げに美しきその心

コロンパン

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3章

ソニア先生!お願い致します!

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夜会から二日後、ノーラン自らが剣の鍛練の許可が下りた事を伝えに屋敷を訪れていた。

シルヴィアは朝食を終え、応接室にいるノーランの元へ急いだ。

中に入ると、ノーランは柔らかな笑みを浮かべる。

シルヴィアはノーランに駆け寄る。

「お兄様!わざわざお越しいただかなくても、お手紙で充分でしたのに。」

「許可は得たけれど、ソニアの鍛錬が行き過ぎないように暫くの間監督?みたいなものだな。
父上に仰せつかった。」

ノーランがシルヴィアの頭を撫でる。

「母上も心配していたよ、イザーク兄さんもミシェも勿論、屋敷の者全員。ミシェに至っては今日一緒に行くと騒いでいた。
宥めるのに苦労したよ。」

「ミシェ・・・。」

シルヴィアは目を潤ませる。
ふと、気になったのでシルヴィアはノーランに尋ねる。

「イザークお兄様も?という事は帰っていらしたの?」

「そうだよ、シルヴィ。兄さん、こないだの夜会のエスコートを私が務めた事に焼きもちを妬いてね。
視察だったのだから、どうしようもないでしょうって言ったら、渋々引き下がったけれど。」

イザークはジュードから爵位を継ぐ為、領地の視察で家を空けている事が多くなった。

突発的に入った視察がシルヴィアの出発日と重なってしまい、いつも無表情のイザークが更に表情が無くなるという事態に陥った。

出発前にシルヴィアが一日イザークと街へ出掛ける事でどうにか機嫌が持ち直した。


「それと、間の悪いことに奥方殿も居たよ。憤慨されてたね。」


「・・・げ・・。」

後ろに控えていたソニアから思わず声が出た。

「タチアナお義姉様が?」

シルヴィが首を傾げる。
ノーランは品を作り、そのタチアナという女性の声色を真似る。

「可愛い、可愛い妹が『剣術ですって!!』と凄い剣幕だったよ。
流石に私では彼女は止められない。近々押しかけて来るのではないかな?」

「うげ・・・。」

「ソニア、先刻からどうしたの?そんな蛙の潰れたような声を出して。」


ソニアは心底嫌そうな顔をしている。

「私、タチアナ様に敵視されているようでして、何かと突っかかってこられるので鬱陶・・
どう対応したら良いか悩むのですよ。」

ノーランは意地の悪い顔でソニアを見る。

「奥方殿、シルヴィの姉のポジション争いをソニアと争っているつもりなのだよ。」

「一方的にですけれど。」

ソニアはしれっと流す。

「お兄様、お義姉様にも大丈夫だからと伝えておいて下さい。」

「うん、その為に暫く君達の鍛錬に付き合うのだよ。私が見て大丈夫だと伝えれば、安心するだろうから。」


大きく頷いてシルヴィアは奮起する。

「分かりました!皆が安心していただく為、お兄様しっかりと見ていてください。
ソニア、いえソニア先生!今日からご指導宜しくお願い致します!」


「シルヴィア様、先生は止めてください。」

すっぱりとソニアが否定する。

「あら、駄目?」

「駄目です。」

「じゃあ、ソニア。今日から宜しくお願いします。」

にっこり微笑むシルヴィアを見て、ノーランが紙に必死に何かを書き綴っている。

「お兄様?何をなさっているの?」

一心不乱な様子にシルヴィアが不思議に思い、問い掛ける。
ノーランは至極真面目な顔で応える。


「ん?イザーク兄さんと奥方殿にね、シルヴィの様子を事細かに伝えなければならないのだよ。
奥方殿が本当にほんとーうにシルヴィを心配しているのだよ。」

「そうなんですの?
お義姉様、私がお話させて頂いている時は、あまり目を合わせてくれないので、嫌われているのかと・・・。」

ノーランはやはりな、とシルヴィアの予想通りの言葉に肩を竦める。

(あの人は不器用な人だからな。超鈍感なシルヴィでは気づかないだろう。)

ノーランは敢えてシルヴィアには言わなかった。
その方が面白いと思ったからだ。

「まあ、今度会った時に聞いてみるといいよ。」

「ええ、分かりました。」

ノーランを白い目で見るソニア。

「・・・本当にノーラン様は人が悪い。」

ソニアの呟きはシルヴィアには聞こえなかった。
ノーランが面白そうに微笑んでいた。


「さて、シルヴィア様。
そろそろ参りましょうか。」

ソニアが頃合いを見て、シルヴィアを促す。

「分かったわ。」



剣の鍛練は屋敷の裏側で行う。
庭だとレイフォードに見つかる恐れがあり、
シルヴィアがまた絡まれるのを防ぐ為だ。

裏側には厩舎があり、レイフォードは立ち寄らない。

厩舎に併設されている馬場を借りる事にした。
馬場は毎日厩舎長が清掃している。

シルヴィアがここを使わせて欲しいと頼むと、快諾してくれた。



まずは準備運動。
馬場を5周する。

「では、最初はこの木刀の素振りを100回。今日は100回だけです。体が慣れてきたら、回数を増やしていきましょう。」


ソニアが手に持った木刀をシルヴィアに渡す。

「持ち方はこうです。」

もう1本の木刀をソニアが握り、構える。
ソニアの構えを真似て、シルヴィアも構える。

「そうです。そしてそのまま頭まで上げて振り下ろします。」

ヒュッと素早く風を切る様に木刀を振り下ろすソニア。
その動きをじっと見つめ、頷きシルヴィアも木刀を頭上まで振りかざす。

「てあっ。」

ふぉんっと振り下ろす。
ノーマンは口元を手で押さえ、身悶える。

「はああああ!!何て、何て可愛い!!この為に来た様なものだ!!」

息を荒くしながら、紙に書き留めていく。

「てあっ!てあっ!てあっ!・・・こんな感じでいいのかしら?」

シルヴィアはソニアの顔を伺う。

「最初はそんな感じで良いですよ。ゆっくりで大丈夫です。
それを繰り返していけば、早く振れるようになっていきますから。」

「分かったわ!」

シルヴィアは力強く頷き、素振りを続けていく。




「・・・・てあっ!・・・・・てあ・・・・・・・てやあ・・・・・・へあ・・・・・。」

「はい、100回。お疲れ様です。」

その場にへたり込むシルヴィア。

腕が痙攣する。

「はあ、はあ、はあ。これは・・・腕に来るわね・・・。でも・・確実に、効いている気が、するわ。」

「そうですね。続けていけば、二の腕が引き締まっていくでしょう。腕の筋肉の痛みが今日の夜辺りに出るでしょうから、これで腕を冷やしてください。」

ソニアから手渡された、冷やされたタオルを腕に宛がう。

「湯浴みの用意をします。暫くお待ちください。」

ソニアは屋敷へ戻っていく。

ノーランは労し気にシルヴィアの頭を撫でる。

「やってみてどうだい?続けられそうかい?」

蒸気した顔で快活にシルヴィアは応える。

「はい!苦しいのは分かっていましたから。
でも新しい事をする楽しみが勝っています。
だから大丈夫です。」

「シルヴィは本当に強いね。普通なら苦しさから逃げたくなる。」

「苦しさから逃げて、もう後悔をしたくないから。」

シルヴィアの瞳が悲しげに揺れる。

「旦那様にこれ以上、嫌われたくないですしね。」

「・・・・。」

シルヴィアは弱音を吐かない。ほとんどと言っていいほど。
どんなに辛い状況でも、今の様に嬉々として乗り越えていく。
それ故、心が折れてしまった時の反動がノーランには恐ろしく思えた。

願わくば、シルヴィアが深く傷つく事のないように。
ノーランは祈る。



ソニアが戻り、シルヴィアは浴室へ向かう。
ソニアの丁寧なマッサージのおかげで、激しい筋肉の痛みに襲われる事は無かった。




鍛練を続けて、三ヶ月。
シルヴィアの二の腕は、見違える程引き締まり、体型も徐々に以前に戻っていった。

鍛練が余程楽しかったのか、今ではソニアと軽く打ち合いにまで発展している。

本格的ではないので、レイフォードも黙認している。


「シルヴィア様は何処に向かっているのでしょうか?」

見学していたアンが誰に言うでもなく呟く。





更に三ヶ月、鍛練を始めて半年。
シルヴィアの体型は以前に戻った。
以前よりも、筋肉質になってしまったのは言うまでもない。

本人は

「見て!力こぶ!嬉しい!」

幸せそうであった。
















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