鬼斬忍法帖

海星

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ステレオタイプ

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 服と下着と制服を買ってその日はお開きになった。

 次の日の日用雑貨の買い物に悠子さんは来ず、悠子さんの召使いが何人も来た。

 おかげで荷物は持たなくてもよかったが、前日のような悠子さんのおごりは全くなく、かなりお金を使った。

 当たり前だ。

 召使いが勝手に主人の金を使う訳がない。

 前日、一切金は使わなかったが本来これが当たり前だ。

 召使いの人達は悠子さんの一人暮らしのための買い物をしていた。

 召使いの人達の買い物を見ていると悠子さんは炊事・洗濯はしないようだ。

 元々悠子さんの家と下宿は近所なので、炊事も洗濯も召使いの人達が悠子さんの家に持ち帰ってやるようだ。

 まあ、悠子さんは掃除をやるのかも怪しいのだが。

 普通に考えれば掃除だって近所に住んでる実家の召使い達がやるだろう。

 悠子さんにとって下宿は「実家のはなれ」みたいなものだと思う。





 そして下宿にオーダーメイドの制服が届いた。

 しかし、自分の体のサイズにキチンと合わせた服がこんなに気持ちが良いとは思わなかった。

 体に張り付くとでも言うんだろうか?

 まあちょっとスカートは短すぎるが。

    しかしよく考えたら一流デザイナーにデザインされた私立高校の制服ならまだしも、県立高校の制服作らせるって大概だな。

    デザイナーも断れよ。




    やろうと思っている事がいくつかたまっていた。

    いつも思っている事が「男に戻る」事だ。

    だがどうやったら男に戻るのかは不明だし、根気よく戻る方法を探っていくしかない。

    探っている間も生きて学生として生活していかなくてはならない。

    別に女性として生きていく事を許容した訳ではないが、しばらくは女性として生きていかなくてはならない。

 なので、ある程度引っ越し先に慣れたらやろうと思っている事があった。

 バイト探しだ。

 仕送りがなく幼馴染みから借金をしている以上、バイト探しは急務であった。

 しかもある程度割の良いアルバイトでないと学校に通いながら、家賃と食費と水道光熱費と学費を払いながら借金は返せない。



 ・・・完全に俺の失態であった。

 悠子さんなら顔も広いし、割の良いバイトも紹介出来ると思っていたのだ。

    悠子さんに相談した時

 「だったら私の近侍バレットをしなさい。

 あなたは私と一緒に住むのだから丁度良いわ。

 あなたも見たと思うけど私直属の召使いは皆、忍者だから。

 あなたも私の側近として忍者の腕を磨きつつも、周りから『忍者とは何なのか?』を学びなさい」

 確かに俺はあまり忍者を知らない。

 俺の知っている忍者はどいつもこいつもただの窃盗犯の小悪党だ・・・身内の悪口は言いたくないが。

 「忍者とは何なのか?」という命題とも言える部分を学びながら、忍者のスキルも上げられる。

 その上少なくない金銭まで手に入る。

 こんな良い話は他にはない!・・・と思った時期が俺にもありました。




    次の次の日、俺あてに荷物が届いた。

    オーダーメイドの制服を作った服屋からだ。

    「後から、作った制服を送ってきたのかな?別に入学に間に合えば良いんだから前に送った分とまとめて送ってくれば良いのに・・・」俺は首をかしげた。

    それにしても前回の発送に間に合わなかった分にしては量が多すぎる。

    何せ前回の発送より量が多いのだから。

    ハッキリ言ってこの服の量は迷惑だ。

    引っ越し荷物が大きめの段ボール箱三個なのに、服屋から届いた大きめの段ボール箱は前回と合わせて八つになる。

    これだけ服があってもしまう場所がない。

    しかも、悠子さんと買った普段着と部屋着と下着とオシャレ着も合わせると大きめの段ボール箱十五個分は軽くあるだろう。

    「しょうがない。

    金は惜しいけどホームセンターで透明の衣装ケースをいくつか買うか」と俺はため息をつきながら届いた段ボール箱を開けた。


    「何だよ、コレ?」俺は首を傾げた。

    中に入っていたのはメイド服だった。

    送付ミスではないようだ。

    メイド服はキッチリ俺のサイズのようだ。

    そう言えば制服を作る時に隅々まで採寸したんだ。

    制服じゃなくても他の服だって作ろうと思えば作れるんだ。

    あくまで「作ろうと思えば」だが。

    俺が制服を作った服屋で一般人が服をオーダーメイドで作ろうと思ったら半年はタダ働きしなきゃいけない。

    だいたいメイド服なんてオーダーメイドするヤツはいない。

    メイド服はドンキのパーティグッズ売り場で数千円で買うものだ。

    しかもだいたいが薄い布地か紙か化学繊維で出来た物で「洗濯しないでください」という注意書付きで一回しか使えないし、一発ネタなんで一回使えれば充分だったりする事がほとんどだ。

    しかしその一発ネタが多すぎてメイド服姿はいつの間にか「ワンパターンのステレオタイプ」と言われるようになる。

    特にネコミミメイドはありふれ過ぎてもはやメイド喫茶と風俗店でしかお目にかかれず、一般人がふざけてネコミミメイドのコスプレをしたら訓練された秋葉原にいる連中は舌打ちをしながら「死ね」と呟くだろう。


    なのに今、目の前にオーダーメイドのメイド服がある。

    俺の頭の中が「?」で一杯になっていた時、悠子さんから連絡用に借りているスマホに電話があった。

    「あ、さきちゃん?

    仕事着届いた?

    早ちゃんにはその恰好で仕事してもらうから。

    でも私とした事が大事な物を注文し忘れちゃったのよね。

    『画竜点睛を欠く』とはこの事ね」

    早ちゃんとは俺の事らしい。

    まあ一緒に住むのにいつまでも「あなた」なんて他人行儀に呼ばさせる訳にはいかないんで、呼び方が変わるのが早いか遅いかだけの話で「名前+ちゃん付け」なら珍しくもないし悪くもない。

    しかし仕事着がメイド服なのか・・・俺ら庶民の間では「今さらメイド服はナシ」だけど、上流階級ハイソサイエティの間ではメイド服って未だにアリなのかな?

    「何を入れ忘れたんですか?」俺は平静を装い言った。

    あんまり騒ぎ立てて条件の良い仕事を失ってはいけない。

    「メイドカチューシャと黒ストッキングよ」悠子さんは恥ずかしそうに言った。

    まるで悠子さんは「こんな常識的な物を忘れるなんて・・・」とでも言いたげだ。

    「ダウト!

    本場のメイドさんはメイドカチューシャもしないし、スカートはこんなミニスカートじゃなく長くて足は見せないからストッキングなんてこだわりはいらないんです!」俺は思わず叫んでしまった。

    「本場の事なんて知らないわよ。

    ていうかメイドの本場ってどこなのよ?

    イギリス?

    そんな不明瞭なふわふわした話はどうでも良いの。

    私は私の意思で私の下で働く早ちゃんの仕事着を決めたわ。

    よそがどうかなんてクソ食らえよ」悠子さんはサラッと言った。

    ・・・何てこった・・・俺がメイド服を着るのはもう決定事項らしい。

    「このメイド服がお・・・私の仕事着なのはわかりました。

    もう一つお聞かせ下さい。

    私の仕事場はどこなのですか?」もうこの恰好をするのは避けられない。

    だったらどこでこの恰好をするのか聞いておくべきだろう。

    聞いたところで決まるのは覚悟だけでほとんど何も変わらないが。

    「どこって早ちゃんは私の近侍よ?

    私のそばがあなたの仕事場になるわ。

    私の近くにいるのだから下宿にいる事が多いと思うわ」と悠子さん。

    まあ下宿でだったらどんな恰好でも良いか。

 「あとは買い物にも行ってもらうわ」と悠子さんは言った。

    悠子さんの買い物好きは痛いほど実感している。

    買い物が多いのも悠子さんの特徴だ。

    色々な場所に買い物に行くのだろう。

    ・・・と言う事はメイド服でどこにでも行くという事か・・・。
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