げに美しきその心

コロンパン

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5章

決別

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「レ・・・旦那様!どうしてここに?」

「レイフォード!」

シルヴィアの言葉を遮る様に、デボラは大声を出してレイフォードに駆け寄る。

「ちゃんとお金持ってきてくれた?」

レイフォードにしな垂れる様に腕に絡み付こうとするデボラを避け、
シルヴィアの元へ走り寄るレイフォード。


「大丈夫か、何もされていないか?」

レイフォードがシルヴィアの無事を確かめる。
シルヴィアは戸惑いながら答える。


 「は、はい。私は何もされておりません。大丈夫です。」

安堵の表情を浮かべるレイフォードを見てシルヴィアはただただ、戸惑うだけだった。

(何故、レイフォード様が此処に・・・。)

「ちょっと!金は!金はどうしたのよ!」

存在を無視されたデボラが苛立ちながら喚く。
レイフォードは一瞥して、言い放つ。

「そんな物最初から用意していない。」

「なっ・・・!」

レイフォードは言葉に詰まるデボラに軽蔑の目を向ける。
デボラは眼を剥く。

「レイフォード!!
お前、母親である私にを助けるつもりはないのか!!
この、親不孝者!!」

レイフォードは冷めた目で見る。

「自ら俺を捨てて置きながら、母親面とは、な・・・。
俺は、お前をもう母親とは思わない。
此処へはシルヴィアを助ける為に来ただけだ。」


シルヴィアは我が耳を疑った。

(え!レイフォード様、今私の名前・・・お呼びになった!?)

「このような事をして、只で済むとは思わない事だ。
此処にもうじき衛兵が来る。その前に伝える事だけ伝えたかっただけだ。」

デボラの顔が屈辱に染まる。

「産んでくれた事には感謝するが、それだけだ。
もう二度と会うことも無いだろう。」


「・・・・馬鹿にして・・・!馬鹿にしやがって!!」

肩を震わせ、デボラはぶつぶつと呟く。

シルヴィアはデボラが手に持つ何かに気付いた。
自分の横に転がっていた木の棒を縛られた手で咄嗟に握る。






「旦那様!!!」

ザシュッ。

シルヴィアの左胸のドレスがデボラの振りかざしたナイフで裂ける。

「やあっ!!」

バシッ!!

シルヴィアは木の棒で、デボラの腕を打ちナイフを払い落とす。
そして、レイフォードの前に立ち、構えるシルヴィア。

「シルヴィア!!」

レイフォードは顔を悲愴に歪める。

「旦那様、お怪我はありませんか!?」

デボラは腕を押さえ床に蹲る。

「い、痛・・。あんた、なんなの・・・。」

シルヴィアはしっかりとデボラを見据える。

「私は、ビルフォード家の娘、シルヴィアと申します。」

デボラはその家名を聞いた途端、顔色を変える。

「ビ、ビルフォード家ってまさか・・・!」

「はい、鬼神の娘です。」

にこりと微笑み、シルヴィアは続ける。

「そして、かつて貴方の子供であったレイフォードの妻です。
夫に害を為すのであれば、私は一切容赦は致しません!」


がくがくと震えながら、後退り命乞いを始めるデボラ。

「っひ・・・!本当に化け物・・・。
お、お願い!!もう、二度と姿を見せないから、見逃して頂戴・・・!!」

「それは私が、決める事ではありません。」

シルヴィアが毅然とした態度で言い切る。




「そうだな。取り敢えず衛兵に身柄を渡して、王が直々に判断する事だ。」


後ろからの力強い声に、パッと振り返るシルヴィアは顔を綻ばせる。

「お父様!!」

「鬼神!!!!・・・・・・・・・・。」

デボラはジュードの顔を見た瞬間、白目を剥き卒倒する。
ジュードはそれに意に介さず、シルヴィアの元へ歩み寄る。

「お父様、何処かお怪我をされたのですか?
こんなに血が・・・・!」

「俺が、そんなヘマをする訳無かろう。」

にっと口角を上げて、シルヴィアの頭を撫でるジュード。
対照的にレイフォードは顔を引き攣らせる。

(声からしてかなりの人数があの部屋に居た筈。それを無傷だと・・!?
本当にこの方は人間なのか?)


そうレイフォードがぐるぐる頭の中で考えあぐねているが、
ジュードの言葉で、ハッとする。

「折角、お前に良く似合っていた美しいドレスが、
ああ、肌も少し切れているではないか。
・・・それだけでも、この女は極刑に値するが、
アイツに託すしか無いのが、歯痒いな。」

堪らず、声を掛けるレイフォード。
シルヴィアの両肩を持ち、こちらへ向かせ、

「お前!、何て無茶な真似をするんだ!
俺なんて庇って、ドレスだけでなく、
こんな怪我も!
何を考えているんだ!」

レイフォードの余りの剣幕に、震えながら、
シルヴィアは謝罪する。


「も、申し訳ございません・・・。
でも、旦那様が襲われそうになっているのを見たら、体が勝手に動いてしまいました。」


すっかり気落ちし、視線を下に落としてしまったシルヴィア。

(ああ、またレイフォード様に怒られてしまったわ・・・。
私ったら、いつも余計な事ばかりしてしまう。
レイフォード様が、美しい女性をお慕いするのも、
分かるわ。
私の様な変な女、誰だって・・・。)


シルヴィアの体をふわりとした物で覆われる。
その瞬間、目の前が暗くなり、圧迫感に襲われる。

「心配したんだぞ・・・!」

頭上から声がする。
恐る恐る顔を上げると、自分の顔の至近距離にレイフォードの、眉根を顰めた顔があった。

「だ、だひゃ、旦那ひゃま!!!??
え、うえ!なん、どうして、えええええ!」

レイフォードに抱き締められている事実に、
混乱に陥ったシルヴィアは悲鳴に近い声を上げ、
顔を真っ赤にしながら、抜け出そうと身を捩る。

だが、レイフォードの腕が逃がさない、というように更に強く抱き締める。

「何故、逃げようとするんだ。」

レイフォードの切なそうな顔に、
もうどうしたら良いのか分からないシルヴィアは、

「な、なぜって、えと、その
あ、お顔が、近すぎて、ううぅ。」

「本当に心配したんだぞ、分かっているのか?」

(きゃああああああ!!レイフォード様あ!!!だめえ!!
だから、お顔が近いのです!!)


更に顔を寄せるレイフォード。
唇が近づいて、シルヴィアの額に付きそうになる寸前に、後から咳払いする音が耳に入る。


存在を忘れられて複雑な、
少しムッとした表情のジュードが口を開く。

「そろそろ、そこに転がってる女を連れて行きたいのだが?」


「(お父様がいらっしゃった!!)・・・・!!!!きゅう・・・。」

シルヴィアは父親に見られていた事に気付いてとうとう意識を手放す。

「シ、シルヴィア!?おい!しっかりしろ!!
まさか、先程の傷で!!?」

レイフォードが腕の中のシルヴィアを揺らし、慌てふためく。


「レイフォード、うちの娘は本当にそういう事に無縁で育ったのだ。
そのような接触に慣れてない。
触れる時には充分注意してくれ。」


レイフォードははたと自分の腕の中で、
気絶しているシルヴィアを見て、
自らも顔を赤く染める。

「あ!いや、これは!
そんなつもりは!本当に心配だったもので!」

火遊びを繰り返してきたレイフォードらしからぬ反応に、ジュードは我が目を疑う。

「まさかな・・・。」

首を振るジュード。






後に馬車でソニアがシルヴィアを迎えに来たが、
レイフォードが中々シルヴィアを離さず、
痺れを切らしたソニアが、
レイフォードに耳打ちした後、

レイフォードは顔を蒼くさせ、渋々シルヴィアを解放した。

そんな騒動に一切気づく事なく、幸せそうにすやすやと眠っていたシルヴィアが、目を覚ましたのは、

屋敷に到着して一時間後だった。











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