超科学

海星

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魔術

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    「俺にとって大事な事は『卒業出来る事』です。

    それさえ可能ならどの研究室でもかまわない。

    ただ一つ教えて下さい。

    何故俺を入学させてくれたんですか?

    じゃんけんしただけじゃないですか」大宣は洋子に聞いた。

    「『じゃんけんしただけ』・・・ね。

    20回連続でじゃんけんで勝つ事が確率的にどれだけ凄い事だか本人にはわかってないのね」洋子は飽きれながら言った。

    「どれだけ凄くても、しょせんはじゃんけんじゃないですか」大宣は言った。

    今まで「じゃんけんで絶対に勝つ」という特技を誰かに披露しても「凄いね、で?だからどうしたの?」という態度を周囲にとられた。

    「結局はその凄さを活かせるかどうかで有用さは決まります」洋子は抑揚なく言った。

    「じゃああなたは俺の『じゃんけん負けなし』を何かの役に立てれるんですか?」

    「勿論です。

    プロスポーツ選手が死ぬほど努力をして超一流になる第一歩を踏み出せます。

    ですが、それ以前にそのプロスポーツ選手に天賦の才能がなければ努力は全て無駄になります。

    あなたには私がどれだけ努力をしても手に入らない才能があるのです。

    私に才能はありませんが、あなたの才能を活かす事は出来ます」

    「才能・・・ですか・・・。

    一体何の才能なんですか?」

    「魔術の才能・・・です」洋子は笑わずに言った。

    「その昔学者は賢者と呼ばれました。

    今は『専門化』するのが当たり前になっていますが昔は『優れた人間は何でも出来る』と思われていたのです。なので優れた発明をする者が絵を書いたりしていたのです」

   「レオナルド・ディカプリオ・・・」

   「レオナルド・ダ・ヴィンチね。

   その昔、色々な賢者が魔術を研究しました。

   賢者達にも様々な得意分野がありました。

   得意分野から様々な方法で魔術に対するアプローチが行われ、魔術は各分野毎に独自の進化を遂げました。

 賢者の教えは後の学問に引き継がれました。

 そして魔術の教えも各学問に残りました。

 全ての研究室で魔術の研究が行われている訳ではありません。

 むしろ魔術の研究をしている研究室の方が少ないでしょう。

 16世紀の初頭にヨーロッパで起きた『魔女狩り』により魔術の研究は地下に潜りました。

 キリスト教でない全ての力は当時『魔女の力』と言われたのです。

 おかげでどれだけ魔術が残っているのか、魔術を研究している我々ですら知りません。

 『魔術を研究している者同士が協力すれば良い』という意見もあります。

 魔術に限らず、学問は『早い者勝ち』という考え方が主流です。

 しかも昔から魔術の研究者の間で『魔術の真理に触れられる研究者は一人だけだ』と言われていて、足の引っ張り合いや殺し合いが行われてきました。

 私自身も研究者同士が協力するのはまだ早いと思います。

 言い遅れましたが我々の研究室では化学の立場から魔術を研究しています。」洋子は長々と説明した。

 「化学ばけがく?科学じゃなくて?」大宣は言った。

 「魔術は様々な学問で研究されています。

 呼び名も何もかも様々です。

 ですが一つだけどの学問でも共通している認識があります。

 それが超科学科学を超える存在だという事です。

 科学で証明出来る事象を魔術とは呼びません」
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