げに美しきその心

コロンパン

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4章

疼き

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足早に食堂を退出したシルヴィア。

しばらく歩いた後、立ち止まり一息つく。

「はああああ。吃驚したわ。まさか旦那様がいらっしゃるなんて。
色々と心の準備が出来ていなかったわ。」

息を整えて、再び歩き始める。

「でも、お元気そうな姿を確認することが出来たし、良かったわ。
・・・・・まだ、私を認めてはくださらなかったけれど・・・・。」

少し声を沈ませる。

「シルヴィア様。」

不意にソニアの声がする。

「なあに?ソニア。」

「私は貴女を守る護衛侍女です。」

「ええ、そうね。どうしたのいきなり?」

シルヴィアは首を傾げる。

「貴女を守るというのは、肉体だけではなく、その心も含まれています。」

「?心?う、うん?そうなの?」

ソニアは跪き、シルヴィアの手を取る。
いつになく真剣な面持ちでシルヴィアを見つめる。

「貴女の心が傷付く事を私は看過出来ない。あの男は幾度もシルヴィア様を傷付けてきた。
私はそれをとても許すことが出来ません。」

「ソニア、私なら大丈夫だから、」

シルヴィアの言葉を遮る。

「そう仰る事は分かっていますが、これは私個人が許せないだけです。
ですので、私は少しあの男に・・・・(報復を)」

「え?今何て言ったの?」

ソニアは態と聞こえないように小声で話した。
そして、シルヴィアの手の甲に口づけをする。

「え!!ええ!?」

シルヴィアは自分の手とソニアで視線を行き来させる。

「私は貴女の騎士。貴女は私の姫。いつまでも、貴女を守るあの時の誓いはこの胸に深く刻まれております。」

「・・・・ソニア・・・。本当にどうしたの?」

ソニアは立ち上がる。


「と、昔を少し思い出しましてね?
シルヴィア様が少し気落ちしておられてので、どうです?暗い気分は吹き飛びましたか?」

ソニアはお道化てみせる。
シルヴィアは呆気に取られたが、すぐにプッと吹き出して笑う。

「ふふふふ。もう、ソニアったら。
・・・でもありがとう。」

シルヴィアは、淡く微笑む。
ソニアも同じく微笑み、シルヴィアの髪に触れる。
シルヴィアは少しくすぐったそうな顔をする。

「さあ、ケビンの所に行かれるんでしょう?」

「ええ、そうね。」

シルヴィアは歩き出す。
後ろからソニアが付き従う。
ソニアは一度後ろを振り返る。

「・・・・直ぐには認める事は出来ないからな。」

誰に言うでもなく、ソニアは呟き、シルヴィアの後を追う。












シルヴィアとソニアが話していた頃、
レイフォードは食堂から出て彼女達の姿を確認した。
丁度良いとレイフォードがシルヴィアに声を掛けようとしたその時、
ソニアが跪き、シルヴィアの手に口づけをした。

咄嗟に柱の陰に隠れた。

(な、何で俺が隠れなければならない。第一あの侍女は何なんだ!
一介の侍女が、あのような事。)

笑い声がする。
そっと柱から覗くと、シルヴィアが美しい笑みをソニアに向け、浮かべていた。

思わず胸を押さえる。

(・・・・?)

自分でも分からないが、何故か胸の辺りが疼いた気がした。
首を捻るレイフォード。

(あいつ、あんな風に笑うのか。俺の前ではあんな顔見せないのに。)

そのまま歩き出すシルヴィアの後ろ姿をただ見ていた。
先程の侍女が何故かこちらを振り返る。

「・・・・直ぐには認める事は出来ないからな。」

自分に向けての言葉である事はなんとなく理解できた。
認める?

言葉の意味は理解できなかった。

「あの侍女、まさか態と・・・。」

自分が居る事を知ってあんな行動をしたのか。

何故そんな事を。

考えても答えが出なかった。

そうこうしているうちに、二人は居なくなった。

早いうちに、シルヴィアに礼を伝えて、自室に戻ろう。

「ケビン、と言ったな、そいつの所へ行くと。」

一度食堂に戻り、ゴードンにケビンという名の使用人の居場所を聞き出した。

「さっさと済ませて、部屋に戻る。」




庭師であるケビン。シルヴィアが雇ったという男。
妙な胸騒ぎを感じつつも、レイフォードが庭へ向かう。





目にしたのは、シルヴィアを見つめる目が使用人のそれではない、

熱の篭った瞳をした見覚えのある男だった。
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