2 / 101
第一章:独裁の萌芽!?華の国ツバキ市の腐敗
第2話:仕事は雑用!?こっちの世界の男の価値
しおりを挟む
「今日の予定はキャンセルして、至急ナンシャンホテルにむかってくれ」
職場に着くなり、上司からそう言われた。
今日は市のお偉いさんが小学校を訪問するので、その警備の予定であった。
警備といっても、SPなんかでなく、周辺の交通整理だ。
とは言え、お偉いさんの仕事より優先するような仕事などほとんどない。
「何かあったのですか?」
「ああ、何でも死体が出たらしいのだが、かん口令が引かれててね、よく分からないんだ。ただ、現場の保全に人が必要とのことなんだ」
――なるほど、いずれにせよ雑用か。
「わかりました。すぐに向かいます」
そう言って交番を出ようとする俺に上司は、こう声をかけた。
「ルー、わかってるね。ヘマはしても目立っちゃダメだよ」
「分かってますよ。この国の鉄則ですから」
「その通り。今回は何故か武装警官の連中まで出てるそうだよ」
「それは、物騒ですね、仕事するふりして隠れてますよ」
「じゃ、今日の日当は、必要ないかな。」
上司はそうニヤリと笑って俺を送り出してくれた。
「勘弁してくださいよ、帰りにホテルのお土産でも買ってきますから」
俺も軽口で返して、部屋を出た。
俺の上司、交番の副所長は、とてもいい人だ。伊達に男で副所長まで出世した訳じゃない。
この国、いやこの世界は、女性が支配している。
国や組織の主要ポストは、例外なく女性だし、役職が付くポストならどんな低いポストでも大抵は女性だ。
『すべての男は消耗品である』なんて本が日本では売っていたが、この世界では文字通り、ほとんどの男は肉体労働を提供するだけの消耗品であった。
そんな世界で男が肩書き持つためには、能力だけでなく、性格、信条、そして、運も最大限に持っていなくてはならない。
圧倒的女性優位、それがこの世界だ。
(主要ポストがおっさんどころか、前期高齢者だった日本よりはましなのかな)
ここ数日、日本の記憶もある俺は、こうやって、それぞれの世界を反対側の立場から見ることを楽しんでいた。
□ ■ ◆ ■ □
ナンシャンホテルに着くと、すでに現場は、整理された後で、立ち入り禁止のゾーニングまでされている。
俺は、現場監督者らしき人物を見つけ、声をかけた。
「ルーと言います。応援に来ました」
「あ、男か、使えねーな、来るのも遅いし。お前は現場の前で見張りだ。関係者以外入れるなよ」
現場監督(もちろん女性だ。)は、そう俺を罵倒しながら指示を出した。
見張り。
つまり、一日中動かず立っとけという指示だ。
「そ、そのどのような事件で?」
俺は情報整理のため、そっと聞こうとした。
「あ、とっとと行かないか!!」
現場監督は、ギロりと睨みながら、俺に叫んだ。
「は。はい。申し訳ありませんでした」
そう答えて、俺は逃げるように持ち場に向かった。
ナンシャンホテルは、ツバキ市の高台にある、長期滞在用の高級リゾートホテルだ。
メインのホテルの他、コテージがいくつかある。
死体が出た現場もそのようなコテージの一つだ。
コテージと言っても高級住宅のようなもので、一般人が泊まれるような場所ではなかった。
俺の月給では一時間分にもならなそうだ。
「応援に来ました。交代します」
警備をしていた女性にそう声をかけた。
「そう、よろしく」
警備していた、若いおそらく新人である女性は、特に礼もなくそう答えて、コテージの中に入っていった。
この女もすぐに上に立ち、男を消耗品のようにこき使うようになるんだろう。
俺は彼女が立っていた場所に同じように立ち、警備についた。
1日ずっと立っている。それが俺の今日の仕事になった。
いつまでなのか、交代はあるのか、トイレはどうするのか。そんなことは、上は一切気にしない。
特に警備してるのが男ならなおさらだ。
ま、こちらも適当に力を抜くのだから、お互い様だが。
この世界では何事も目立たずが鉄則だ。
ただ立っている事以外やることがなくなった俺は、元の世界と今の世界を頭の中で比較し始めた。
この世界では、国に関わらず女性が支配している。
民主主義の国も、独裁の国も色々あるが、支配層が女性で占められているのは変わりない。
そんな世界で俺《ルー》は、華の国で生まれ、警官として暮らしている。
華の国は、一党独裁で共生主義を標榜する国である。
世界三大文明の一つに挙げられる歴史を持ちながら近代化に失敗し、当時の列強国からの侵略を受けた時代もある。
今は世界有数の人口を武器に、急速に大国として台頭している。
(まるで父さん《上点々》そっくりだな……)
俺は日本のネット民が隣国を皮肉で煽る時の呼び名を思い出していた。
そう、華の国は、歴史、文化、統治システムなど、日本の隣国と共通点がたくさんあった。
その一つが一党独裁だ。
この国も党が国の上にたち、党の指導によって国を導くという名目で党が国全体を支配していた。
俺の所属する警察機構(公安と呼ばれる)もある一定以上から上の役職は党の党員が就いている。
そして、男で、下っぱの俺が党員になれないのは言うまでもない。
「!?」
気配を感じて、俺は緩んでいた気を引き締めた。
まだ見えないが猛烈なプレッシャー放つ何者かがこちらに近づいて来るのが分かる。
上司が言っていた武装警官だろうか。だが、武装警官は、対犯罪組織の実力部隊。しかもエリート中のエリート部隊だ。こんな現場に来る理由なんて思い付かない。
プレッシャーがより強くなった時、ひとりの姿が見えた。
俺はあまりのプレッシャーに、複数人、それこそ武装警官一部隊を想像していた。
しかし、そのプレッシャーを放っていたのは一人であった。
トレードマークの赤い髪と燃えるような瞳。
現れたのは、この市では知らぬものはいない実力者。公安と武装警官トップを兼任する、市のナンバーツー。
――オウ・アルシャンであった。
職場に着くなり、上司からそう言われた。
今日は市のお偉いさんが小学校を訪問するので、その警備の予定であった。
警備といっても、SPなんかでなく、周辺の交通整理だ。
とは言え、お偉いさんの仕事より優先するような仕事などほとんどない。
「何かあったのですか?」
「ああ、何でも死体が出たらしいのだが、かん口令が引かれててね、よく分からないんだ。ただ、現場の保全に人が必要とのことなんだ」
――なるほど、いずれにせよ雑用か。
「わかりました。すぐに向かいます」
そう言って交番を出ようとする俺に上司は、こう声をかけた。
「ルー、わかってるね。ヘマはしても目立っちゃダメだよ」
「分かってますよ。この国の鉄則ですから」
「その通り。今回は何故か武装警官の連中まで出てるそうだよ」
「それは、物騒ですね、仕事するふりして隠れてますよ」
「じゃ、今日の日当は、必要ないかな。」
上司はそうニヤリと笑って俺を送り出してくれた。
「勘弁してくださいよ、帰りにホテルのお土産でも買ってきますから」
俺も軽口で返して、部屋を出た。
俺の上司、交番の副所長は、とてもいい人だ。伊達に男で副所長まで出世した訳じゃない。
この国、いやこの世界は、女性が支配している。
国や組織の主要ポストは、例外なく女性だし、役職が付くポストならどんな低いポストでも大抵は女性だ。
『すべての男は消耗品である』なんて本が日本では売っていたが、この世界では文字通り、ほとんどの男は肉体労働を提供するだけの消耗品であった。
そんな世界で男が肩書き持つためには、能力だけでなく、性格、信条、そして、運も最大限に持っていなくてはならない。
圧倒的女性優位、それがこの世界だ。
(主要ポストがおっさんどころか、前期高齢者だった日本よりはましなのかな)
ここ数日、日本の記憶もある俺は、こうやって、それぞれの世界を反対側の立場から見ることを楽しんでいた。
□ ■ ◆ ■ □
ナンシャンホテルに着くと、すでに現場は、整理された後で、立ち入り禁止のゾーニングまでされている。
俺は、現場監督者らしき人物を見つけ、声をかけた。
「ルーと言います。応援に来ました」
「あ、男か、使えねーな、来るのも遅いし。お前は現場の前で見張りだ。関係者以外入れるなよ」
現場監督(もちろん女性だ。)は、そう俺を罵倒しながら指示を出した。
見張り。
つまり、一日中動かず立っとけという指示だ。
「そ、そのどのような事件で?」
俺は情報整理のため、そっと聞こうとした。
「あ、とっとと行かないか!!」
現場監督は、ギロりと睨みながら、俺に叫んだ。
「は。はい。申し訳ありませんでした」
そう答えて、俺は逃げるように持ち場に向かった。
ナンシャンホテルは、ツバキ市の高台にある、長期滞在用の高級リゾートホテルだ。
メインのホテルの他、コテージがいくつかある。
死体が出た現場もそのようなコテージの一つだ。
コテージと言っても高級住宅のようなもので、一般人が泊まれるような場所ではなかった。
俺の月給では一時間分にもならなそうだ。
「応援に来ました。交代します」
警備をしていた女性にそう声をかけた。
「そう、よろしく」
警備していた、若いおそらく新人である女性は、特に礼もなくそう答えて、コテージの中に入っていった。
この女もすぐに上に立ち、男を消耗品のようにこき使うようになるんだろう。
俺は彼女が立っていた場所に同じように立ち、警備についた。
1日ずっと立っている。それが俺の今日の仕事になった。
いつまでなのか、交代はあるのか、トイレはどうするのか。そんなことは、上は一切気にしない。
特に警備してるのが男ならなおさらだ。
ま、こちらも適当に力を抜くのだから、お互い様だが。
この世界では何事も目立たずが鉄則だ。
ただ立っている事以外やることがなくなった俺は、元の世界と今の世界を頭の中で比較し始めた。
この世界では、国に関わらず女性が支配している。
民主主義の国も、独裁の国も色々あるが、支配層が女性で占められているのは変わりない。
そんな世界で俺《ルー》は、華の国で生まれ、警官として暮らしている。
華の国は、一党独裁で共生主義を標榜する国である。
世界三大文明の一つに挙げられる歴史を持ちながら近代化に失敗し、当時の列強国からの侵略を受けた時代もある。
今は世界有数の人口を武器に、急速に大国として台頭している。
(まるで父さん《上点々》そっくりだな……)
俺は日本のネット民が隣国を皮肉で煽る時の呼び名を思い出していた。
そう、華の国は、歴史、文化、統治システムなど、日本の隣国と共通点がたくさんあった。
その一つが一党独裁だ。
この国も党が国の上にたち、党の指導によって国を導くという名目で党が国全体を支配していた。
俺の所属する警察機構(公安と呼ばれる)もある一定以上から上の役職は党の党員が就いている。
そして、男で、下っぱの俺が党員になれないのは言うまでもない。
「!?」
気配を感じて、俺は緩んでいた気を引き締めた。
まだ見えないが猛烈なプレッシャー放つ何者かがこちらに近づいて来るのが分かる。
上司が言っていた武装警官だろうか。だが、武装警官は、対犯罪組織の実力部隊。しかもエリート中のエリート部隊だ。こんな現場に来る理由なんて思い付かない。
プレッシャーがより強くなった時、ひとりの姿が見えた。
俺はあまりのプレッシャーに、複数人、それこそ武装警官一部隊を想像していた。
しかし、そのプレッシャーを放っていたのは一人であった。
トレードマークの赤い髪と燃えるような瞳。
現れたのは、この市では知らぬものはいない実力者。公安と武装警官トップを兼任する、市のナンバーツー。
――オウ・アルシャンであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
27
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる