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3章
夜会(4)
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「さて、シルヴィア嬢。父上の元へ参りましょうか。」
エリオットが手を差し出す。
シルヴィアはノーランを見る。
「エリオット殿、私もダイオン侯爵に挨拶をさせて頂きます。
シルヴィアは私が連れて行きますから、大丈夫ですよ。」
ノーランがシルヴィアの手を取る。
エリオットは差し出した手を降ろし、肩を竦める。
「・・・残念。では、参りましょうか。」
エリオットが歩き出し、ノーランとシルヴィアもそれに続いた。
大広間の中央へ移動する。
「父上、シルヴィア嬢をお連れしましたよ。」
エリオットがそう言うと、招待客に礼をしこちらを振り返り歩み寄ってくるダイオン。
エリオットとレイフォードの父親だけあって、黄金の髪が立派でエリオットよりも更に短く刈り上げられている。穏やかな深いエメラルドグリーンの瞳。シルヴィアの父親と懇意なのが頷ける程、がっしりとした体躯。
「シルヴィア、よく来てくれた。心より歓迎する。」
低く落ち着いた声。
「本日はお招きありがとうございます、ダイオンお義父様。」
ダイオンはよくジュードに会いに屋敷に訪れていたので、シルヴィアとも何回も顔を合わせていた。
その度に可愛がってくれた。レイフォードを連れて来れないことを気にして、レイフォードの近況などを、話してくれたりした。
「ははは。ちゃんと約束を守ってくれてありがとうな。」
満面の笑みでシルヴィアの頭をを撫でる。
結婚したら、自分の事を父と呼んで欲しいと以前からシルヴィアと約束していた。
「・・・シルヴィア、すまないな。」
「・・・え?突然、どうなされたのですか?」
先程まで笑顔だったダイオンの表情が一変する。
眉が下がり、悲哀に満ちている。シルヴィアの両手を労わる様に握る。
「ゴードンから、報告は受けている。」
「あ・・・。」
「今更だが、幾らシルヴィアが慕っているとはいえ、あの状態のレイフォードと一緒にさせるべきでは無かった。
結婚してまだ間もないが、もしシルヴィアが離縁したいのであれば、言ってくれ。
直ぐには難しいが、必ずお前の不利益にならないように対応する事とを約束する。
離縁したとしても、お前は俺にとっては娘も同然の存在だ。それだけは変わらない。」
シルヴィアは困惑する。おかしいな。離縁したいなど思ってもいないのに。
シルヴィアはダイオンを見据える。
「お義父様?私、旦那様と離縁したいなんて思っていませんよ。
私は旦那様をお慕いしていますの。」
ハッキリとした口調で言い切る。
聞き間違いかと思い、ダイオンが確認する。
「シルヴィア、ゴードンからの報告では、レイフォードの仕打ちはそれは酷いものだったと聞く。
あいつを庇っているなどでは無いのか?もしそうであるのなら、無用だぞ。」
シルヴィアは勢いよく首を横に振る。
「とんでもございません!私は本当に旦那様をお慕いしているだけなのです。」
「聞くに耐えない罵詈雑言だったのにか・・・?」
「それは、私の自業自得ですもの。旦那様は私のこの姿に失望落胆されたのですわ。」
「いや、それは違うだろう・・・。」
今度はダイオンが困惑する。確実にレイフォードが悪い筈だ。にも拘わらず、自分に非があると言う。
「ダイオン先生。シルヴィは本気でそう思っていますよ。」
ノーランは剣術の師範であるダイオンに事も無げに告げる。
「シルヴィが嘘をつくのが下手なのは、先生も知っているでしょう。」
「む・・・確かに。」
「本当にレイフォード殿の事を慕っているのですよ。(残念な事に。)」
「僕も先程、お話させて貰ったけど、どうやら本当にそうみたいだよ、父上。(残念な事に。)」
エリオットもノーランに同意する。
「お前達・・・初対面の筈なのに、やけに息が合ってないか?」
ダイオンは怪訝な顔で二人を見る。
その後、シルヴィアに視線を向ける。
ふぅと息を吐き
「シルヴィアが良いのであれば、俺が口を出す事ではないな。」
「はい!私頑張ります!」
「頑張る・・・?」
シルヴィアが元気良く応える言葉にダイオンが首を捻る。
エリオットとノーランは噴き出して笑う。
「・・・っふ、ふはははっ。父上・・ふ、それについて後で話すから、今は流しておいてよ。」
「ふふふ。そうですね、父上にまだ許可を得てませんしね。
先生が先に知っていると、父上の機嫌が悪くなってしまいますから、少し待って頂けますか?」
「む・・うむ。」
納得がいかないダイオンだが、ジュードのシルヴィア溺愛振りを知っているので、要らぬ面倒事に巻き込まれては敵わない。
取り敢えず頷いておいた。
「あ!そうだわ!
お兄様、お義父様はお兄様の剣の先生でいらっしゃるのよね?
なら、私も・・・「いや、本当にそれは父上が(嫉妬で)怒り狂うから、絶対に許可は降りないよ。」
「そ、そうなの?」
シルヴィアが名案だと、ノーランに言い終わる前に却下された。
何故怒り狂うのかシルヴィアには分からなかったが、ノーランと更にエリオットまでもが同意するかのように頷いていたので、シルヴィアはあっさりと引き下がる。
それを見てダイオンは何となく察し、
(俺は何も聞こえなかった。)
貝になった。
シルヴィアはキョロキョロと辺りを見渡す。
「あの、お義父様。旦那様は何処かへ行かれたのですか?」
シルヴィアが来た時には既に居なかったレイフォード。気にはなっていたが、ダイオンとの会話が一区切りするまで聞かずにいた。
ダイオンが渋い表情を浮かべて応える。
「俺が先程の件でレイフォードにきつく言ってしまってな、臍を曲げて何処かへ行ってしまった。
シルヴィアは自分のせいだと言っていたが、俺にはどうしても許せなくてな・・。」
「そう、ですか・・。」
肩を落とすシルヴィアを見て慌てるダイオン。
「い、いや、本当に済まない。
更にお前に強く当たるかもしれないのに、余計な事を言ってしまった。」
「ああ、いいえ。それは大丈夫なのですが、旦那様の姿を先程少ししか拝見出来なかったので、
正装された姿をもう少しよく見たかったなと思っただけです。」
ふぅと溜め息をつくシルヴィアを見て、エリオットがまた笑い出す。
「はははは!もうシルヴィア嬢は本当にレイフォードが好きなんだね!」
「・・・はい!」
顔を赤く染め、はにかむシルヴィアを目を細めて見つめるエリオット。
「・・・・本当に羨ましく思うよ。アイツが。」
「え?」
エリオットの呟きはシルヴィアに聞き取れなかった。
「レイフォードはしばらく帰ってこないだろう。
シルヴィアもノーランも気にせずに楽しんでくれ。」
ダイオンに言われ、ノーランとシルヴィアは暫くダイオン達と談笑した後、レイフォードの屋敷へと帰る。
去り際、エリオットにノーランは呼び止められた。
「ノーラン殿、いや、もうノーランでいい?僕もエリオットでいいからさ。
また後日話したい事があるから、君の屋敷へ伺うよ。」
「分かりました。エリオット。
都合の良い日を連絡致します。」
シルヴィアはいつの間にか仲良くなっている二人を見て羨ましく感じ、自分も早くレイフォードに認められるように頑張ろうと、決意を新たにした。
エリオットが手を差し出す。
シルヴィアはノーランを見る。
「エリオット殿、私もダイオン侯爵に挨拶をさせて頂きます。
シルヴィアは私が連れて行きますから、大丈夫ですよ。」
ノーランがシルヴィアの手を取る。
エリオットは差し出した手を降ろし、肩を竦める。
「・・・残念。では、参りましょうか。」
エリオットが歩き出し、ノーランとシルヴィアもそれに続いた。
大広間の中央へ移動する。
「父上、シルヴィア嬢をお連れしましたよ。」
エリオットがそう言うと、招待客に礼をしこちらを振り返り歩み寄ってくるダイオン。
エリオットとレイフォードの父親だけあって、黄金の髪が立派でエリオットよりも更に短く刈り上げられている。穏やかな深いエメラルドグリーンの瞳。シルヴィアの父親と懇意なのが頷ける程、がっしりとした体躯。
「シルヴィア、よく来てくれた。心より歓迎する。」
低く落ち着いた声。
「本日はお招きありがとうございます、ダイオンお義父様。」
ダイオンはよくジュードに会いに屋敷に訪れていたので、シルヴィアとも何回も顔を合わせていた。
その度に可愛がってくれた。レイフォードを連れて来れないことを気にして、レイフォードの近況などを、話してくれたりした。
「ははは。ちゃんと約束を守ってくれてありがとうな。」
満面の笑みでシルヴィアの頭をを撫でる。
結婚したら、自分の事を父と呼んで欲しいと以前からシルヴィアと約束していた。
「・・・シルヴィア、すまないな。」
「・・・え?突然、どうなされたのですか?」
先程まで笑顔だったダイオンの表情が一変する。
眉が下がり、悲哀に満ちている。シルヴィアの両手を労わる様に握る。
「ゴードンから、報告は受けている。」
「あ・・・。」
「今更だが、幾らシルヴィアが慕っているとはいえ、あの状態のレイフォードと一緒にさせるべきでは無かった。
結婚してまだ間もないが、もしシルヴィアが離縁したいのであれば、言ってくれ。
直ぐには難しいが、必ずお前の不利益にならないように対応する事とを約束する。
離縁したとしても、お前は俺にとっては娘も同然の存在だ。それだけは変わらない。」
シルヴィアは困惑する。おかしいな。離縁したいなど思ってもいないのに。
シルヴィアはダイオンを見据える。
「お義父様?私、旦那様と離縁したいなんて思っていませんよ。
私は旦那様をお慕いしていますの。」
ハッキリとした口調で言い切る。
聞き間違いかと思い、ダイオンが確認する。
「シルヴィア、ゴードンからの報告では、レイフォードの仕打ちはそれは酷いものだったと聞く。
あいつを庇っているなどでは無いのか?もしそうであるのなら、無用だぞ。」
シルヴィアは勢いよく首を横に振る。
「とんでもございません!私は本当に旦那様をお慕いしているだけなのです。」
「聞くに耐えない罵詈雑言だったのにか・・・?」
「それは、私の自業自得ですもの。旦那様は私のこの姿に失望落胆されたのですわ。」
「いや、それは違うだろう・・・。」
今度はダイオンが困惑する。確実にレイフォードが悪い筈だ。にも拘わらず、自分に非があると言う。
「ダイオン先生。シルヴィは本気でそう思っていますよ。」
ノーランは剣術の師範であるダイオンに事も無げに告げる。
「シルヴィが嘘をつくのが下手なのは、先生も知っているでしょう。」
「む・・・確かに。」
「本当にレイフォード殿の事を慕っているのですよ。(残念な事に。)」
「僕も先程、お話させて貰ったけど、どうやら本当にそうみたいだよ、父上。(残念な事に。)」
エリオットもノーランに同意する。
「お前達・・・初対面の筈なのに、やけに息が合ってないか?」
ダイオンは怪訝な顔で二人を見る。
その後、シルヴィアに視線を向ける。
ふぅと息を吐き
「シルヴィアが良いのであれば、俺が口を出す事ではないな。」
「はい!私頑張ります!」
「頑張る・・・?」
シルヴィアが元気良く応える言葉にダイオンが首を捻る。
エリオットとノーランは噴き出して笑う。
「・・・っふ、ふはははっ。父上・・ふ、それについて後で話すから、今は流しておいてよ。」
「ふふふ。そうですね、父上にまだ許可を得てませんしね。
先生が先に知っていると、父上の機嫌が悪くなってしまいますから、少し待って頂けますか?」
「む・・うむ。」
納得がいかないダイオンだが、ジュードのシルヴィア溺愛振りを知っているので、要らぬ面倒事に巻き込まれては敵わない。
取り敢えず頷いておいた。
「あ!そうだわ!
お兄様、お義父様はお兄様の剣の先生でいらっしゃるのよね?
なら、私も・・・「いや、本当にそれは父上が(嫉妬で)怒り狂うから、絶対に許可は降りないよ。」
「そ、そうなの?」
シルヴィアが名案だと、ノーランに言い終わる前に却下された。
何故怒り狂うのかシルヴィアには分からなかったが、ノーランと更にエリオットまでもが同意するかのように頷いていたので、シルヴィアはあっさりと引き下がる。
それを見てダイオンは何となく察し、
(俺は何も聞こえなかった。)
貝になった。
シルヴィアはキョロキョロと辺りを見渡す。
「あの、お義父様。旦那様は何処かへ行かれたのですか?」
シルヴィアが来た時には既に居なかったレイフォード。気にはなっていたが、ダイオンとの会話が一区切りするまで聞かずにいた。
ダイオンが渋い表情を浮かべて応える。
「俺が先程の件でレイフォードにきつく言ってしまってな、臍を曲げて何処かへ行ってしまった。
シルヴィアは自分のせいだと言っていたが、俺にはどうしても許せなくてな・・。」
「そう、ですか・・。」
肩を落とすシルヴィアを見て慌てるダイオン。
「い、いや、本当に済まない。
更にお前に強く当たるかもしれないのに、余計な事を言ってしまった。」
「ああ、いいえ。それは大丈夫なのですが、旦那様の姿を先程少ししか拝見出来なかったので、
正装された姿をもう少しよく見たかったなと思っただけです。」
ふぅと溜め息をつくシルヴィアを見て、エリオットがまた笑い出す。
「はははは!もうシルヴィア嬢は本当にレイフォードが好きなんだね!」
「・・・はい!」
顔を赤く染め、はにかむシルヴィアを目を細めて見つめるエリオット。
「・・・・本当に羨ましく思うよ。アイツが。」
「え?」
エリオットの呟きはシルヴィアに聞き取れなかった。
「レイフォードはしばらく帰ってこないだろう。
シルヴィアもノーランも気にせずに楽しんでくれ。」
ダイオンに言われ、ノーランとシルヴィアは暫くダイオン達と談笑した後、レイフォードの屋敷へと帰る。
去り際、エリオットにノーランは呼び止められた。
「ノーラン殿、いや、もうノーランでいい?僕もエリオットでいいからさ。
また後日話したい事があるから、君の屋敷へ伺うよ。」
「分かりました。エリオット。
都合の良い日を連絡致します。」
シルヴィアはいつの間にか仲良くなっている二人を見て羨ましく感じ、自分も早くレイフォードに認められるように頑張ろうと、決意を新たにした。
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