4 / 48
先生
しおりを挟む
新任教員は普通受験生の担任にはならない。
経験が絶対的に不足しているからだ。
早坂先生は最初副担任だった。
担任だった女性体育教師が産休に入った。
代理でよその高校から来たベテラン教師が担任になった。
だがベテラン教師のビジネスライクな態度は生徒達に伝わった。
ベテラン教師を擁護する訳ではないが、生徒達と信頼関係が築けていない状態で、突然転任させられて担任を押し付けられて・・・そりゃビジネスライクな態度にもなろうと言うものだ。
クラスは荒れた。
しかたなく再度担任交代という話になり、緊急的に早坂葵先生が次が決まるまでという限定条件付きで三年生の担任となったのだ。
しかしいざ早坂先生が担任になってみるとその一生懸命さ、親身さ、公平さなどで一躍人気者になった。
あれだけ荒れ果てたクラスをまとめた功績を認めない訳にはいかず、早坂先生は正式な担任となったのだ。
・・・で何故か高校を先週卒業して高校とは縁がなくなったはずなのに、早坂先生が大宣のアパートに来て朝食を作っている。
「先生?何で朝食なんて作っているんですか?」大宣は率直な疑問を早坂先生にぶつけた。
「朝食はちゃんと摂らないとダメですよー?朝ごはんはその日の活力源です!」早坂先生は力説する。
その理屈はおかしい。
たしかに朝食はエネルギー源になるだろう。
だが「その日のエネルギー源」になるのは変だ。
その日の午後のエネルギー源である食事は昼食のはずだ。
「朝食はその日一日のエネルギー源」だと言うなら昼飯も晩飯も必要ない。
それはどうでも良い。
そういう話ではない。
聞きたいのは「何で出勤前にここに来て朝食を作っているのか?」という事だ、「朝ごはんを食べるとどういうメリットがあるのか?」という話ではない。
「彼氏が出来たらご飯を作ってあげる事が夢だったんです!
生徒には公平に接しなきゃダメだから、佐々木君が卒業するまでは何も出来なかったんです!
本当は佐々木君に告白された時、即OKだったんですけどやっぱり教師と生徒って許されないじゃないですか。
だからその場では返事出来なかったんですけど、今なら返事出来ます。
私、早坂葵も佐々木大宣君の事が大好きです!
喜んでお付き合いさせてもらいます!」早坂先生は深々と頭を下げた。
話は一芸入試の合格発表の日に遡る。
「ペーパー試験はそこそこ出来た。
つーかそんなに難しくなかった。
それに一芸入試ってペーパー試験はそんなに重視されないみたいよ?
試験の前にさ、前の席のいかにも『スポーツ一芸』って感じのごっついヤツに『difficultってどういう意味ですか?』って聞かれたよ。
あの程度でも受かる試験なら、ペーパー試験で落ちる事はない。
逆にどれだけペーパー試験が出来てても、面接や一芸判定でダメだったら落ちるだろうし」大宣は言った。
早坂先生は大宣以上に緊張していた。
「どうせダメだろう」と思っていた大宣だったが、早坂先生の緊張が移り少し緊張気味だった。
ガタガタ緊張で震える先生と大宣は合格発表のネット速報を職員室のPCの前で待つ。
「早坂先生には本当に感謝している。
これからも俺を見守っていて、悦びも悲しみも分かちかって欲しい」大宣は早坂先生の震えを止めるように早坂先生の手を握りしめた。
その話はそれ以上何もなかった。
一芸入試の合格発表が次の瞬間にPCの画面に出たからだ。
そこには大宣の受験番号も載っていた。
信じられない。
面接中、大した話もせずじゃんけんしていただけだ。
「良かった・・・本当に良かった。ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」早坂先生は大宣の胸に顔を埋めて泣き崩れた。
早坂先生が泣く事は珍しくなかったが、早坂先生は涙を目に一杯ため、普通に授業を進行させようとつとめたのだ。
早坂先生は「自分が泣く事で生徒に不利益は感じさせたくない」と思っていた。
生徒も「この先生は泣く事で許されようとしているのではない」と感じこの教師を慕った。
この話はこれだけのはず。
いつの間に大宣が早坂先生に告白したことになっているのだろう?
「告白された事はこう見えて何回かあります。
ですが手を握られて『これからも一緒にいて悦びも悲しみも分かちあって欲しい』なんて情熱的でロマンティックな告白されたのは生まれて初めてです!
でもダメですよ!
職員室は私にとって職場です。
仕事中に『ここで佐々木君が私に告白してくれたんだな~』と思うと顔の筋肉が緩んで、にやけっぱなしになるじゃないですか!」早坂先生は少し叱るように言った。
こりゃあれだ。
いわゆる「勘違い」ってヤツだ。
この場で勘違いを正すか・・・多少早坂先生を傷つける事になるけど後になるほど傷は大きくなる。
早坂先生を大切に思っているからこそ、先生に大きな傷を残したくない。
つーか・・・早坂先生が勘違いしていて何か不都合があるか?
早坂先生と交際する事になる・・・願ったり叶ったりじゃねーか。
「しょせん教師と生徒だ。
この想いは届かない」なんて諦めてた想いが、早坂先生の勘違いにより成就したんじゃねーか!
ビバ!勘違い!ハレルヤ!勘違い!
早坂先生は朝食を作ると慌ただしく、学校へ向かった。
俺は埃をかぶっている高校の数学の教科書を開いた。
一芸入試、スポーツ入試で大学に入った者は単位が取れず退学する者が多い、と聞く。
「せめて大学卒業するくらいの学力は身に付けないとな。
折角早坂先生が骨を折って俺が入れる理系の大学探してくれたんだからな」
経験が絶対的に不足しているからだ。
早坂先生は最初副担任だった。
担任だった女性体育教師が産休に入った。
代理でよその高校から来たベテラン教師が担任になった。
だがベテラン教師のビジネスライクな態度は生徒達に伝わった。
ベテラン教師を擁護する訳ではないが、生徒達と信頼関係が築けていない状態で、突然転任させられて担任を押し付けられて・・・そりゃビジネスライクな態度にもなろうと言うものだ。
クラスは荒れた。
しかたなく再度担任交代という話になり、緊急的に早坂葵先生が次が決まるまでという限定条件付きで三年生の担任となったのだ。
しかしいざ早坂先生が担任になってみるとその一生懸命さ、親身さ、公平さなどで一躍人気者になった。
あれだけ荒れ果てたクラスをまとめた功績を認めない訳にはいかず、早坂先生は正式な担任となったのだ。
・・・で何故か高校を先週卒業して高校とは縁がなくなったはずなのに、早坂先生が大宣のアパートに来て朝食を作っている。
「先生?何で朝食なんて作っているんですか?」大宣は率直な疑問を早坂先生にぶつけた。
「朝食はちゃんと摂らないとダメですよー?朝ごはんはその日の活力源です!」早坂先生は力説する。
その理屈はおかしい。
たしかに朝食はエネルギー源になるだろう。
だが「その日のエネルギー源」になるのは変だ。
その日の午後のエネルギー源である食事は昼食のはずだ。
「朝食はその日一日のエネルギー源」だと言うなら昼飯も晩飯も必要ない。
それはどうでも良い。
そういう話ではない。
聞きたいのは「何で出勤前にここに来て朝食を作っているのか?」という事だ、「朝ごはんを食べるとどういうメリットがあるのか?」という話ではない。
「彼氏が出来たらご飯を作ってあげる事が夢だったんです!
生徒には公平に接しなきゃダメだから、佐々木君が卒業するまでは何も出来なかったんです!
本当は佐々木君に告白された時、即OKだったんですけどやっぱり教師と生徒って許されないじゃないですか。
だからその場では返事出来なかったんですけど、今なら返事出来ます。
私、早坂葵も佐々木大宣君の事が大好きです!
喜んでお付き合いさせてもらいます!」早坂先生は深々と頭を下げた。
話は一芸入試の合格発表の日に遡る。
「ペーパー試験はそこそこ出来た。
つーかそんなに難しくなかった。
それに一芸入試ってペーパー試験はそんなに重視されないみたいよ?
試験の前にさ、前の席のいかにも『スポーツ一芸』って感じのごっついヤツに『difficultってどういう意味ですか?』って聞かれたよ。
あの程度でも受かる試験なら、ペーパー試験で落ちる事はない。
逆にどれだけペーパー試験が出来てても、面接や一芸判定でダメだったら落ちるだろうし」大宣は言った。
早坂先生は大宣以上に緊張していた。
「どうせダメだろう」と思っていた大宣だったが、早坂先生の緊張が移り少し緊張気味だった。
ガタガタ緊張で震える先生と大宣は合格発表のネット速報を職員室のPCの前で待つ。
「早坂先生には本当に感謝している。
これからも俺を見守っていて、悦びも悲しみも分かちかって欲しい」大宣は早坂先生の震えを止めるように早坂先生の手を握りしめた。
その話はそれ以上何もなかった。
一芸入試の合格発表が次の瞬間にPCの画面に出たからだ。
そこには大宣の受験番号も載っていた。
信じられない。
面接中、大した話もせずじゃんけんしていただけだ。
「良かった・・・本当に良かった。ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」早坂先生は大宣の胸に顔を埋めて泣き崩れた。
早坂先生が泣く事は珍しくなかったが、早坂先生は涙を目に一杯ため、普通に授業を進行させようとつとめたのだ。
早坂先生は「自分が泣く事で生徒に不利益は感じさせたくない」と思っていた。
生徒も「この先生は泣く事で許されようとしているのではない」と感じこの教師を慕った。
この話はこれだけのはず。
いつの間に大宣が早坂先生に告白したことになっているのだろう?
「告白された事はこう見えて何回かあります。
ですが手を握られて『これからも一緒にいて悦びも悲しみも分かちあって欲しい』なんて情熱的でロマンティックな告白されたのは生まれて初めてです!
でもダメですよ!
職員室は私にとって職場です。
仕事中に『ここで佐々木君が私に告白してくれたんだな~』と思うと顔の筋肉が緩んで、にやけっぱなしになるじゃないですか!」早坂先生は少し叱るように言った。
こりゃあれだ。
いわゆる「勘違い」ってヤツだ。
この場で勘違いを正すか・・・多少早坂先生を傷つける事になるけど後になるほど傷は大きくなる。
早坂先生を大切に思っているからこそ、先生に大きな傷を残したくない。
つーか・・・早坂先生が勘違いしていて何か不都合があるか?
早坂先生と交際する事になる・・・願ったり叶ったりじゃねーか。
「しょせん教師と生徒だ。
この想いは届かない」なんて諦めてた想いが、早坂先生の勘違いにより成就したんじゃねーか!
ビバ!勘違い!ハレルヤ!勘違い!
早坂先生は朝食を作ると慌ただしく、学校へ向かった。
俺は埃をかぶっている高校の数学の教科書を開いた。
一芸入試、スポーツ入試で大学に入った者は単位が取れず退学する者が多い、と聞く。
「せめて大学卒業するくらいの学力は身に付けないとな。
折角早坂先生が骨を折って俺が入れる理系の大学探してくれたんだからな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる