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洋子との出会い
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大宣は困っていた。
進路調査の用紙の大宣が書いたのは・・・
『宇宙飛行士』
後から呼び出しを受けるとは思っていた。
「まじめに書け」と担任に叱られる事は覚悟していた。
まあ担任である早坂葵先生は怒っても怖くない・・・というか怒っている姿が想像出来ないが。
早坂先生もとい葵ちゃんは怒る前に泣いてしまうのだ。
「葵ちゃんを泣かすヤツは俺が許さん!」とクラスの問題児が率先して授業に取り組んだので学級崩壊どころか葵ちゃんの教えていた世界史は物音一つない異様は雰囲気だったのだが。
担任の先生が世界史担当という事でもわかるように、大宣は文系志望だ。
数学などの理系科目は高2の段階で捨てている。
そんな大宣が進路希望で『宇宙飛行士』と書いたのだ。
大宣としてみると『宇宙飛行士』も『バスの運転手さん』も『消防士』も『ユーチューバー』も同じだ。
適当に子供の憧れの職業を進路調査の用紙に書いただけだ。
何も思い浮かばなかったが呼び出されるまで時間が稼げると思っていた。
早坂先生が大宣の書いた進路希望を本気に取るまでは・・・。
「宇宙飛行士になるためには工学部・理学部を卒業しないといけません」職員室に大宣を呼び出した早坂先生は真面目な顔をして言った。
「はあ・・・」ここまで早坂先生が大マジで色々調べていてくれると大宣はもう今さら冗談だとは言えないで曖昧に返事をした。
「視力や血圧なども宇宙飛行士になろうとしている人は検査されますが、幸いそれは佐々木君はクリア出来るでしょう。大学は必要なら転籍出来ます。難しい転籍試験をクリアすれば東京大学にだって転籍出来ます。それは今後の佐々木君の頑張り次第でしょう。どんな環境だって勉強出来ますし、前例がなければ佐々木君が前例になれば良いのです。とにかく宇宙飛行士になるための勉強が出来る大学で今の佐々木君の学力で入学出来て、文系教科で受験出来る大学となると・・・ありませんね」早坂先生は大真面目に言った。
ないのかよ、正直ホッとした。本気で宇宙飛行士になろうと思った訳じゃないし。
「しかし諦めるのはまだ早いですよ。確かに大学受験では可能性はありません。しかし推薦や一芸入試という手があります」早坂先生は言った。
「推薦はないですね。高2の段階で数学を捨てています。微分積分を全く知らない人間が推薦を受けると高校や後輩に迷惑をかけます」大宣は言った。
「じゃあ一芸入試しかないですね。佐々木君の他人に誇れる一芸を教えて下さい」早坂先生が言う。
この先生が劣等生に人気がある理由が分かった。
誰に対しても全力投球なのだ。
人を見て態度を変えないのだ。
本気で俺に一芸があると信じている。
冗談を言える雰囲気ではない。
「一芸なんてありません」なんて言える雰囲気でもない。
「人より勘が良い・・・ってのはダメですか?」俺は何を言っているのか?
「うーん・・・ダメじゃないの。ダメじゃないんだけど・・・」やっぱり早坂先生は優しいな。
ダメに決まってるじゃんか。
何が「勘が良い」だよ。
そんなもんで大学に入れる訳がない。
「もう良いですよ。普通に文系の大学を受験します」そう大宣が言おうとした時・・・。
「わかったわ。その条件で一芸入試出来る大学を探してみるわ!」早坂先生は大真面目に言った。
大宣は「ああそうですか」としか言えなかった。
それから大宣は早坂先生と視線を合わせる事が出来なかった。
早坂先生はきっと一生懸命、大宣の一芸入試出来る大学を探しているだろう。
それから二週間後、大宣は早坂先生に呼び出された。
「探したけどダメだった」そう言われると思って職員室に行くと、そこには申し訳なさそうな顔の早坂先生がいた。
見つからなかったのか・・・ま、そうだろうな。
普通に考えて「俺、勘だけは良いんです。大学入れてもらえませんか?」ってヤツが一芸入試に来ても「帰れ」としか言われないだろうし。
つーか、よくそんな条件で受けれる大学探してくれたよな。
・・・そんな事を考えていると。
「ようやく佐々木君の受けれる一芸入試を見つけました。私みたいな新任教師じゃなければ、もっと手際よく受けれる大学探せたと思うけど、今の私にはこれで精一杯・・・ごめんね?」早坂先生が頭を下げながら言う。
一芸入試出来る大学見つけたのかよ!
大宣はここまで骨を折ってくれた早坂先生の恩に報いるために一芸入試に精一杯取り組む事にした。
大宣が一芸入試を受験しようと面接会場を訪れた時の事だ。
その時今まで面接をしていた面接官と入れ替わりで登場したのが大橋洋子であった。
それまでの面接官は准教授であったが、洋子は講師ですらない修士であった。
大宣には「なぜ面接官が交代するのか?」をネガティブに受け止めていた。
とりあえず早坂先生は一芸入試に大宣をねじ込んでくれたけれど、大学サイドはまともに大宣の面接をする気はない。
この面接官交代はその意思表示だと大宣は思ったのだ。
だが早坂先生が必死で探してきてくれた一芸入試だ。
不貞腐れた態度で臨む訳にはいかない。
「私があなたの面接官をつとめる大橋洋子です。
私は化学研究室で助手をしています」洋子は軽く挨拶をした。
研究室で助手をしている・・・というと聞こえが良いが、要は院生だ。
大宣の面接は大学生がやるという事だ。
大宣は「やってらんねー」という感情を抑えつつ面接に臨んだ。
「『勘がするどい』との事ですが、その事を示すエピソードはありますか?」洋子は質問した。
「じゃんけんで負けた事はありませんね」大宣は言う。
「それはすでにコンピューターが実現しています。瞬間的に相手の手を見て後出しし必ず相手に勝つという・・・」
「いや、そんな反射神経とか動体視力の話ではなく、勘のみで勝ちます。後出しなどの不正は一切しません」
「では私とじゃんけんしましょうか?」
大宣と洋子は20回じゃんけんをした。
本当は10回のはずだったが、10戦全勝した大宣に洋子が「もう10戦しよう」ともちかけたのだ。
もちろん20戦全て大宣は勝利した。
だからなんなんだ、という話だ。
大学受験でじゃんけんした人もいないだろうし、じゃんけんで勝ったから大学に受かったなんていう話も聞いた事がない。
「先生ごめん。こりゃ落ちたわ」大宣は帰りの電車の中で早坂先生に心の中で詫びた。
大宣の合格通知がネットに載るのはその一週間後の事だ。
進路調査の用紙の大宣が書いたのは・・・
『宇宙飛行士』
後から呼び出しを受けるとは思っていた。
「まじめに書け」と担任に叱られる事は覚悟していた。
まあ担任である早坂葵先生は怒っても怖くない・・・というか怒っている姿が想像出来ないが。
早坂先生もとい葵ちゃんは怒る前に泣いてしまうのだ。
「葵ちゃんを泣かすヤツは俺が許さん!」とクラスの問題児が率先して授業に取り組んだので学級崩壊どころか葵ちゃんの教えていた世界史は物音一つない異様は雰囲気だったのだが。
担任の先生が世界史担当という事でもわかるように、大宣は文系志望だ。
数学などの理系科目は高2の段階で捨てている。
そんな大宣が進路希望で『宇宙飛行士』と書いたのだ。
大宣としてみると『宇宙飛行士』も『バスの運転手さん』も『消防士』も『ユーチューバー』も同じだ。
適当に子供の憧れの職業を進路調査の用紙に書いただけだ。
何も思い浮かばなかったが呼び出されるまで時間が稼げると思っていた。
早坂先生が大宣の書いた進路希望を本気に取るまでは・・・。
「宇宙飛行士になるためには工学部・理学部を卒業しないといけません」職員室に大宣を呼び出した早坂先生は真面目な顔をして言った。
「はあ・・・」ここまで早坂先生が大マジで色々調べていてくれると大宣はもう今さら冗談だとは言えないで曖昧に返事をした。
「視力や血圧なども宇宙飛行士になろうとしている人は検査されますが、幸いそれは佐々木君はクリア出来るでしょう。大学は必要なら転籍出来ます。難しい転籍試験をクリアすれば東京大学にだって転籍出来ます。それは今後の佐々木君の頑張り次第でしょう。どんな環境だって勉強出来ますし、前例がなければ佐々木君が前例になれば良いのです。とにかく宇宙飛行士になるための勉強が出来る大学で今の佐々木君の学力で入学出来て、文系教科で受験出来る大学となると・・・ありませんね」早坂先生は大真面目に言った。
ないのかよ、正直ホッとした。本気で宇宙飛行士になろうと思った訳じゃないし。
「しかし諦めるのはまだ早いですよ。確かに大学受験では可能性はありません。しかし推薦や一芸入試という手があります」早坂先生は言った。
「推薦はないですね。高2の段階で数学を捨てています。微分積分を全く知らない人間が推薦を受けると高校や後輩に迷惑をかけます」大宣は言った。
「じゃあ一芸入試しかないですね。佐々木君の他人に誇れる一芸を教えて下さい」早坂先生が言う。
この先生が劣等生に人気がある理由が分かった。
誰に対しても全力投球なのだ。
人を見て態度を変えないのだ。
本気で俺に一芸があると信じている。
冗談を言える雰囲気ではない。
「一芸なんてありません」なんて言える雰囲気でもない。
「人より勘が良い・・・ってのはダメですか?」俺は何を言っているのか?
「うーん・・・ダメじゃないの。ダメじゃないんだけど・・・」やっぱり早坂先生は優しいな。
ダメに決まってるじゃんか。
何が「勘が良い」だよ。
そんなもんで大学に入れる訳がない。
「もう良いですよ。普通に文系の大学を受験します」そう大宣が言おうとした時・・・。
「わかったわ。その条件で一芸入試出来る大学を探してみるわ!」早坂先生は大真面目に言った。
大宣は「ああそうですか」としか言えなかった。
それから大宣は早坂先生と視線を合わせる事が出来なかった。
早坂先生はきっと一生懸命、大宣の一芸入試出来る大学を探しているだろう。
それから二週間後、大宣は早坂先生に呼び出された。
「探したけどダメだった」そう言われると思って職員室に行くと、そこには申し訳なさそうな顔の早坂先生がいた。
見つからなかったのか・・・ま、そうだろうな。
普通に考えて「俺、勘だけは良いんです。大学入れてもらえませんか?」ってヤツが一芸入試に来ても「帰れ」としか言われないだろうし。
つーか、よくそんな条件で受けれる大学探してくれたよな。
・・・そんな事を考えていると。
「ようやく佐々木君の受けれる一芸入試を見つけました。私みたいな新任教師じゃなければ、もっと手際よく受けれる大学探せたと思うけど、今の私にはこれで精一杯・・・ごめんね?」早坂先生が頭を下げながら言う。
一芸入試出来る大学見つけたのかよ!
大宣はここまで骨を折ってくれた早坂先生の恩に報いるために一芸入試に精一杯取り組む事にした。
大宣が一芸入試を受験しようと面接会場を訪れた時の事だ。
その時今まで面接をしていた面接官と入れ替わりで登場したのが大橋洋子であった。
それまでの面接官は准教授であったが、洋子は講師ですらない修士であった。
大宣には「なぜ面接官が交代するのか?」をネガティブに受け止めていた。
とりあえず早坂先生は一芸入試に大宣をねじ込んでくれたけれど、大学サイドはまともに大宣の面接をする気はない。
この面接官交代はその意思表示だと大宣は思ったのだ。
だが早坂先生が必死で探してきてくれた一芸入試だ。
不貞腐れた態度で臨む訳にはいかない。
「私があなたの面接官をつとめる大橋洋子です。
私は化学研究室で助手をしています」洋子は軽く挨拶をした。
研究室で助手をしている・・・というと聞こえが良いが、要は院生だ。
大宣の面接は大学生がやるという事だ。
大宣は「やってらんねー」という感情を抑えつつ面接に臨んだ。
「『勘がするどい』との事ですが、その事を示すエピソードはありますか?」洋子は質問した。
「じゃんけんで負けた事はありませんね」大宣は言う。
「それはすでにコンピューターが実現しています。瞬間的に相手の手を見て後出しし必ず相手に勝つという・・・」
「いや、そんな反射神経とか動体視力の話ではなく、勘のみで勝ちます。後出しなどの不正は一切しません」
「では私とじゃんけんしましょうか?」
大宣と洋子は20回じゃんけんをした。
本当は10回のはずだったが、10戦全勝した大宣に洋子が「もう10戦しよう」ともちかけたのだ。
もちろん20戦全て大宣は勝利した。
だからなんなんだ、という話だ。
大学受験でじゃんけんした人もいないだろうし、じゃんけんで勝ったから大学に受かったなんていう話も聞いた事がない。
「先生ごめん。こりゃ落ちたわ」大宣は帰りの電車の中で早坂先生に心の中で詫びた。
大宣の合格通知がネットに載るのはその一週間後の事だ。
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