天使のナースコール

佐藤 かえで

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ようこそ!エンゼルケア病棟へ!

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 3年後ー。


『ナイチンゲール誓詞。
我はここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん。
我が生涯を清く過ごし、我がつとめを果さんことを。ー』


 ひかりは看護学校の修了式を迎えた。看護師国家試験に合格し、大学病院の看護師として内定も得た。
第一希望の診療科はもちろん救命科、第二希望が循環器外科、続いて脳外科と続いた。

「ひかりってほんと内科興味ないよね。」
クラスメイトのマリが言う。
「だって、カッコよくない。」
「診療科にかっこいいも、良くないもないでしょ。」
「そう言うマリは整形外科、泌尿器、ICU?あんたこれって…」
「整形は若い患者さん多いし、泌尿器の先生ってイケメン多いし、救命の先生って、なんかかっこいいし。」
「…まあ、動機って人それぞれよね。ちなみに聞いた?落ちこぼれのモッチー。」
「聞いた聞いた。あの子、大学病院受かったらしいよ。」
「ね、あの子ガリ勉で勉強しかできないし、実習全部評価Cなのによく卒業して大学病院の内定なんか貰えたよね。」
「うわー、同じ病棟だけは勘弁だわー。」
「大丈夫、あの子第一希望精神科らしいから。」
「コミュ障なのに精神科かよ。」


 そして4月1日の入職式の日がやってきた。
ひかりは新品のスーツに袖を通し、春休みに思い切って金髪にした髪の毛を黒染めし、ナチュラルメイクをして新品のパンプスを履いて大学病院の寮の部屋を出た。
病院までの道には桜の木が植えてあり、春風に乗って桜の花びらが舞った。気持ちいい春の朝だ。


 「続きまして、院長挨拶。院長先生お願いします。」
入職式は9時から12時までのスケジュールだった。
新入職員たちは昼食を摂って、午後からは院内のオリエンテーション。
さすが大学病院だ、施設は綺麗だし、設備は全て最新鋭。
ひかりが救命科の見学で一人、異常なまでにキラキラした目をしていたのは言うまでもない。

ーここが私の働く職場!救命科かぁ!

 そして、最後に配属先の発表が来た。
ー救命科…救命科!
「消化器外科、南7病棟。内藤健、結城綾香、松下由佳」
「整形外科、西7病棟。科地麻理子、宮本明菜、坂本優里」
「続いて救命科ー」
ー来た!
ひかりは神様に一生のお願いをした。
ーどうか私を救命科に配属してください!どんなことでも頑張りますから!!
「田所早苗、石本亮太」
ー来い!
「続いて手術室ー」


 そこから彼女はショックのあまり何も聞こえなかった。気づいたら周りの新人看護師たちは各部署に行っていた。
一人を除いてー。
「あの…私たち呼ばれてないんですけど。」
そう言ったのは〝落ちこぼれのモッチー〟こと望月さくらだった。
「えー、鈴木ひかりさん、望月さくらさん。君たちは今から案内する部署だよ。ついて来なさい。」

 看護部長に案内された先は地下だった。
地下の霊安室の先にスクリーンで隠された扉があり、そこには更に下へ降りる階段があった。
そこを下ると、白を基調とし、木目調のドアや手すりが清潔感と安心感を演出する地下とは思えないほど明るい病棟があった。
「あの、ここは?」
「エンゼルケア病棟よ。」
「あの…緩和ケアってことですか?」
ひかりは重たい口を開いた。
「緩和ケアの患者さんは終末期ではあるけど生きてるわ。」
その言葉に二人の頭の上に「???」マークが飛ぶ。
「ここはね、既に亡くなられた患者さんたちが来る場所。」
「亡くなられた…患者さん…?」
「そう。」
「…幽霊ってことですか?」
「そう言うこと。」
ひかりは頭が全く追いつかなかった。この看護部長はこの状況で冗談を言っているのか!?だとしたらどんなメリットが!?
「納得いってない顔してるね。」
「はい…?」
「無理もないよ。名前…鈴木さんのだっけ?あなた、面接の時ドアの横に立ってるメガネの男の人に会釈してたよね?」
「はい。あの痩せた男の方ですよね。」
彼女は面接の時のことを思い出した。
確かに、ドアの横に不自然に丸眼鏡のひょろひょろに痩せたスーツ姿の男性が立っていた。しかし、いつの間にかいなくなっていたので気にすることもなかった。
「あの方が…どうかされたんですか?」
「あの人、ここの患者さん!」
「え??」
「あの方は去年の6月に亡くなった方よ。あの面接でここの病棟の適性も見てたのよ。」
「ええーーー!!!」
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