をするのか意味が分からない。
私は心の中でほくそ笑む…

「私もちょっと出かけるから、遅くなる…ちょうど良かった」

「そうなんだ。珍しいね？ゆっくりしておいで」

「ええ…ありがとう」

朝、そんな会話を交わした。

夫が遅くなる…夕飯も用意する必要がない…今日がいい…好都合だ…
今日、決行しよう…。

私はあの夜に、悟ってしまった。

もう、夫とはかつてのような関係は望めないのかもしれないと…。

そして私のこの、煮え切らない性格…　

この前の夜は勇気を振り絞って夫を誘ったが、
もうきっと、夫に対してオープンにセックスをしようとか…抱いて欲しいなどと言うことはできないだろう…
断られた時の恐怖と、あの惨めな気持ちは表現のしようがない…。

もはや、外へ…
外の世界へ飛び出すしかない…
ハッキリ言って、欲求不満なのだ…　　
もはや、誰でもいい…
とにかく、抱き締めて欲しい…抱いて欲しい…

そんなやけっぱちな気持ちになっていた。

あの夜夫に断られて以降、
すぐさま最近よく報道でも話題になっているマッチングアプリなるものに登録を済ませた。

顔はわからないようにぼかしを入れ…
上半身だけを写すような形で登録を終えた。

その後、反応をくれた男のうち、一番気になった一人の男にメッセージを送った。

『今夜、良かったら会えませんか？』

赤の他人に…　
しかも、夫以外の男に、こんなメッセージを送るなんて…

私は内心、緊張しながらも、なんとか気持ちを落ち着かせるかのように、
いつものように部屋の片づけを始めた。