げに美しきその心

コロンパン

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6章

困惑

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シルヴィアは困っていた。


本当に困っていた。


「?どうした?シルヴィア。そんな顔をして。(可愛いから全然構わないが。)」


困っている原因の声。

「い、いいえ。何でもありません。旦那様。
でも、あの。少しだけ・・・。」


「ん?何だ?」

色の含んだ声をレイフォードは乗せる。
言葉に詰まるシルヴィア。
そしてフォークを置き、顔を少し横に向ける。


「・・・!!少しだけ・・・離れても良いでしょうか・・・。」

顔を向けると、僅か数センチの距離にレイフォードの顔がある。
シルヴィアは居たたまれなく顔を伏せる。


恥ずかしい、緊張する。
ずっと俯きながら食事を摂るシルヴィアには、
レイフォードが蕩ける様な目でシルヴィアを見つめているとは知らない。


椅子を少し離し、食事を再開しようとするシルヴィア。
だが、直ぐにレイフォードが椅子を近づけて、またシルヴィアを見つめる。

「何故、離れる?」

「・・・・ううう。」

(な、なに。これは、一体。私はどうしたらいいの・・・。)






一時間前、食堂に行くと扉の前にレイフォードが立っていた。


シルヴィアは何かあったのかと思い、レイフォードに尋ねた。
レイフォードはシルヴィアを見つめ、頬を染めてシルヴィアの手を握る。


「おはよう、シルヴィア。良く眠れたか?」

「お、おはようございます?旦那様。
ど、どうされたのですか?」

自分の手を握るレイフォードとレイフォード自身に視線が行き来する。
シルヴィアの手の甲を指で撫でる。

「ひえっ!!!!???」

素っ頓狂な声を上げるシルヴィアを見て、吹き出すレイフォード。

「ふ、ははは。どうしたんだ。そんな変な声を出して。」

「え、あ!?旦那様、何故?」

レイフォードは少し目を伏せて呟く。

「その、昨日は俺のせいで辛い目に遭わせてしまっただろう?
あの後に傍に居たかったのだが、お前の侍女が、」

「ソニアが?どうなさったのですか?」

言いにくそうにレイフォードが話す。

「・・・寝込みを・・・・・・・・いや、良い。」

シルヴィアは首を傾げる。
レイフォードは首を横に振り、シルヴィアの手を取り部屋へ誘う。

「早くお前の顔が見たくて、待っていた。」

「旦那様・・・。」

好きな人が他に居る筈なのに、自分の事を心配してくれるレイフォードに
また胸が締め付けられる思いのシルヴィアに気付かず、
自分の隣へシルヴィアを座らせると、ゴードンに合図をする。
レイフォードは食事の用意が整う間、ずっとシルヴィアを見つめていた。


食事中も見つめていた訳だが。






そして今に至る。

(何故こんな事になっているの・・・。)

シルヴィアにはもうこの状況が理解できなかった。

給仕に来たゴードンに縋る様な目線を送る。

「ゴ、ゴードン・・・。これは、一体・・・。」

ゴードンに目線を向けた瞬間、隣の空気が冷えた気がした。
慌てて横を向くと、先刻までとは打って変わって、
レイフォードが明らかに不機嫌な目つきでシルヴィアを見ていた。

また私は何かしたのだろうか・・・。
シルヴィアはレイフォードに恐る恐る話しかける。

「あの、旦那様・・・。私、何か・・・。」

シルヴィアの声にはっとして、レイフォードは何でも無い様に取り繕う。

「いや、何でもない。・・・・シルヴィアは、その・・・なんだ、
屋敷の人間ととても仲が良いんだな・・・。」

「?はい!皆さんとても良くして下さります!」

レイフォードはシルヴィアの弾ける笑顔に、口を手で覆う。

「・・か!・・・・んんっ。・・・そうか。」


(レイフォード様はこんな私にも心を砕いて下さる優しい御方。
これは、何としてもお慕いしている女性の為に身を引かねば・・・。)

決意を固めたシルヴィアの顔を見ずに、レイフォードは横を向きながら、
シルヴィアへ話す。
レイフォードの顔は赤いのだが、横を向いている為、シルヴィアには見えなかった。

「シルヴィア?今日なんだが、時間があるか?」

(離縁のお話ね。早くしなければいけないわね。)


「はい、わかりま・・「シルヴィア様は今日、剣の鍛錬の後に屋敷の人間の方々に無事を伝えに行く予定になっております。」


了承の返事をする前に、ソニアが割って入る。
ソニアへ向くシルヴィア。

「ソニア!何を言っているの!?」

「剣の鍛錬は毎日続けるというお約束でしたよね?」

「そ、それはそうだけど・・・。」

シルヴィアは言い淀む。
レイフォードは我が耳を疑う。

「ちょっと待て。剣の鍛錬と言ったな?
まさかと思うが、シルヴィアが、剣の鍛錬を・・?」

ソニアは迷いなく言う。

「はい、シルヴィア様が剣の鍛錬をなさっています。」


レイフォードはガタンと椅子を倒して立ち上がる。

「何故、そんな危険な事を!!」

ソニアは淡々と述べる。

「貴方様がシルヴィア様の事をお認めにならなかったから、
シルヴィア様がお考えになった末、こうなったのです。」


「・・・・・。」

「もう!ソニア!
旦那様違います!自分の為にしている事です。」

シルヴィアがレイフォードに言い募る。
レイフォードはシルヴィアを制止する。

「いい。本当の事だ。俺が馬鹿な事を言ったせいで、
お前がしなくても良い事をさせてしまった。
済まない。だが、もうそんな事しなくていい。」

レイフォードはまたシルヴィアの手を握る。今度は両方の手を。
シルヴィアの頬が赤く染まっていく。

「だ、旦那様!?」

「もう、シルヴィアはそんな事をする必要は無い。」

自分はもう必要ない?
シルヴィアはそう言われた気がした。

「・・・必要ないですか・・・。」

「ああ、そんな危険な事、シルヴィアが怪我でもしたらどうするんだ。」

「え?」

レイフォードの右手がシルヴィアの頬に触れる。

「もうシルヴィアを危険な目に遭わせたくない。」

シルヴィアの赤い頬が更に赤くなっていく。

「あああ、あのぅ・・・。剣の鍛錬は危険では無いので大丈夫ですよ?」

おずおずと話すシルヴィア。
首を横に振るレイフォードはシルヴィアに顔を近づける。
シルヴィアの手をまた撫でながら、レイフォードは真剣な表情を見せる。

「いいや、剣の鍛錬でこの白く美しい手が怪我でもしたらいけない。」

(美しい!?って今仰った?・・・いや、聞き間違いよね?)


レイフォードに押し切られそうになるが、自分でやると言った手前、早々に止める事をしたくなかった。

「で、でも・・・。」

「心配ならば、一度ご覧にならば宜しいのでは?
私がシルヴィア様に怪我をさせる様なへまはしませんけれど。」

ソニアが助け船を出す。
レイフォードはソニアを苦々しく見る。

「くう・・・。確かにお前がシルヴィアを怪我させる事は無いと思うが・・・。」

シルヴィアはソニアとレイフォードを見比べる。

(何だかとても砕けた感じに見えるわ。)

「ソニア、いつの間にそんなに旦那様と打ち解けたの?」

シルヴィアの発言に二人は同時に叫ぶ。

「何でそうなるんですか!!」

「何でそうなる!!」

目を大きく見開いてからシルヴィアがくすくす笑い出す。

「とても息が合っているじゃない。ふふふ。」

「「・・・・・。」」

レイフォードとソニアがバツが悪そうな顔をする。








(折角、こんなに仲良くなれたのに、残念だわ・・・。)

シルヴィアは少し悲しげに眉を寄せる。


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