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2章
さて、どうしましょう
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「取り敢えず、もう遅いし、ゴードンには、あ、此処の執事ね、明日言いましょうか。」
そう言い、シルヴィアはケビンを見る。
顎に手を当て、考え込む。
「ケビン、申し訳無いのだけれど、あちらのソファで寝るのは大丈夫かしら?
朝になれば、色々整えて貰うから。
お洋服も、取り敢えず着替えないとね、え~と
何かあったかしら・・・。」
部屋の奥にある三人掛けのソファを指差し、シルヴィアはクローゼットを物色する。
ケビンは眩暈がした。
「・・なっ!!!・・。」
思わず大声を出しそうになったが、口を手で塞ぐ。
ケビンの声に振り向いて、首を傾げるシルヴィアに
小声で
「何を考えているんですか!シルヴィア様!」
「え?」
「今更ですけど、本当に今更ですけど、
淑女であるシルヴィア様が、夫以外の男と二人っきりでいるのは、本来なら避けるべきなんですよ。
・・・僕が言うのも全然説得力が無いですけど。」
ケビンが説く。
シルヴィアも神妙に頷く。
「ええ、そうね。」
「ですので、僕は外で寝ます。朝になったら、またお伺いに行きます。」
部屋をまた出ようとするケビン。
そして、それをまた引き止めるシルヴィア。
「あら、駄目よ。屋敷の外で寝るなんて、危ないわ。此処で寝ましょう。そちらの方が、ゴードンに話もしやすいし。」
ケビンは脱力する。
「シルヴィア様、僕の話を聞いていましたか?」
「?ええ、聞いていたわ。男女が二人きりで居るのは好ましくない。」
「だったら、」
「それでも、此処で寝ましょう。もうケビンは私が雇ったこの屋敷の人間。生活を保障するのは雇い主である私の義務。私の守るべき人達。
そんな人を、外で寝かせる事は出来ないわ。」
毅然とした態度でシルヴィアは言い切る。
「・・・・・!」
ケビンは胸が震える。
以前働いていた屋敷の雇い主は、使用人を物として扱っていた。
人間としては見ていなかった。
多くの貴族はそうであろう。
彼女は自分を一人の人間として、見てくれる。
大切だ、とも。
涙が出そうになったのを、拳を握り締めて堪えた。
「大丈夫よ!貴方を取って喰ったりしないから!それが心配なのよね?」
「・・・・・」
(いや。逆でしょう。どう考えても・・・。)
検討違いの事を言うシルヴィアに苦笑し、ケビンは折れた。
「分かりました。此処でお休みさせて戴きます。
ですが、ソファは僕の体で汚してしまうので、ご遠慮させて頂きます。
床で大丈夫です。
もし、棄てるような襤褸切れの布があればそれをいただければ、床も汚さないで済むのですが。」
「ソファを使っていいのに・・・。」
渋るシルヴィアに
「こんな汚れた格好の人間がソファで寝ていたら、そのソファは廃棄処分ですよ。勿体無いのでご遠慮します。
シルヴィア様のお気持ちはすごく嬉しいのですが、僕自身が罪悪感で一杯になります。」
「・・・そう、なのね。ありがとう。そこまで考えてくれたのね。分かったわ。布ね、布・・・。
布・・・。困ったわ、襤褸切れの布なんて無いわ。
ねぇ、これじゃ、駄目?」
シルヴィアは予備のシーツを指差す。
「駄目です。それ、新しいやつですよね?」
ケビンが即答し、シルヴィアは唸る。
「ううぅ・・・。でも、これは私が今迄使ってたから・・汚ないし・・・。」
シルヴィアは自分の寝ていたベッドのシーツに目を遣る。
「あ・・・!」
すると、急に閃いたのかクローゼットを漁るシルヴィア。
「ねぇ、これは、どうかしら?」
シルヴィアが取り出したのは、大きい布。
「お洋服を作る練習の為に持ってきた生地なんだけど、まだ何枚かあるから、遠慮せず使って?」
ケビンはその布を受け取る。
「ありがとうございます。」
部屋の隅へ行き、布を体に巻き付けて包まる様に横になるケビン。
「おやすみなさい、ケビン。」
「おやすみなさい、シルヴィア様」
ケビンはそう言うと、すぐに寝入ったようで、
「余程、疲れていたのね。無理も無いわ。いきなり連れて来られて、私みたいな女の相手をしろ、なんて。
ふふっ、嫌に決まってるじゃないのよね・・・。」
シルヴィアは寝ているケビンを見ながら自嘲気味に笑う。
ベッドへ戻り、布団に潜り込む。
「・・・私も寝ましょう。朝が来れば、きっとちゃんと笑えるから、今だけは・・・。」
頬を伝う涙を切っ掛けに、嗚咽が洩れそうになるのを、布団を口で噛み締めて我慢する。
「大丈夫。大丈夫・・。」
そう呟き、目を閉じる。
早く朝になればいい。
それだけを考えて。
そう言い、シルヴィアはケビンを見る。
顎に手を当て、考え込む。
「ケビン、申し訳無いのだけれど、あちらのソファで寝るのは大丈夫かしら?
朝になれば、色々整えて貰うから。
お洋服も、取り敢えず着替えないとね、え~と
何かあったかしら・・・。」
部屋の奥にある三人掛けのソファを指差し、シルヴィアはクローゼットを物色する。
ケビンは眩暈がした。
「・・なっ!!!・・。」
思わず大声を出しそうになったが、口を手で塞ぐ。
ケビンの声に振り向いて、首を傾げるシルヴィアに
小声で
「何を考えているんですか!シルヴィア様!」
「え?」
「今更ですけど、本当に今更ですけど、
淑女であるシルヴィア様が、夫以外の男と二人っきりでいるのは、本来なら避けるべきなんですよ。
・・・僕が言うのも全然説得力が無いですけど。」
ケビンが説く。
シルヴィアも神妙に頷く。
「ええ、そうね。」
「ですので、僕は外で寝ます。朝になったら、またお伺いに行きます。」
部屋をまた出ようとするケビン。
そして、それをまた引き止めるシルヴィア。
「あら、駄目よ。屋敷の外で寝るなんて、危ないわ。此処で寝ましょう。そちらの方が、ゴードンに話もしやすいし。」
ケビンは脱力する。
「シルヴィア様、僕の話を聞いていましたか?」
「?ええ、聞いていたわ。男女が二人きりで居るのは好ましくない。」
「だったら、」
「それでも、此処で寝ましょう。もうケビンは私が雇ったこの屋敷の人間。生活を保障するのは雇い主である私の義務。私の守るべき人達。
そんな人を、外で寝かせる事は出来ないわ。」
毅然とした態度でシルヴィアは言い切る。
「・・・・・!」
ケビンは胸が震える。
以前働いていた屋敷の雇い主は、使用人を物として扱っていた。
人間としては見ていなかった。
多くの貴族はそうであろう。
彼女は自分を一人の人間として、見てくれる。
大切だ、とも。
涙が出そうになったのを、拳を握り締めて堪えた。
「大丈夫よ!貴方を取って喰ったりしないから!それが心配なのよね?」
「・・・・・」
(いや。逆でしょう。どう考えても・・・。)
検討違いの事を言うシルヴィアに苦笑し、ケビンは折れた。
「分かりました。此処でお休みさせて戴きます。
ですが、ソファは僕の体で汚してしまうので、ご遠慮させて頂きます。
床で大丈夫です。
もし、棄てるような襤褸切れの布があればそれをいただければ、床も汚さないで済むのですが。」
「ソファを使っていいのに・・・。」
渋るシルヴィアに
「こんな汚れた格好の人間がソファで寝ていたら、そのソファは廃棄処分ですよ。勿体無いのでご遠慮します。
シルヴィア様のお気持ちはすごく嬉しいのですが、僕自身が罪悪感で一杯になります。」
「・・・そう、なのね。ありがとう。そこまで考えてくれたのね。分かったわ。布ね、布・・・。
布・・・。困ったわ、襤褸切れの布なんて無いわ。
ねぇ、これじゃ、駄目?」
シルヴィアは予備のシーツを指差す。
「駄目です。それ、新しいやつですよね?」
ケビンが即答し、シルヴィアは唸る。
「ううぅ・・・。でも、これは私が今迄使ってたから・・汚ないし・・・。」
シルヴィアは自分の寝ていたベッドのシーツに目を遣る。
「あ・・・!」
すると、急に閃いたのかクローゼットを漁るシルヴィア。
「ねぇ、これは、どうかしら?」
シルヴィアが取り出したのは、大きい布。
「お洋服を作る練習の為に持ってきた生地なんだけど、まだ何枚かあるから、遠慮せず使って?」
ケビンはその布を受け取る。
「ありがとうございます。」
部屋の隅へ行き、布を体に巻き付けて包まる様に横になるケビン。
「おやすみなさい、ケビン。」
「おやすみなさい、シルヴィア様」
ケビンはそう言うと、すぐに寝入ったようで、
「余程、疲れていたのね。無理も無いわ。いきなり連れて来られて、私みたいな女の相手をしろ、なんて。
ふふっ、嫌に決まってるじゃないのよね・・・。」
シルヴィアは寝ているケビンを見ながら自嘲気味に笑う。
ベッドへ戻り、布団に潜り込む。
「・・・私も寝ましょう。朝が来れば、きっとちゃんと笑えるから、今だけは・・・。」
頬を伝う涙を切っ掛けに、嗚咽が洩れそうになるのを、布団を口で噛み締めて我慢する。
「大丈夫。大丈夫・・。」
そう呟き、目を閉じる。
早く朝になればいい。
それだけを考えて。
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