げに美しきその心

コロンパン

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2章

予想通りの展開

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庭に着いたシルヴィアがまず確認したのは、庭の土壌の状態だ。
地面にしゃがみ込み、土を一掴みし、指で擦り合わせて粘度を確かめる。


「シルヴィア様、何をなさっているのですか?」

その様子を、メイド長のアンが不思議そうに尋ねると、土をアンに差し出し、

「土に元気があるかを確認しているの。
植物を植えても土に元気が無ければ、上手く育たないのよ。」

「そうなんですか。それでどうなんですか?この庭の土は。」

「うん、悪くないわね。粘り気もあるし、根も張りそうだわ。」

にっこり笑うシルヴィア。

「取り敢えず伸び放題の雑草を抜いていく事から始めましょう。」

腕捲りをし、シルヴィアが雑草が伸びている場所へ進む。

アンが慌てて追いかける。

「シ、シルヴィア様!そんな事は私共にお任せください。」

シルヴィアはきょとんとして、さも当然かの如く

「え?何を言っているの?お庭のお手入れをしていいって、ゴードンが言ったのよ。」

「ですが、汚れてしまいます。」

「汚れるのは当然よ。ちゃんと汚れても良いお洋服に着替えているし、最初から整備されているお庭ではないのだから土台をちゃんと作らないと。」

「指示をして頂ければ、私共で行いますので。」

「引き受けたからには、最初から最後まで。
自分だけ、何もせず指示するだけなんて無責任だわ。それに・・・」

シルヴィアはアンに耳打ちする。
二人は目を合わせ、プッと吹き出して笑い合う。


「それならば、私も協力しない訳にはいけませんね!分かりました。雑草を根絶やしにしましょう!」

「ええ!」







アンが持ってきてくれた大きい鐔の帽子を被り、黙々と雑草を引き抜いていくこと、一時間半。

「シルヴィア様~!少し休憩に致しましょう。お茶のご用意をして参ります。あちらでお休みください。」

大きいパラソルを広げた下に小さめのテーブルがある。それを指差しアンはシルヴィアに休憩を促す。


「分かったわ。ありがとう。」

アンは一旦屋敷へお茶の用意の為戻る。
シルヴィアは椅子に座り、ポタポタと大粒の汗をタオルで拭う。

「これは、結構な運動になるわね。これを続けて行けば、少しは脂肪が落ちるかしら。」

足を延ばして、空を見上げる。今日は雲一つない快晴。空気も澄んでいてとても気持ちがいい。息を大きく吸い込み、吐き出す。

「お茶を頂いたら、もうひと踏ん張りね!」






「あら、アンさん。どうしたのですか?そんな汗だくで。」

メイドのテーゼに呼び止められたアン。

「シルヴィア様と草むしりしてたのよ。今休憩中のシルヴィア様にお茶のご用意をするから、後でね。」


「えええ!アンさん一人で草むしりですか!?大変じゃないですか!私も手伝いますよ!」

まあ、普通はそうだろうな、苦笑いのアンは一緒に付いてきたテーゼに軽く否定をする。

「違うわよ。シルヴィア様もなさっているのよ。あの方の方が草むしりの手際が良くて驚いたわ。」

「えええええええ!シルヴィア様も!?なんで止めなかったんですか!」

「いやいや、ちゃんとお止めしたわよ。でも、自分が言い出した事だから、って仰ったのよ。」

大袈裟に驚き止めなかった事を咎めるテーゼに、少しムッとなるアン。
しかし、すぐシルヴィアが耳打ちして告げた言葉を思い出し、穏やかな表情を見せ、

「それに、シルヴィア様が
『草むしりって、結構な運動になるの。これで痩せる事が出来て、ほんの少しでもレイフォード様のお側に近づけたらって。だから、止めろなんて言わないで?』
って、仰られたら、止める事が出来ないじゃない?」

「~~!!!な、なんていじらしい!む、胸が、胸が苦しいです・・・!」

「何言ってるのよ。」

胸を押さえて、息を荒くするテーゼに若干引きながら

「じゃあ、シルヴィア様をお待たせしているから、もう行くわ。」

「待ってください!!私も手伝いますって!!是非ともシルヴィア様とお近づきになりたい。むふふ。」

「気持ち悪いわよ、テーゼ。」

ドン引きのアンと鼻息の荒いテーゼはシルバーの元へ急いだ。







屋敷の方から、複数の女性の笑い声が聞こえてきた。
その声が、こちらへ向かっている。

アンが援軍を連れて来てくれたのかな、期待して待っていると全く予想していない人物が現れた。



「・・・・此処で何をしている。」

シルヴィアは勢い良く立ち上がった。余りにも突然で、直立不動のまま固まってしまった。

「口も聞けなくなったのか?」

冷たく言い放つ声の主はレイフォードであった。
両脇に見目の美しい女性二人が、レイフォードと腕を絡ませぴったりとくっついている。

二人の女性は一様に、派手な装いで化粧もかなり濃い目のようだ。
胸元が大胆に大きく開いたドレスは目のやり場に困ってしまう程、扇情的だ。

「おい、」

ハッと我に帰り、

「あ、あのお庭の「ねえ、レイフォード様ぁ、この人とお知り合いなの?」

シルヴィアが話そうとするのに態と被せるように、レイフォードの右側の女性が、レイフォードに胸を押し付けながら、話し掛ける。

更に左側の女性も

「まさかねぇ、レイフォード様がこんな・・・ねぇ、下働きの者か何かでしょう?
駄目じゃないの、こんな所で休憩してたら。
早く持ち場に戻りなさいな。」

強めの口調でシルヴィアに言う。

シルヴィアは何も言えなかった。

確かに今の姿でレイフォードに出会すのは不味かった。

動きやすいエプロンドレスだが、スカートの裾や袖は泥で汚れ、顔にも泥が付いていた。

更に汗だくで、髪の毛もぼさぼさだ。

これでレイフォードの妻だと言えば、レイフォードに恥をかかせる事になる。

「申し訳ありません。仕事に戻ります。」

シルヴィアは深くお辞儀をした。


「雇われているのだから、仕事はキチンとしないとレイフォード様に迷惑がかかるのよ。」

「はい、申し訳ございません。」

レイフォードに腕を絡ませて女性はシルヴィアを責める。シルヴィアはただ謝る。

満足したのか、女性二人はレイフォードに甘えた声で

「ねえ、もう行きましょうよ。、あのお店の予約の時間に間に合わないわ。」


レイフォードはシルヴィアを睨んだままだったが、女性達にせがまれて、

「ああ。」

と、だけ言い、女性達と馬車に乗り込んで、出掛けて行った。


馬車の音が遠くなるまで、シルヴィアは頭を下げたままだった。


漸く顔を上げて

「やってしまったわね・・・。またレイフォード様の心証が悪くなってしまったわ・・・どうしましょう。」

へなへなと力を抜き、椅子に座る。


ああ、こんなに天気は良いのに、心の中はどんよりと曇る。
レイフォード様と一緒に居らっしゃった女性、細くて、綺麗だったなあ・・・。

「頑張って、この脂肪を落とさないと!」

お腹の肉をむにと掴み、シルヴィアは奮起した。




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