鋼鉄のアレ(仮題)

海星

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プロローグ

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体感的には何秒か前に横になっただけだ。
「失明してしまうので目だけは閉じておいて下さい」と言われ、言われた通りにしていたので、目を閉じていた間に何が起きていたのかは知らないのだが・・・。
酸素カプセルのようなものの中で横になり、冷気がカプセル横から「プシュッ」と出て「冷てっ!」と思った瞬間今に至る・・・と言った感じである。

「今はいつなんだ?俺が眠りについてからどれくらい時間が経っているんだ?」
俺がまず聞いた事はそれだった。体感的にはさっき横になったばっかりだったが、眠る前にいた人々が一人もいない事、眠る前と景色が一変していた事・・・などで体感以上に時間は経過していた事は嫌でも理解できた。
数か月、いやもしかしたら数年経過していたかも知れない。
難病に侵されていた俺は発病してしまえば数日で命を落とす。生き延びる方法はワクチンが見つかるまで、開発されたばかりである新技術『コールドスリープ』で眠りにつき、ワクチンが開発されるまで眠りにつく・・・というものだった。
コールドスリープ自体、金銭が莫大にかかるらしい。
このタイミングであれば臨床試験の被験者として金銭を支払うどころか、残された家族に少なくない金銭が支払われる。
どうせ死ぬのであれば、数少ない可能性に賭けたい。そうでなくても指定伝染病に感染した俺は隔離され余生を過ごさなくてはならないのだ、意識のない状態でコールドスリープし、カプセルの中に閉じ込められるか、意識がある状態で発病し死ぬまで狭い部屋に閉じ込められるかだけの違いだ。
家族や友だちとしばらく離れなくてはならないのは辛いが、病気になった事がわかった途端にどうせ隔離され会えなかったのだ。
目を醒ました途端、俺に女性看護師が俺の左腕に注射をした。
「ワクチンの投与は完了しました。これにて治療は完了いたしました」女性看護師が医師に言う。
おいおい勝手にワクチンを投与すんなよ、インフォームドコンセントって言うだろ?患者への治療説明も病院の仕事の一つだぜ?
・・・と言っても、指定伝染病に感染したと言われた時、目の前が真っ暗になったし、ワクチンがある時代に目を醒ますようにコールドスリープしたんだから、ワクチンを投与するかどうかなんて聞くまでもない愚問なんだけど。
「今は2307年の3月です。あなたがコールドスリープをしたのが1997年の3月なんで丁度310年後ですね」
何が「丁度」なのかわからないが、300年以上コールドスリープしていたようだ。
もう知り合い達はとっくに寿命を迎えているだろうし親類の子孫達はいるだろうが、初めて会う人々に「君らの先祖だ」などと言う気はない。
「先に行っておきます。あなたの血縁者はいません。いましたが先の大戦でいなくなりました。というより血縁者が生き残っている者の方が珍しいのです。先の大戦で人類の99/100は死滅しました。あなたは『ここにいるのは女ばかりだな』と思いませんでしたか?先の大戦で成人男子のほとんどが兵士として戦場へ赴き、命を落としました。生き残りの成人男子も軍部に残り、街中にはいません。あなたは珍しい軍人でない男性・・・という事ですね」
何でも30年前まで「第三次世界大戦」が世界各地で勃発していたらしい。
「核の報復は核で」核が抑止力になるのは核兵器が使用されるまでだったらしい。恨みは連鎖する。核ミサイルが地球上を飛び交い人類は滅亡しかけた。
人類滅亡寸前に停戦が成立した。
日本は島国で国土が狭いせいか爆撃はされたが核攻撃はされなかった。
だが日本はまだマシで他の戦場になった国では男女関係なくほぼ全滅したとの事だ。
日本では男性がほぼ全滅したが女性は数多く生き残った。

俺は「ハーレムで女抱き放題なんじゃねぇか?」と内心思っていた。
俺のいやらしい笑みを見たのだろう。女性医師が俺に釘を刺してきた。
「男は少ないですが人工授精の技術も進みました。あなたの子孫を残すという事はあるかもしれません。ただその際性交渉は行いません。精液をサンプリングさせていただきます。それに男性は少ないですが冷凍精子は数多く保存されています。女性は優秀な遺伝子を選び放題です。あなたの子孫がどこかで生まれていたとしてもそれをあなたが知る事は決してありません。考えて下さい、コールドスリープの技術がこれだけ進歩しているのに人工授精の技術が進歩していないなんて事あり得ないでしょう?」
スケベ心を見透かされたせいか俺は言い訳がましく言った。
「別にセックスだけしたい訳じゃないし・・・。自分の子孫を残したいだけだし・・・」
「あなたの精液を必要とする人がいない訳ではありません。優秀な遺伝子は人気があり、皆が必要としたせいで近親交配気味が最近の傾向です。ですので体質的に強い、コールドスリープしている者の精液を組み込もうとする者も最近は増えてきました。ですが先ほども言いましたがあなたの冷凍精子を求める女性がいたとしてもそれをあなたが知る事はありません。多くの精液を必要とされる事をハーレムと言うならあなたはハーレムを作る事が出来るかもしれません。あなたがしたい事が沢山の女性との性交渉ならば、その可能性は絶望的に低いでしょう。ただ・・・」
「ただ?」俺は女性医師のセリフをオウム返しした。
「男性と恋愛したい、性交渉したいという女性がいない訳ではありません。男性と比べれば女性は多いです。色々な考えの女性が存在します」女性医師は俺にフォローを入れた。
何も状況は変わらない。何百年経っても俺はモテないらしい。
俺は空しくなって会話を変えようとして言った。
「この時代で前向きに生きて行こうとは思うんだけど如何せんこの時代の事を何も知らないんだよね。案内してもらえないかな?」
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