上 下
119 / 126

蓮という人

しおりを挟む
蓮は本当に寛容な人だった。
それは私にだけでなく、分け隔てなく皆に。

それ故、良い様に使われている所を度々見た。
彼は全く気にしていなかったが、私は嫌だった。
一番良い様に使っていたのは私だったのに、それを棚に上げて彼を窘めていた。
伴侶であるという免罪符を盾にした私は本当に最低な性格だった。

母にもよく言われていた。

『蓮君、ごめんね。本当にこのどうしようもない娘で。』

『アンタは蓮君が優しいからって甘えてばっかりして!蓮君に愛想尽かされても知らないわよ!』

姉にも言われていた。

『結愛、蓮君が居なくなったら生活出来ないんじゃないの?』

『蓮君可哀想に。こんな不良債権掴まされてね。』

身内に此処までボロカスに言われても、ヘッと気にしていなかった。
まさか自分が先に居なくなるなんて思わなかった。

後悔が胸を占めた。
本当はこんな風にやり直せるチャンスなんて無いんだ。
私は偶々あの神に目を付けられただけ。

大事にしよう、このチャンスを。



と、思っていたのだが、ふと振り返ると・・・。
やべぇな。
もう既に色々やらかしている様な気がする。
大丈夫か、大丈夫かでないと言ったら、グレーゾーン?いやブラックか。

物理的な何かをやらかした様な・・・。


・・・・うん。今から、今から!
心機一転!



など、つらつら考えていて、懐古の旅から帰って来たら、


「・・・・なんじゃこりゃ?」

「いや、それは私の台詞だから。」


目の前の光景に我が目を疑った。
アリスも同じく。

私の記憶が確かならば目を爛々と輝かせた王子がデイヴィッドの傍ではわはわ興奮しながら話していて、その後あの暑苦しい脳筋がやって来たんだよな?

でも、今は。

「デ、デイヴィッド殿・・・。出来れば私もウルフィンと共に鍛錬をご教授願いたいのだが・・・・。
何なら、いや出来れば、いや!!是非とも!厳しめで頼みたい!!」

「こんな暑苦しい人達放っておいてさ、僕のお家に来ない?お茶と珍しいお菓子があるんだ。」

会話の流れで分かるであろう、例の二人も合流していた。
予想通りにデイヴィッドに纏わりついている。

「ね、ねぇ。これってミリアムの時に似ている様な気がするんだけど・・・。」

「天然物と養殖物を一緒にしないで頂きたい。」

「は?」

「昨日も言ったけど、あの人は真性の人たらしなの。
あの物腰の柔らかい態度と穏やかな口調で彼を慕う人が増えていくんだよ。
恐ろしい能力だよ。」

そう、前世でもそうだった。
ファーストインプレッションで彼を嫌う人を見た事が無い。
好き嫌いの激しい母や姉も、前述通り。
最初に紹介した時も、気さくな良い子を連れて来たと言っていた。
祖母でさえも『この子大好きじゃあ。』と言わしめた程。
人の懐に潜り込むのに長けていた。
それが狙ってではなく、自然というのが恐ろしい。
今もこの能力が発動されているのであろう。

「え、でも、ミリアムも。」

「私は前世でもだけど、人見知りなの。」

「嘘だぁ!」

秒で答えて秒で否定された。

「いや、ホント。良い印象持たれた事無いよ。男は特に。女の人に対しては紳士的に接するけどね?」

「紳士?」

「私が女の人と話してると、そうなってるって前に言われたから。」

夫に。
そしていつもと態度が違って、気持ち悪いとも言われた。
夫に気持ち悪いと言われる妻とは。
女性に優しくするのは気持ち悪い事なのか。

「で、あの4人に対しては攻撃的な態度しか取ってないのに、あんなガツガツ来られて甚だ遺憾である。」

キリリと言い放った。
本当に誤算だった。
嫌わるの覚悟、というか嫌われろという姿勢だったのに、何故なのか。

「ああ・・・。そう、よね。確かにあの人達に優しく接して無かったわね。」

私は頷く。

「私の場合は人によって態度を変えていたから養殖物。野郎に愛想振りまくなんて吐き気がするわ。私は可愛い女の子に囲まれたいんだよ。」

「言い切った!!いっそ清々しいわね。愛想振りまくのが同性って言うのが、ミリアムらしいわ。」

そうだろう。
私は私をこうであると認めているのだ。

「恐らくは、容姿がこれだからもあるのかもしれないわね。あとはあのゲーム上の補正なのか。」

私の顔指差し、アリスは言う。
人に指を指したら駄目だよ?その指舐めちゃうZO☆

私の愛情を感じ取ったのか、大きく体を震わせてアリスは指を瞬時に引っ込めた。
何故そんなにも震えているだね、アリス?

「それで、デイヴィッドさんは・・・?」

震えながらアリスは私を見る。
その怯えるの止めてよぉ~。

若干傷付きながら私は説明する。

「彼は裏表の無い態度で、すっと人の心に入り込んでしまう。
自分も意図している訳では無いし、好かれようと思ってもいないんだろうけど。
好かれようと思わないのは私も同じなんだけど、彼はそれでも人に好かれる。
老若男女問わず。
私の場合は、人を信じていないけど、彼は人を信じている。
その違いかな?
だから、それを人は無意識に感じ取って、彼に寄っていくんじゃない?
私は好かれたい人にしか愛想良くないからね~。」

対人関係は全く正反対の私とデイヴィッド。
私は人の目が恐い。
自分がどう見られていても良いと思う反面、自分への他人の評価が気になる気持ちもあった。
虚勢を張って一人で良いと言っていたが、時折誰かと居たいと思う時がある。
そう思っていても、それでも誰かを信じる事が出来なかった。

だから私には彼だけだった。
彼はそれを心配した。
私に心を許せる誰かが出来る事を願った。

アリスを見た。
アリスはキョトンとした顔で私を見返す。
私は頬が緩む。

そしてデイヴィッドを見る。
私の視線に気付き、デイヴィッドは私に顔を向ける。
一瞬目を見開いたように見えたが、直ぐに目を細め穏やかに笑う。


「分かっていても、面白く無い事には変わりない。」

私は笑みを消し、デイヴィッドの元へ足を進める。


しおりを挟む

処理中です...