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第二章:独裁の予兆!?中央政治局常務委員《フラワーナイン》の選抜
第50話:黒衣と血涙は覚悟の表れ!?終幕の南頂海会議
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いつの間にか、シーの思界も消え、風景は、元の会場に戻っていた。
暗闇の中に浮かび上がる血の涙を流したようなシーの白い顔は、その美しさと畏ろしさで俺は時間が、止まったかと錯覚するほどだった。
そんな幻想的な風景から、現実に戻された。
シーとボアが闘う前と何も変わっていない。
唯一、ボアがうなだれる様に拘束されているだけだ。
先程のシーの姿が、よほどインパクトがあったのか、会場は静まり返っている。
そして、シーの次の行動に注目している。
シーは無造作に流れた血を拭った。
もちろん血の涙を流したわけではない。
最後のボアからの一撃。
シーも無傷ではいられなかったのであろう。
額から流れた血が、涙のように目の下にも流れたのだ。
「私は……、力を示しました……」
シーは静かに話し始めた。
まだ思力装纏したままだ。
「経済の発展とは裏腹に、華の国は、そして、我が党は滅びかかっています」
シーの眼差しはどこを見ているのか。
会場全体を見ているようにも、ただ何もない宙を見ているようにも思えた。
「それは、我々の革命の理念を忘れ、私利私欲に走る者たちが、国にも党にも跋扈しているからです」
シーの言葉に、怒りや熱意はこもっていない。
どんな時も、やはり淡々と無機質な口調だ。
「私は、そのような者たちを一掃します。それができる力を今見せました。」
淡々とした口調とは裏腹に、シーの思力様式である闇がシーを包んだ。
黒衣の思力装が暗く輝き出す。
「ここにいる者は、全員が党の理念と革命にその身を捧げる意思を持っていると思います。もし、そうでない者がいたら、地位に関係なく粛清の対象でしょう」
これはシーからの宣戦布告だ。
党の理念に反するものは全員裁くという。
「皆様、ぜひ、華の国と党のため、私に力を貸してください」
ここにいる者の何人が、党の理念を真剣に考えているのか。
権力と地位を利用して、途方もない私財を築いているのはハクモクレン閥だけではない。
ブルーローズ閥も、自分の能力を国の発展に使い、その対価を受け取るのは当然と考えている者達だらけだ。
もちろん、その対価は正当に受けたものではない。
そもそも、結果に応じて対価を得るのは資本主義であり、党理念である共生主義とは反する。
だからこそ、シーの宣言は、ここにいる党主要メンバー全員への勧告なのだ。
私が総書記になったあかつきにはには好きにさせないと。
何も実績のないシーがそれを、言っても笑いのネタにすらならなかったであろう。
しかし、今、シーは党員の眼の前でボアを粛清した。
全盛期ではないとはいえ、ボアの力はここにいる多くの者よりも強大であった。
その力をひれ伏したのだ。
それは、シーの宣言に現実味が帯びさせた。
シーの宣言を笑うものも、歯向かう者もいない。
多くの者は、畏れただろう。
黒衣を纏うその姿に。
(思力装が黒衣か……。皮肉だな)
党を謳い上げるシーの思力装は黒衣だった。
黒は、党にとっては忌避する色だ。
革命を示す赤色、もしくは農民との連帯を示す黄色が、党のシンボルカラーだ。
黒は、党が打破すべき象徴である支配者の色だ。
黒は華の国を初めて統一し、史上初めて皇帝を名乗った者が好んでいたからだ。
その皇帝は、思法という、自分だけに都合がいい法で華の国全土を統制した。
そのため、歴史的には、こう呼ばれる。
――始まりの思皇帝と。
そして、思皇帝の力を象徴する思力装。
それが黒衣であった。
党の理念を強く掲げるシーが黒衣を纏うのはなんとも皮肉なのだ。
もちろん、今シーが纒っている思力装のデサインは、今の世に伝わる思皇帝の黒衣とは似ても似つかないが。
もう言うことはないとでも言うように、シーは思力装を解いた。
静まり返った会場から拍手がまばらに起こった。
そして、その拍手は大きく伝搬することもなかった。
ハクモクレン閥の者も、ブルーローズ閥の者もまるで敵を見るようにシーを見ている。
拍手したものは、派閥に属さず、党を憂う者達だったのだろう。
そんな雰囲気の中、空気を変えるように大きな拍手とともに声を挙げるものがいた。
「いやー、シー。成長した姿を見せてくれて嬉しいよ」
シュウだ。
この闘いの元凶とも言えるシュウが、白々しくシーを、褒めたたいた。
「ボアを倒せるとは。なら、私も安心して、次世代に中央政法委員会書記を託せるよ」
もちろん額面通りではない。
負け惜しみか打算か。
シュウの言葉は、シーを皮肉っているようだ。
「ぜひ、先人を敬い、党の発展のため頑張ってくれたまえ」
シュウは、すれ違うシーの肩を二、三度叩いた。
「おい、誰か、こいつを連れてけ」
そして、シュウはボアを連行させた。
「フー様、ボアの処遇は任せましたよ」
ボアの処遇は、自分の領分だと主張していたのが嘘のように、シュウは、フーに依頼した。
「もちろんです。では、これにて、本日の会は終わりましょう。新中央政治局常務委員については、また然るべきところで議論いたします」
フーが、取り繕うように、閉会を宣言した。
フーにとっては誤算な会となったであろう。
肝心の新中央政治局常務委員の選出はほぼ白紙となったのだから。
「……これで、シーにも発言権が持てるな」
俺の横でオウキがニヤリとつぶやいた。
ひとまず、南頂海会議は乗り越えた。
どこまでシーの思惑通りなのか俺にはわからなかったが。
「ぐぉーがー、ずぃー!!」
安心した瞬間、この世の物とは思えない叫び声が会場に、響いた。
暗闇の中に浮かび上がる血の涙を流したようなシーの白い顔は、その美しさと畏ろしさで俺は時間が、止まったかと錯覚するほどだった。
そんな幻想的な風景から、現実に戻された。
シーとボアが闘う前と何も変わっていない。
唯一、ボアがうなだれる様に拘束されているだけだ。
先程のシーの姿が、よほどインパクトがあったのか、会場は静まり返っている。
そして、シーの次の行動に注目している。
シーは無造作に流れた血を拭った。
もちろん血の涙を流したわけではない。
最後のボアからの一撃。
シーも無傷ではいられなかったのであろう。
額から流れた血が、涙のように目の下にも流れたのだ。
「私は……、力を示しました……」
シーは静かに話し始めた。
まだ思力装纏したままだ。
「経済の発展とは裏腹に、華の国は、そして、我が党は滅びかかっています」
シーの眼差しはどこを見ているのか。
会場全体を見ているようにも、ただ何もない宙を見ているようにも思えた。
「それは、我々の革命の理念を忘れ、私利私欲に走る者たちが、国にも党にも跋扈しているからです」
シーの言葉に、怒りや熱意はこもっていない。
どんな時も、やはり淡々と無機質な口調だ。
「私は、そのような者たちを一掃します。それができる力を今見せました。」
淡々とした口調とは裏腹に、シーの思力様式である闇がシーを包んだ。
黒衣の思力装が暗く輝き出す。
「ここにいる者は、全員が党の理念と革命にその身を捧げる意思を持っていると思います。もし、そうでない者がいたら、地位に関係なく粛清の対象でしょう」
これはシーからの宣戦布告だ。
党の理念に反するものは全員裁くという。
「皆様、ぜひ、華の国と党のため、私に力を貸してください」
ここにいる者の何人が、党の理念を真剣に考えているのか。
権力と地位を利用して、途方もない私財を築いているのはハクモクレン閥だけではない。
ブルーローズ閥も、自分の能力を国の発展に使い、その対価を受け取るのは当然と考えている者達だらけだ。
もちろん、その対価は正当に受けたものではない。
そもそも、結果に応じて対価を得るのは資本主義であり、党理念である共生主義とは反する。
だからこそ、シーの宣言は、ここにいる党主要メンバー全員への勧告なのだ。
私が総書記になったあかつきにはには好きにさせないと。
何も実績のないシーがそれを、言っても笑いのネタにすらならなかったであろう。
しかし、今、シーは党員の眼の前でボアを粛清した。
全盛期ではないとはいえ、ボアの力はここにいる多くの者よりも強大であった。
その力をひれ伏したのだ。
それは、シーの宣言に現実味が帯びさせた。
シーの宣言を笑うものも、歯向かう者もいない。
多くの者は、畏れただろう。
黒衣を纏うその姿に。
(思力装が黒衣か……。皮肉だな)
党を謳い上げるシーの思力装は黒衣だった。
黒は、党にとっては忌避する色だ。
革命を示す赤色、もしくは農民との連帯を示す黄色が、党のシンボルカラーだ。
黒は、党が打破すべき象徴である支配者の色だ。
黒は華の国を初めて統一し、史上初めて皇帝を名乗った者が好んでいたからだ。
その皇帝は、思法という、自分だけに都合がいい法で華の国全土を統制した。
そのため、歴史的には、こう呼ばれる。
――始まりの思皇帝と。
そして、思皇帝の力を象徴する思力装。
それが黒衣であった。
党の理念を強く掲げるシーが黒衣を纏うのはなんとも皮肉なのだ。
もちろん、今シーが纒っている思力装のデサインは、今の世に伝わる思皇帝の黒衣とは似ても似つかないが。
もう言うことはないとでも言うように、シーは思力装を解いた。
静まり返った会場から拍手がまばらに起こった。
そして、その拍手は大きく伝搬することもなかった。
ハクモクレン閥の者も、ブルーローズ閥の者もまるで敵を見るようにシーを見ている。
拍手したものは、派閥に属さず、党を憂う者達だったのだろう。
そんな雰囲気の中、空気を変えるように大きな拍手とともに声を挙げるものがいた。
「いやー、シー。成長した姿を見せてくれて嬉しいよ」
シュウだ。
この闘いの元凶とも言えるシュウが、白々しくシーを、褒めたたいた。
「ボアを倒せるとは。なら、私も安心して、次世代に中央政法委員会書記を託せるよ」
もちろん額面通りではない。
負け惜しみか打算か。
シュウの言葉は、シーを皮肉っているようだ。
「ぜひ、先人を敬い、党の発展のため頑張ってくれたまえ」
シュウは、すれ違うシーの肩を二、三度叩いた。
「おい、誰か、こいつを連れてけ」
そして、シュウはボアを連行させた。
「フー様、ボアの処遇は任せましたよ」
ボアの処遇は、自分の領分だと主張していたのが嘘のように、シュウは、フーに依頼した。
「もちろんです。では、これにて、本日の会は終わりましょう。新中央政治局常務委員については、また然るべきところで議論いたします」
フーが、取り繕うように、閉会を宣言した。
フーにとっては誤算な会となったであろう。
肝心の新中央政治局常務委員の選出はほぼ白紙となったのだから。
「……これで、シーにも発言権が持てるな」
俺の横でオウキがニヤリとつぶやいた。
ひとまず、南頂海会議は乗り越えた。
どこまでシーの思惑通りなのか俺にはわからなかったが。
「ぐぉーがー、ずぃー!!」
安心した瞬間、この世の物とは思えない叫び声が会場に、響いた。
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