鬼斬忍法帖

海星

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買い物

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 服を買いグッタリしていると悠子さんが「何をグッタリしているの?これからが本番でしょ?」と言った。

 何で女性は買い物が好きなんだろうか?

 俺は女になっても買い物は好きにならないし生物学的なモノではないのかも、と思った。

 「そういや生活雑貨がまだ買ってなかったですね。

 お・・・私もカーテンとか便座カバーとか必要だと思ってたんです」と俺は虚勢を張った。

 買い物に付き合ってもらいながら、先に疲れを見せるのは悠子さんに失礼だと思ったのだ。

 「何言ってるの?

 あなたの下着をまだ買ってないでしょ?」悠子さんは呆れながら言った。

 「下着なんてコンビニで買うから良いです!」俺は慌てて言った。

 「ダメよ。

 コンビニで可愛い下着なんて手に入らないし、それよりブラなんてコンビニで売ってないでしょ?

 何より問題なのはコンビニで売ってる下着って上下セットじゃないし可愛くないのよ!だから安物はダメなのよ!」悠子さんは憤慨しながら言った。

 「いや何がダメなのかわかりませんし、可愛くなきゃいけない理由もわかりませんし、コンビニの下着が安物という理屈もわかりません。

 コンビニで下着を買うのはユニクロとかしまむらが閉店しててしょうがなく下着が必要になった時、コンビニで高いってわかりつつも下着を買わざるを得ない時じゃないですか?」俺は本心で言った。

 女性用下着にこだわりたくない。

 女性下着売り場に長居したくない。

 女性用下着で悠子さんの着せ替え人形になりたくはない。

 それより何より、女性用下着を着たくない。

 それらもあるが俺は本気でコンビニでボクサーパンツを買うつもりだったのだ。

 CMで女性モデルがボクサーパンツをはいているのを見た。

 俺はトランクス派でボクサーパンツなんて何か恰好つけている感じでいけすかなかったけど、女性用下着を履くよりは何倍もマシだ。

 ブラジャーはしないつもりだったが、していない事を悠子さんに怒られてしまったので追々ネットで買おうと思っていた。

 ネットは危険はあるがある意味万能だ。

 送料は発生するのであまり安い買い物には向かないが、何でも買う事が出来る。

 また輸送期間がどうしても発生するので急ぎの買い物は出来ない。

 今回みたいに毎日履く下着がすぐに必要になるケースではネット通販は活用出来ない。

 なので背に腹は代えられず、しかたなくコンビニで当面の下着を買おうと思っていたのだ。

 本来「コンビニで下着を買う人は金持ちだ」俺は本気でそう思っていた。

 だってそうだろう?トランクス一着が千円するんだぜ?

 しまむらなら柄も選べるし二着は買える。

 なのに悠子さんはコンビニの高級品の下着を「安物」という。

 何なんだ?この見解の齟齬は・・・

 「下着は別の日に調達します!まだ揃えなくちゃいけない物沢山あるんでそれを揃えましょう!」俺は少し強めに言った・・・つもりだった。

 「あなたはちょっと強めに言ったつもりかもしれないけど、今のあなたは小動物が威嚇してるみたいで可愛いわよ。

 ・・・まあ良いわ。

 あなたが必要だと思う物・・・それも忘れず買います。

 だけどそれは今日じゃないわ。

 私は一度も『今日買い物を終わらせる』なんて言ってないはずだけど?

 明日も買い物は続行するわ。

 春休みは買い物に費やすと最初に言えばよかったわね。

 勘違いさせてしまったのならばごめんなさい。

    もちろんこの後も買い物を続行するわ。

    何せこの後あなたの着る制服をオーダーメイドしないといけないからね」と悠子さんは当たり前のように言った。

    ・・・だんだんわかってきた。

    悠子さんにとって買い物は楽しむもので、面倒臭い用事ではないのだ。

    そういった面倒臭い買い物は家の者が済ませてくれるのだ。

    悠子さんは自分が「楽しい」と思う事だけをすれば良いのだ。

    悠子さんはカードを提示しているだけで、金すら払っていない。

  どおりで楽しそうに買い物をする訳だ。

    悠子さんにとってアメックスのブラックカードは「何でも手に入る魔法のカード」なのだ。

    普通カードで買い物し過ぎると月末地獄をみる。

    カード地獄なんて言葉もあるくらいだ。

    だが悠子さんは誰か身内の者が自分の買い物の決済のために金を払っている事を知らない。

    金を払っている者にとっても、悠子さんが使った金額は端金でしかないのだ。

    悠子さんがカードで数百万円使う事は、俺がジュースを買おうとして自販機の下に1円玉を落としてしまい「まぁいいか、1円玉だし」と思う感覚によく似ているのだろう。

    ちょっと待て。

    もう春休みが始まって、数日が経過している。

    引っ越しだって遅すぎたくらいだ。

    ギリギリまで父親と祖父が一人暮らしを認めてくれなかったからだ。

    故郷がある和歌山から高校がある三重まで通うのは一人暮らしするのよりもお金がかかる。

    俺の家族の家計は主に祖父の万引に支えられていた。

    そんな俺の家族の生活をドキュメンタリーで追ったらカンヌ国際映画祭で最高賞くらいは取れそうではあるが、祖父は口グセのようにこう言っていた。

    「ワシは万引で捕まった事がないんじゃぞ?凄いじゃろう!?」

    俺が中学生だった頃「俺は万引で捕まった事がないんだ、凄いだろ!?」と自慢気にそこら中で言っていた同級生がパッタリと静かになって「こりゃ捕まったな」なんて思ったもんだが、同級生が捕まらずに大人になると祖父のようになったんだろうな、と思う。

    「忍者は知らない者が見ると無職である」誰が言ったか知らないがその通りなのだ。

    近所の人達は俺の家を噂し「無職の女装趣味の変態亭主に奥さんは愛想尽かして出ていったのよ。

    残された無職の男共は生活保護を受けて生活しているのよ」と陰口を叩いていた。

    俺は義務教育の間は学校に通えていた。

    小学校の時、給食費を払った事はなかったが基本的にお金がかからなかったからだ。

    でも遠足、修学旅行などお金がかかる行事に参加した事はなかった。

    石川家では「労働は害悪、盗みこそ正義」という考えがまかり通っていた。

    父親はコソ泥であったが、女装してお巡りさんに説教されて以来、面が割れてしまっていたのでコソ泥としての仕事は激しく制限された。

    なので生活の術は祖父の万引しかなかったのだが万引は基本的に現物支給である。

    金銭は手に入らない。

    俺が高校に通うには学費が必要だ。

    肉親には何も望まない。

    ここまで育ててくれた事に対しての感謝は多少はあるが、祖父の万引に感謝するのも父親の窃盗に感謝するのも何か違う。  


    俺は石川家の家訓で家族の目の届く所での労働は禁じられた。

    なので俺が高校に通うには一人暮らしをしながら遠隔地でアルバイトをして学費を払うしかない。

    でも遠隔地、他県で中々県立高校は願書も受け取ってくれない。

    一人暮らしでアルバイトをしながら生活するなら私立高校には金銭的には通えないのだ。

 教育に県税を投入するのだから、才能のある高校球児でもない限り越境入学は難しい。

 俺は願書の隅に忍者にしかわからない符牒サイン を書き込んだ。

 この符牒を見て俺を入学させる忍者に理解がある学校がもしかしたらあるかも知れない。

 「この際、利用できる物は全て利用しよう」というダメモト精神ではあったが。

 全国の県立高校に願書を送り、引っかかったのが『三重県立焼蛤高等学校』だけであった。

 焼蛤高校に入学出来なければ高校には入れない。

 中卒で働く事にそれほど抵抗はないが、泥棒にならなきゃいけない事には激しく抵抗があった。

 だから焼蛤高校から合格通知が届いた時には天にも昇る心地だった。

 そして幼馴染みの女の子から借金をして入学金を払った。

 何でもそのお金は子供の頃から貯めていた結婚資金らしい。

 中学生が出来る金儲けなどは新聞配達くらいしかなく、借金返済と引越し費用を稼ぐため親には内緒で必死で新聞配達をしていたため高校の近くに引越しを決めたのが入学ギリギリになってしまったのだ。

 そう言えば、入学案内の書類の中に「卒業生から制服の贈与を希望しますか?」という欄があって、丸をつけたな。

 さすがに制服を買う金銭的な余裕はないので、こういった制度はありがたい。

 だけど俺が贈与を申し込んだ制服は男子用だ。

 今の俺には男子用の詰襟ではなく女子用のブレザーが必要になるはずだ。

 もう贈与を申し込む事は出来ない、遅すぎるのだ。

 ふと思う。

 制服がない場合どうすれば良いのだろう?

 裸で学校に行けば良いのだろうか?

 いや、既製品としてちょっと大きなスーパーマーケットの制服売り場に売っている制服を買う金ならなんとかある。

 足りなければ情けない話だが悠子さんに頼み込んでお金を借りよう。

 「金の切れ目が縁の切れ目」と言うが、出て行った母親が幼い俺に「『金がない』という事は『首がない』という事と同じなのよ」と繰り返し言い聞かせていたし、実際その通りだと思う。

 借金は基本的にはしない方が良いが、借金をしなくては全てが回らないというシチュエーションも否定しない。

 会社の資金繰りの資金、カーローン、住宅ローン・・・全てがある意味借金だ。

 なので制服は買う。

 借金しても買う。

 高校生としてどうしても必要な物だ。

 だけど・・・オーダーメイドって何だ?

 いや知ってるけどさ、制服にオーダーメイドってあるのか?

 それに春休み半ばに注文して入学に間に合うものなのか?

 「オーダーメイドって今から間に合うものなんですか?」俺は悠子さんに聞いた。

 「あなたも帝王学として覚えておくと良いわ。

 『間に合わない』と言われたら倍のお金を払うの。

 それでも『間に合わない』と言われたらさらにその倍のお金を払うの。

 大概の事はお金で解決するわ」悠子さんは何とも救いようのない事を言った。

 俺が帝王学を学んでどうするんだ?

 万引きで何とか食いつないできた帝王なんているのか?

 というか、吊るしの制服を何とか買うだけの金は用意できるけど、オーダーメイドの制服の数倍の値段を払う余裕はない。

 ここは丁寧にオーダーメイドの制服を断ろう。

 ・・・という名目で悠子さんが下着を買う事を忘れているうちに既成の制服を買いに売り場を移動しよう。

 女性に下着姿を見られるだなんて・・・もしかしたら勃っちゃうかも知れない。

 ・・・何が勃つというのか?

 四肢を切断した人が「切断して存在しない部位が痛い」という事を『ファントムペイン』などと言うらしいが、「存在しないイチモツが勃つ」なんていう事はあるんだろうか?

 その現象を何と言うんだ?

 『ファントムエレクト』?

 エレクトしてどうする?

 そんなくだらない事を俺が考えていると・・・

 「言ったでしょう?

 お金の事なら心配するなって。

 それに今はまず下着を選びましょう。

 別に制服をオーダーメイドするのは明日でも良いんですから」と悠子さんが言った。

 忘れてなかったのね・・・ 
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