超科学

海星

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進学

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 大学に進学した。

 宇宙飛行士は無理でも一角の男にはなりたい。

 大宣が通っている大学を卒業して宇宙飛行士になれない訳ではない。

 どこの大学でも法学部は存在するが、司法試験を合格して弁護士になれるのは一流大学の法学部の者だけだろう。それと同じだ。





 ちなみに早坂先生は「先生」と呼ぶとすねる。

 しょうがなく「葵ちゃん」と呼ぶ事にした。

 「葵ちゃん」と呼んでいる生徒達はみんなリア充でそう呼ぶ事に抵抗がなかった訳ではないが、最初の希望は「『あおい』って呼んで欲しい」というものだったので呼び捨てに比べると幾分ハードルは低いので我慢してもらう事となった。

 そして葵ちゃんとの性交渉は行っていない。

 「結婚するまで赤ちゃんはいらない。

 今受け持っている生徒達が高校を巣立つまで結婚はしない」と葵ちゃんは言っている。

 「セックスはそういうものじゃない。

 子供を作る目的じゃなくてもセックスは一般的に行われている」と力説しようとしたが、

 「結婚するまで待って」と大宣に言うという事は「大宣と結婚する気だ」「結婚した後大宣の子供を産むつもりだ」という事でイヤな気はしない。




 活字の虫である大宣は文系の頭だ。

 理系教科は苦手としている。

 そんな大宣が理学部に入ってしまった。

 一回生は基本的に一般教養教科がほとんどだ。

 専門教科が始まるのは二回生からだ。

 つまり二回生になると理系の知識が必要になってくるのだ。

 なので一回生のうちに理系の知識を身に着けよう。

 留年してもしょうがない、腐らず卒業しよう。

 大宣はサークルには入らなかった。

 遊んでいる暇があったら理系科目の勉強をしなくてはならない。

 だいたいお遊びサークルと合コンなどは異性との出会いを求めている事が多かったが、大宣にはすでに彼女がいたのでサークルに入る意味は既に半分以上なかったのである。

 しかも社会人である葵ちゃんを彼女にしているので、会える時間は貴重だ。

 サークルなどでその時間を潰す訳にはいかなかったのだ。





 アルバイトは最低限一人暮らしを行える程度にとどめておいた。

 大宣の母親は大宣が子供の頃行方不明となった。

 父親は後妻に夢中で、後妻は折り合いが悪い大宣を追い出し、自分の連れ子を大宣が住んでいた部屋へ住まわせた。

 大宣に懐いている血の繋がらない妹以外、あの家に大宣の味方はいない。

 一人暮らしに文句がある訳ではないが、一人暮らしをするにも大学に通うのにも彼女とデートをするにも先立つものは必要な訳で。

 こんな事になるんだったら後妻ともう少し仲良くしておくんだった。

 いや、後妻と仲良くするって事は大宣の食事に混ぜられた汚物や腐敗したものを食べるという事か?

 こちらがいくら歩み寄ろうとしても相手に「長男を追い出して、娘に土地建物を継がせる」という頭しかない限り一生わかりあえる訳もない。

 後妻の言いなりになっている父親に文句のひとつもなっかたではないが、大宣に対して「申し訳ない」と思う気持ちがあるからこそ、こうやって下宿代や学費の一部を払ってくれているのだ。

 葵ちゃんは最初学費や生活費を負担しようとした。

 「私は夫婦の財布は一緒でも良いと思うな。だから大宣君の必要なお金は私が払っても問題ないと思うの」葵ちゃんはそう言った。

 夫婦の財産を分けておくべきかどうか、様々な意見があるだろう。

 一つだけハッキリしているのは「大宣と葵ちゃんはまだ夫婦ではない。この場合金を出してもらうヤツの事をヒモと呼ぶ」という事だ。






 大宣の通う大学では二回生になると研究室に所属させられる。

 研究室に所属すると研究だの、論文だの、合宿だの、実習だの・・・で相当忙しくなるようだ。

 研究室によって忙しさは異なるようだ。

 例を出すと400字詰めの原稿用紙換算10枚以上の論文を提出すれば良い研究室もあれば、100枚以上の論文を提出させ、しかも何度も再提出させる研究室もあるとの事だ。

 大学生活を充実させるかどうかは研究室選びがとても大きなファクターを占めている。

 勉強をしたくない訳ではない。

 高校までの理数系の学力がない大宣にとって、正直これ以上の勉強はキャパシティオーバーだ。

 よくスポーツ入試、一芸入試の者が二回生、三回生の時にいつの間にか姿を消し、退学している。

 勉強についていけなくなって、単位を修得出来なくなったのだ。

 また新聞奨学生が二回生、三回生の時によく留年する。

 勉強と仕事を両立出来なくなったのだ。

 「よく考えて研究室を選ばなきゃな」研究室の説明会に参加していた大宣は呟いた。



 「あなたは私達の研究室に入るのよ。

 その約束でこの大学に合格させたんだから」

 大宣に語りかけてくる女性がいた。

 その女性は一芸入試で大宣の面接官であった大橋洋子であった。
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