超科学

海星

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大切な事

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 集まった3人は研究室の中に通された。

 客はほとんど来ないようで、通された来客用のソファにはうっすら埃が積もっている。

 「ここではどんな研究がされているのかな?」少女が不安そうに呟く。

 よく見ると彼女は一芸入試の時、大宣の後ろに座っていた少女だ。

 洋子が面接したのは大宣だけだと思っていたが、大宣と後ろに座っていた少女を連続で面接したらしい。

 そりゃそうだ。

 面接予定者を二人連続で配置した方が効率的だ。

 不安そうに挙動不審な態度をしている少年少女とは違いもう一人の少女は堂々とした態度だった。

 もう一人の少女は魔術の何たるかを知っているようだ。

 その一人というのが招かれていない一般入試の生徒だというのが洋子の予想外ではあるが。

 ソファに3人は腰を下ろした。

 ソファは電車のボックスシートのような作りで詰めれば3人一つのソファに座れるが、大宣が一つのソファの真ん中に座り、その向かいに2人の女の子が座った。

 2つのソファの真ん中にはテーブルが設置されていて、来客用であろうか?ガラスの灰皿が置かれている。

 2つのソファの横にはホワイトボードが置かれている。

 ホワイトボードは最近買ったものだろうか?

 結構新品同様だ。

 金周りが良いのか、最近まで黒板を使っていて最近になってようやくホワイトボードを買えたほど貧乏かも知れない。

 ホワイトボードの前に洋子は立つと自己紹介を始めた。

 「ようこそ化学研究所へ。

 私はこの研究室で助手をつとめている大橋洋子よ。

 私はこの研究室の修士、院生・・・あなたたちの先輩にあたるわ。

 ここは化学を研究する場所であると同時に魔術を研究する場所でもあるの・・・説明が難しいかしら?」3人が顔を見合わせて、同時に頷く。

 「魔術は『科学を超えた存在』『超科学』と理解してください」洋子の説明に一般入試の少女以外の2人は微妙な顔をする。

 正直よくわからなかったのだ。

 「『超科学』という言い方がわかりにくかったかしら?

 『魔術はアニメでよくみるとんでも科学みたいなものだ』のほうがわかりやすかったかな?」

 あ、途端にわかりやすくなった。

 「先人達は科学でいう『ありえない』を魔術として研究したわ・・・結果、魔術は科学に敗北したの」

 「どういう事ですか?わかりにくいのですが・・・」

 「例えばだけど、ここに一人の魔術師とマシンガンを持った科学者が立っているとするわ。

 二人は対峙し科学者がマシンガンを持っている事に魔術師は気付くの。

 魔術師は慌てて魔術による防壁を作るわ、マシンガンで蜂の巣にされたくないからね。

 科学者は構わずマシンガンを魔術師に向けて乱射する。

 マシンガンが防壁を破るのは30秒くらいかしら?

 一事が万事そういう事なの」

 「どういう事ですか?」

 「魔術は科学に敗北したの。そういった争いを経て現在が『科学万能の時代』と呼ばれるようになったのよ。

    空を飛ぶ魔術の代わりに科学者は飛行機を生み出した。

    どんな攻撃魔術より科学者が生み出した核兵器の方が威力が高いでしょう?」

 「ですが魔術は存在している、違いますか?」

 「そうね、魔術の研究は今でも細々と行われているわ。

 その研究室にあなた方は来たの」

 「質問があるのですが・・・ここは化学研究室ですよね?科学は魔術を研究しないのですか?」

 「神秘の力を否定するのが科学よ。

    科学者は言う。

    『全ては科学で説明がつく』

    科学で説明がつかない事象を科学は認めていないの。

 なので魔術は科学によって否定されているわ。

    科学は魔術を研究していないし、認めていない。

    科学は徹底した『実証主義』だけど、魔術は徹底した秘密主義で、身内の前や殺す事が前提の敵の前以外で魔術を行使する事はないわ。

    あなた方が『魔術を見た事がない、その存在すら知らない』事でも魔術が秘匿されてきた事はわかるでしょう?

    一言で言うと『科学と魔術は相性が悪い』の。

    『目の前で見ないと存在すら認めない科学』と『相手に見せないように秘匿している魔術』が相容れる訳がないの」

    「科学が魔術の研究をしていない事はわかりました。

    では、この化学研究室がどのような魔術の研究をしているのか聞いてもよろしいでしょうか?」

    「まだ勉強中の立場で全ての研究を把握している訳ではないけどわかる範囲内の質問に答えさせてもらうわね。

    あなた方も『化学反応』という言葉を聞いた事があるでしょ?

    『燃焼』『溶解』『凍結』『爆発』『放電』これら全てが化学反応。

    これらの『化学反応』を魔術の力を借りていつでも行使しようとしているのが我ら『化学研究室』って訳」

    「化学がどのような魔術の研究をしているのか、おぼろ気ながらも理解出来ました。

    あと秘密主義なのは承知の上で、他の学問がどのように魔術を研究しているのか解る範囲で教えてもらえますか?」大宣は答えてもらえないのを承知で質問した。

    「とぼけている訳ではなく、本当に知らないのよ。

    私の知っている範囲という事ならば・・・

    以前地学研究室の近辺を調査していた時、道端の岩が突然爆発した事があったわね。

    あれは『これ以上詮索するな』という地学研究室の警告だったと思うのだけれど・・・

    地学研究室では鉱物に魔力を込め、魔術を行使する力があると推測されるわね。

    あとはあまり秘密主義じゃない研究室くらいしか知らないわ。

    宗教学研究室では過去に行われていた呪いと魔術の関係を調査しているようね。

    トライ&エラーで、あまり大きな発見は今のところないみたいだけど。

    治療に関する魔術は宗教学研究室にしかないみたい・・・存在が隠されている可能性もあるから言い切れないけど。

    その昔、魔術や呪いが医療に利用されていたという証拠みたいなものね・・・。

    私は本当にこれくらいしか知らないのよ。

    研究室の教授だったら、研究者同士の横の繋がりがあるかも知れないし情報共有しているかも知れないけど。

    というかこの研究自体が『知りたい情報は自分で調べる事』みたいな暗黙のルールがあるから、私が教えられる事は限られてるんだけどね・・・。

    右も左もわからないだろう新人のためにサービスで言える範囲内の話は全てしたつもりよ。

    では最も大事な事をしましょう」いたずらな笑みを浮かべて洋子が言う。

    「最も大事な事?」大宣は問い返した。

    「そう、研究室のオリエンテーションで一番最初にしなきゃいけない最も大事な事・・・それは自己紹介!」 
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