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嬉しさよりも恥ずかしさが勝ります。
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朝食を終えた殿下と私は学園へ向かう為、殿下の馬車へ乗り込みました。
「殿下、くれぐれもアイリーンの事、宜しくお願い致しますね。」
「ああ。」
「本当に、お願いしますね?」
「・・・分かっている!!」
殿下とお兄様が何やら言い合いをしているようで、馬車の窓から様子を見ようとすると、殿下が入って来られました。
「お兄様と何をお話していたのですか?」
私が尋ねると、殿下は少しバツが悪そうなお顔をなさりました。
聞いてはいけなかったのでしょうか?
「いや、大した話ではない。」
殿下はそう仰り、私の隣へと腰を下ろされました。
私の鼓動が早く打っているのが分かります。
馬車の中という閉鎖的空間に殿下と二人。
しかも、
「どうした?」
すぐ横を向くと間近に殿下の端正なお顔があり、慌てて顔を正面に戻しました。
「ごめんなさい!何でもありませんの。」
「・・・そうか。」
暫くの間、お互い無言のまま、馬車に揺られていました。
このような時、何を話せば良いのか。
気の利いたお話が浮かばない自分に落ち込みます。
ふと、自分の手に温かい何かが触れるのを感じ、膝の上の手へと目を遣ると、
「!!」
声にならず、息を呑み、凝視しました。
殿下の手が私の手を包んでいたのです。
何て、大きな手。
昨日は混乱していただけでしたが、今は少し落ち着いて見る事が出来ます。
それでも緊張する事に変わりありませんが。
「アイリーン。」
殿下に呼ばれ、顔を向けます。
殿下の涼やかな瞳が、今は少し熱く感じるのは自惚れなのでしょうか。
握り込まれた私の手に指を絡ませた殿下は、指の腹で私の手の甲をそっと撫で、その手を自らの口元に寄せられました。
余りにも自然な流れに、何が起きたのか理解するのに一瞬遅れました。
脳が状況を把握した途端、自分の顔が急激に熱を帯び出しました。
殿下が私の名を呼んでいる!
ハッと気が付き、返事をしなければと声を出しました。
「はい!殿下。」
ああ、私の返事が遅かったのでしょう。
殿下のお顔が先程と打って変わって、不機嫌な表情となりました。
「あ、あの・・・殿下。」
謝罪をしようと再度口を開くと、更に殿下の表情が険しいものになりました。
どうしたらいいのか混乱を極め、只々殿下を見つめるだけ。
すると殿下は、小さく息を漏らし、顔を横に反らしながら仰いました。
「昨日、言っただろう?」
「え?」
昨日・・・。
・・・もしかして。
「リ、リット殿下?」
「・・・・。」
違っていた?
殿下はまだ顔を背けたまま。
「・・・要らない。」
「要らない?」
「殿下は要らない。」
「そ、それは・・・。」
呼び捨てという事なのでしょうか?
幾ら何でも私には畏れ多すぎて。
私が言い淀んでいると、殿下は私を一瞥した後、
「駄目か?俺は貴女の事をもうアイリーンと呼んでいるのだから、構わないだろう?」
「で、でも・・・。」
「それに二人だけの時なら、俺しか聞いていない。」
そうなのですが、やはり私には勇気が足りません。
せめて、
「リット、様ではいけませんか?」
これが私の精一杯です。
「・・・・・。」
暫く考え込まれた後、殿下は
「譲歩しよう。」
そう仰いました。
そして握ったままの私の手を殿下の膝の上へ。
殿下の手と私の手が重なります。
「ずっと、夢だった。」
ぽつり、殿下が溢されます。
「貴女とこうして二人で学園に通う事が。
アイリーンに触れる事が。
貴女に名前を呼んでもらう事が。」
殿下のはにかむ様な笑顔に息が止まってしまうかと思いました。
「本当に夢だったんだ。
ずっと願っていた。アイリーンが俺の事を何とも思っていないと思っていたから、諦めていたが。」
「そんなっ!私は殿、リット様だけを!」
私は初めてお会いした時から、殿下だけを。
「ずっと好きでしたもの・・・。」
けれども、今の今までその事を殿下にお伝えしていなかったせいで、殿下を苦しめていたのが辛かった。
言葉尻が弱くなってしまったのは、そのせいでした。
殿下をお慕いしている。
でも面と向かって私は殿下に言っていませんでした。
緊張と恥ずかしさが私をしり込みさせました。
その内、殿下にお好きな方が出来たと盛大な勘違いをして、勝手に身を引こうとした愚かな私。
「ああ、だから。」
殿下が私の手をギュッと握り込まれます。
「今、本当に幸せなんだ。」
目を細めて私を見つめる殿下は本当に嬉しそうで、先程までぐるぐると後ろ向きに考えていた気持ちが一気に霧散しました。
「私も、幸せです。」
嬉しい。
恥ずかしい。
嬉しい。
舞い上がってしまった私は、自分の頬に何かが触れたのに気付くのが遅れました。
「想いを通わせたら、こんな事も出来るのだな。」
間近に見える殿下のお顔はほんのりと赤く色づき、その近さに漸く今何が起きたのかが分かりました。
殿下は私の頬に唇を寄せられたのだわ。
触れた頬に手を当て、茫然と殿下を見る。
殿下は私の反応が無いのを不安に思われたのか、眉を寄せて私に尋ねます。
「い、嫌だったのか?」
私は慌てて首を横に振ります。
「いいえ。ただ、何だか夢を見ている様で・・・。」
殿下は少し微笑むと、また私に顔を寄せ、今度は私の額に口付けなさいました。
「殿下、くれぐれもアイリーンの事、宜しくお願い致しますね。」
「ああ。」
「本当に、お願いしますね?」
「・・・分かっている!!」
殿下とお兄様が何やら言い合いをしているようで、馬車の窓から様子を見ようとすると、殿下が入って来られました。
「お兄様と何をお話していたのですか?」
私が尋ねると、殿下は少しバツが悪そうなお顔をなさりました。
聞いてはいけなかったのでしょうか?
「いや、大した話ではない。」
殿下はそう仰り、私の隣へと腰を下ろされました。
私の鼓動が早く打っているのが分かります。
馬車の中という閉鎖的空間に殿下と二人。
しかも、
「どうした?」
すぐ横を向くと間近に殿下の端正なお顔があり、慌てて顔を正面に戻しました。
「ごめんなさい!何でもありませんの。」
「・・・そうか。」
暫くの間、お互い無言のまま、馬車に揺られていました。
このような時、何を話せば良いのか。
気の利いたお話が浮かばない自分に落ち込みます。
ふと、自分の手に温かい何かが触れるのを感じ、膝の上の手へと目を遣ると、
「!!」
声にならず、息を呑み、凝視しました。
殿下の手が私の手を包んでいたのです。
何て、大きな手。
昨日は混乱していただけでしたが、今は少し落ち着いて見る事が出来ます。
それでも緊張する事に変わりありませんが。
「アイリーン。」
殿下に呼ばれ、顔を向けます。
殿下の涼やかな瞳が、今は少し熱く感じるのは自惚れなのでしょうか。
握り込まれた私の手に指を絡ませた殿下は、指の腹で私の手の甲をそっと撫で、その手を自らの口元に寄せられました。
余りにも自然な流れに、何が起きたのか理解するのに一瞬遅れました。
脳が状況を把握した途端、自分の顔が急激に熱を帯び出しました。
殿下が私の名を呼んでいる!
ハッと気が付き、返事をしなければと声を出しました。
「はい!殿下。」
ああ、私の返事が遅かったのでしょう。
殿下のお顔が先程と打って変わって、不機嫌な表情となりました。
「あ、あの・・・殿下。」
謝罪をしようと再度口を開くと、更に殿下の表情が険しいものになりました。
どうしたらいいのか混乱を極め、只々殿下を見つめるだけ。
すると殿下は、小さく息を漏らし、顔を横に反らしながら仰いました。
「昨日、言っただろう?」
「え?」
昨日・・・。
・・・もしかして。
「リ、リット殿下?」
「・・・・。」
違っていた?
殿下はまだ顔を背けたまま。
「・・・要らない。」
「要らない?」
「殿下は要らない。」
「そ、それは・・・。」
呼び捨てという事なのでしょうか?
幾ら何でも私には畏れ多すぎて。
私が言い淀んでいると、殿下は私を一瞥した後、
「駄目か?俺は貴女の事をもうアイリーンと呼んでいるのだから、構わないだろう?」
「で、でも・・・。」
「それに二人だけの時なら、俺しか聞いていない。」
そうなのですが、やはり私には勇気が足りません。
せめて、
「リット、様ではいけませんか?」
これが私の精一杯です。
「・・・・・。」
暫く考え込まれた後、殿下は
「譲歩しよう。」
そう仰いました。
そして握ったままの私の手を殿下の膝の上へ。
殿下の手と私の手が重なります。
「ずっと、夢だった。」
ぽつり、殿下が溢されます。
「貴女とこうして二人で学園に通う事が。
アイリーンに触れる事が。
貴女に名前を呼んでもらう事が。」
殿下のはにかむ様な笑顔に息が止まってしまうかと思いました。
「本当に夢だったんだ。
ずっと願っていた。アイリーンが俺の事を何とも思っていないと思っていたから、諦めていたが。」
「そんなっ!私は殿、リット様だけを!」
私は初めてお会いした時から、殿下だけを。
「ずっと好きでしたもの・・・。」
けれども、今の今までその事を殿下にお伝えしていなかったせいで、殿下を苦しめていたのが辛かった。
言葉尻が弱くなってしまったのは、そのせいでした。
殿下をお慕いしている。
でも面と向かって私は殿下に言っていませんでした。
緊張と恥ずかしさが私をしり込みさせました。
その内、殿下にお好きな方が出来たと盛大な勘違いをして、勝手に身を引こうとした愚かな私。
「ああ、だから。」
殿下が私の手をギュッと握り込まれます。
「今、本当に幸せなんだ。」
目を細めて私を見つめる殿下は本当に嬉しそうで、先程までぐるぐると後ろ向きに考えていた気持ちが一気に霧散しました。
「私も、幸せです。」
嬉しい。
恥ずかしい。
嬉しい。
舞い上がってしまった私は、自分の頬に何かが触れたのに気付くのが遅れました。
「想いを通わせたら、こんな事も出来るのだな。」
間近に見える殿下のお顔はほんのりと赤く色づき、その近さに漸く今何が起きたのかが分かりました。
殿下は私の頬に唇を寄せられたのだわ。
触れた頬に手を当て、茫然と殿下を見る。
殿下は私の反応が無いのを不安に思われたのか、眉を寄せて私に尋ねます。
「い、嫌だったのか?」
私は慌てて首を横に振ります。
「いいえ。ただ、何だか夢を見ている様で・・・。」
殿下は少し微笑むと、また私に顔を寄せ、今度は私の額に口付けなさいました。
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