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1章
9年越しの再会(1)
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「ああ、レイフォード様とちゃんとお話しできるかしら?緊張して、おかしな事を言ってしまったらどうしましょう!」
馬車の中でシルヴィアは頬に手を当てながら、目の前に座っている侍女のソニアに話しかける。
ソニアはにっこりと微笑み、
「それよりも前に、シルヴィア様が9年越しのレイフォード様本人に興奮して、鼻血を出さないかが心配です。」
あまりにも自然な感じで、主人であるシルヴィアに不敬発言をするソニア。
シルヴィアもそれを咎める事もなく、同意する。
「そう、そうなのよ!それも心配だわ!9年前のレイフォード様はまるで、天使のような愛らしさだったのよ。きっと今は神様のように美しく優しい紳士になられてるに違いないわ!
そのような方を目の前に平静で居られる自信が無いわ!
どうしましょう!そんな淑女らしからぬ姿を見せてしまったら、レイフォード様に失望されるのではないかしら!」
早口で捲し立てるシルヴィアをソニアは穏やかな口調で
「神様であるのでしたら、おかしな事を言おうが、鼻血を噴こうが、失神しようが、受け入れてくれますよ。
ですから少し落ち着きましょう、シルヴィア様。」
と宥める。全く根拠の無い適当なソニアの言葉に何故かシルヴィアは落ち着きを取り戻す。
「そ、そうね。ソニアの言う通りよね。レイフォード様はお優しいもの。
レイフォード様のお手紙でそれはとても感じるわ。いつも可愛いらしいお花を添えられて、お手紙を送ってくださるし、お手紙の文面も心が暖かくなるお言葉だわ。
会う前からこんなに不安になっては、これからレイフォード様と暮らして行けないわね。」
シルヴィアはまるで祈るような形で両手を顔の前で組み、うんうんと一人で頷く。
(本当に優しい人物ならば、9年間一度も会わないという異常な行動はなさらないはずですがね…。
シルヴィア様は社交の場に全くお出にならないから、レイフォード様のお噂を耳にする事はない。
このまま何も問題が起こる事なく、ご成婚出来ればいいのだけれど。
まあ、私はシルヴィア様を傷つける者に容赦はしないだけだ。)
慈愛の目でソニアはシルヴィアを見つめまがら考える。
幼少の頃からシルヴィアを世話をしているソニアにとって、シルヴィアは自分の妹、或いは娘も同然の愛情を抱いている。
天真爛漫で純粋なシルヴィアが可愛くて仕方がないのだ。
其れ故、シルヴィアに害をもたらす者は悉く排除してきた。
それがレイフォードであろうとも例外ではないのた。不敬となろうとも。
そんなやり取りをしていると、レイフォードの屋敷に到着した。
先に降りたソニアの手を取り、シルヴィアも馬車から降りる。
扉の前には執事であろう青年がシルヴィアを出迎えた。
「遠路はるばるようこそお越しくださいました、シルヴィア様。私は執事のゴードンと申します。
何かございましたら、何なりと私にお申し付けください。」
ゴードンはそう言い、無駄の無い礼をした。
ゴードンが姿勢を戻した後で、シルヴィアもドレスの裾を摘み、ふわりとしたカーテシーをする。
「初めまして、ゴードン様。シルヴィア・フォン・ビルフォード、御当主レイフォード・ヴァン・アルデバラン様と成婚の儀を執り行う為、参上致しました。
本日よりこちらでレイフォード様を一緒に支えていきたいと思っております。
どうか宜しくお願いします。」
やった!最後まで詰まらず言えたと嬉しさを隠しきれずにっこりと笑顔を浮かべた。
ゴードンはシルヴィアの挨拶に、狼狽する。
貴族でもない執事である自分に、ここまで丁寧な挨拶をされたご令嬢に出会った事がないからだ。
更にこんな眩しい笑顔を向けられたことも。
このわずかな時間で、ゴードンはすっかりシルヴィアに好感情を抱いた。
「ゴードンとお呼びください。私なぞに様は要りません。こちらこそ、シルヴィア様がこちらで何不自由なく過ごせますよう、尽力致しますので、何卒宜しくお願い致します。」
再度ゴードンは頭を下げた。
そして何故かシルヴィア。頭を下げる。
「は、はい!私こそ宜しくお願い致します!!」
「いいえ、いいえ、こちらこそ、宜しくお願い致します!」
「本当に宜しくお願い致します!」
頭を下げ続けた状態で二人は同じ言葉を何回も言い合う。
その様子を呆れた、と言う声で
「シルヴィア様何回宜しくするのですか。いつまでも続けていたら、日が暮れてしまいますよ?
それに仮にも伯爵家の娘がそのように頭をずっと下げ続けるものではありませんよ。
ゴードンさんも困っていますから、それくらいで。」
二人ははっと我に返り、顔を見合せ苦笑し合う。
「ふふっ、私こちらに来るまで、不安だったの。私のような女がレイフォード様の妻として認めて貰えるのか。
でもゴードンがとても優しいから、嬉しくなってしまって。
だから、これでおしまいね。
ゴードン、こんな変な女ですが、宜しくお願いします。」
こてりと、首を傾げてシルヴィアは微笑する。
ゴードンは
「畏まりました。」
とだけ発し、深く深く礼をする。
(シルヴィア様がこのように素晴らしい女性で良かった。
このお方なら、レイフォード様を変えて頂けるかもしれない。)
ゴードンは淡い期待をシルヴィアに向け、先程告げた言葉通り、彼女が穏やかに過ごせるよう、尽力を尽くすと改めて心に誓った。
馬車の中でシルヴィアは頬に手を当てながら、目の前に座っている侍女のソニアに話しかける。
ソニアはにっこりと微笑み、
「それよりも前に、シルヴィア様が9年越しのレイフォード様本人に興奮して、鼻血を出さないかが心配です。」
あまりにも自然な感じで、主人であるシルヴィアに不敬発言をするソニア。
シルヴィアもそれを咎める事もなく、同意する。
「そう、そうなのよ!それも心配だわ!9年前のレイフォード様はまるで、天使のような愛らしさだったのよ。きっと今は神様のように美しく優しい紳士になられてるに違いないわ!
そのような方を目の前に平静で居られる自信が無いわ!
どうしましょう!そんな淑女らしからぬ姿を見せてしまったら、レイフォード様に失望されるのではないかしら!」
早口で捲し立てるシルヴィアをソニアは穏やかな口調で
「神様であるのでしたら、おかしな事を言おうが、鼻血を噴こうが、失神しようが、受け入れてくれますよ。
ですから少し落ち着きましょう、シルヴィア様。」
と宥める。全く根拠の無い適当なソニアの言葉に何故かシルヴィアは落ち着きを取り戻す。
「そ、そうね。ソニアの言う通りよね。レイフォード様はお優しいもの。
レイフォード様のお手紙でそれはとても感じるわ。いつも可愛いらしいお花を添えられて、お手紙を送ってくださるし、お手紙の文面も心が暖かくなるお言葉だわ。
会う前からこんなに不安になっては、これからレイフォード様と暮らして行けないわね。」
シルヴィアはまるで祈るような形で両手を顔の前で組み、うんうんと一人で頷く。
(本当に優しい人物ならば、9年間一度も会わないという異常な行動はなさらないはずですがね…。
シルヴィア様は社交の場に全くお出にならないから、レイフォード様のお噂を耳にする事はない。
このまま何も問題が起こる事なく、ご成婚出来ればいいのだけれど。
まあ、私はシルヴィア様を傷つける者に容赦はしないだけだ。)
慈愛の目でソニアはシルヴィアを見つめまがら考える。
幼少の頃からシルヴィアを世話をしているソニアにとって、シルヴィアは自分の妹、或いは娘も同然の愛情を抱いている。
天真爛漫で純粋なシルヴィアが可愛くて仕方がないのだ。
其れ故、シルヴィアに害をもたらす者は悉く排除してきた。
それがレイフォードであろうとも例外ではないのた。不敬となろうとも。
そんなやり取りをしていると、レイフォードの屋敷に到着した。
先に降りたソニアの手を取り、シルヴィアも馬車から降りる。
扉の前には執事であろう青年がシルヴィアを出迎えた。
「遠路はるばるようこそお越しくださいました、シルヴィア様。私は執事のゴードンと申します。
何かございましたら、何なりと私にお申し付けください。」
ゴードンはそう言い、無駄の無い礼をした。
ゴードンが姿勢を戻した後で、シルヴィアもドレスの裾を摘み、ふわりとしたカーテシーをする。
「初めまして、ゴードン様。シルヴィア・フォン・ビルフォード、御当主レイフォード・ヴァン・アルデバラン様と成婚の儀を執り行う為、参上致しました。
本日よりこちらでレイフォード様を一緒に支えていきたいと思っております。
どうか宜しくお願いします。」
やった!最後まで詰まらず言えたと嬉しさを隠しきれずにっこりと笑顔を浮かべた。
ゴードンはシルヴィアの挨拶に、狼狽する。
貴族でもない執事である自分に、ここまで丁寧な挨拶をされたご令嬢に出会った事がないからだ。
更にこんな眩しい笑顔を向けられたことも。
このわずかな時間で、ゴードンはすっかりシルヴィアに好感情を抱いた。
「ゴードンとお呼びください。私なぞに様は要りません。こちらこそ、シルヴィア様がこちらで何不自由なく過ごせますよう、尽力致しますので、何卒宜しくお願い致します。」
再度ゴードンは頭を下げた。
そして何故かシルヴィア。頭を下げる。
「は、はい!私こそ宜しくお願い致します!!」
「いいえ、いいえ、こちらこそ、宜しくお願い致します!」
「本当に宜しくお願い致します!」
頭を下げ続けた状態で二人は同じ言葉を何回も言い合う。
その様子を呆れた、と言う声で
「シルヴィア様何回宜しくするのですか。いつまでも続けていたら、日が暮れてしまいますよ?
それに仮にも伯爵家の娘がそのように頭をずっと下げ続けるものではありませんよ。
ゴードンさんも困っていますから、それくらいで。」
二人ははっと我に返り、顔を見合せ苦笑し合う。
「ふふっ、私こちらに来るまで、不安だったの。私のような女がレイフォード様の妻として認めて貰えるのか。
でもゴードンがとても優しいから、嬉しくなってしまって。
だから、これでおしまいね。
ゴードン、こんな変な女ですが、宜しくお願いします。」
こてりと、首を傾げてシルヴィアは微笑する。
ゴードンは
「畏まりました。」
とだけ発し、深く深く礼をする。
(シルヴィア様がこのように素晴らしい女性で良かった。
このお方なら、レイフォード様を変えて頂けるかもしれない。)
ゴードンは淡い期待をシルヴィアに向け、先程告げた言葉通り、彼女が穏やかに過ごせるよう、尽力を尽くすと改めて心に誓った。
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