げに美しきその心

コロンパン

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6章

画策

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部屋に戻り、シルヴィアは未だに信じられないという表情で呟く。

「離縁されなかったわ・・・。」

「そのようですね。」

ソニアは答える。

「勘違いとも言っていたわ。どういう事かしら・・・。」

「そのままの意味では?」

「そのまま・・・・。レイフォード様に好きな方はいらっしゃらな・・い?」

シルヴィアは首を傾げる。

「・・・・・。そう捉えますか。」

「え?違うの?」

ソニアが形容しがたい表情をする。

(あんなにあからさまなのに、本当にシルヴィア様の鈍さと言ったら。)

「まぁ、でも良かったではないですか。離縁されなくて。」

「そ、そうね。そうよね。良かったのよね。
レイフォード様のお傍にまだいられる事が出来るもの。」


自分に言い聞かせるように話すシルヴィア。

「そうですね。さあ、シルヴィア様湯浴みの用意が出来ていますので、
お入りになってください。」

「分かったわ。」

ソニアの言う事に素直に聞いて浴室へ向かう。

「あの坊ちゃんが変に暴走しなければ、良いのですけれど・・・。」

主人の居なくなった部屋でソニアは漏らす。














「ゴードン。」

「はい、どうされましたか?」


自室に戻り、レイフォードはベッドに腰掛けゴードンの名を呼ぶ。


「なぁ、何で俺とシルヴィアはまだ別々の部屋なんだ?」

「は・・・・。」


問い掛けている意味を測り兼ね、ゴードンは言葉を失う。
レイフォードの顔を窺うと目が虚ろで、どこか正気では無いように感じられた。


「シルヴィア様の部屋は、レイフォード様が割り振られたではないですか。」

「そんな事は分かっている。」

ゴードンは一体何が言いたいのか、目の前の青年を訝しげに見る。
思いつめた表情でレイフォード。

「以前と違って、お互いが想い合っている夫婦なら部屋は一緒な筈だよな。
なら、俺達もそうあるべきだ。」

「ですが、シルヴィア様はまだレイフォード様のお気持ちはお知りになられていないのですよね?
それでいきなり部屋を一緒にするのは、
シルヴィア様がお困りになるのではないのでしょうか?」

押し黙るレイフォード。

「俺はあんなに鈍い奴に出会ったこと無い。
あれだけ迫られたら、誰だって自分に気があると思うぞ、普通は。」

レイフォードが若干、やけくそ気味に吐く言葉に静かに諫めるような言い方でゴードンは語る。

「レイフォード様が発した言葉が余程、染み付いているのでしょう。
あれ程、酷いお言葉を覆すのは容易ではないと思います。
シルヴィア様は本当に無垢なお方です。
未だに、レイフォード様が自分の事を御認めになられていないと思っておられるのです。
以前も私に、レイフォード様がお好きな花を庭に植えようと思うが、
ロゼの花で合っているか聞かれました。「言ったのか!!!」

食い気味にレイフォードが少し大きめの声を出す。


「いいえ、レイフォード様がロゼの花をお好きだとは存じ上げませんと言いました。
シルヴィア様は納得のいってないご様子でしたが。」

レイフォードは頭を抱えて、ベッドに横たわる。


「随分とシルヴィアと親しく話してるよな、お前。
俺は、一度も話しかけられた事無いぞ。」

恨めし気な目線をごーゴードンに向ける。
ゴードンは呆れた様子で溜息を吐く。

「それもレイフォード様が話しかけるなと仰ったからではないですか。」


「分かっているさ!子供染みた嫉妬な事は。」

(過去の自分の発言がどれだけ自分の首を絞めているか、今になって痛感する。)


考え込むレイフォードにゴードンは問いかける。

「早くお伝えにならないのですか?」

「・・・・・。」

「シルヴィア様はいつまでもお気付きにならないかと思いますけれど。」

「・・・万全の状態で言いたい。」

「万全とは・・・?」

レイフォードは躊躇う。
だが、ゴードンが早く言えとい急かす様な表情で見てくるので観念してボソッと言う。


「場所とか、言葉とか入念に整えたいんだよ。
勢いに任せて言いたくない。」

(レイフォード様はこんなお方だったのだろうか、
恋とはここまで人を変えてしまうのか。)

ゴードンが何も言わずにいるのが居たたまれなくなり、レイフォードががばっと起き上がり騒ぎ出す。

「自分でも気持ち悪い事ぐらい分かっている!だからって、そんな反応しなくてもいいだろ!!」

「いえ、そんな事は思っておりません。驚いているだけです。」

ゴードンが冷静な様子だったので、幾分か落ち着きレイフォードも静かに話す。


「初めてなんだよ、こんな気持ちになったのは。
ちゃんと伝えたいんだ。
今までの俺は本当に愚かだった。
彼女の気持ちを踏みにじる様な振る舞いを取ってきた自分が恥ずかしい。
それについては誠意を持って謝る事は出来た筈だ。
だから後は・・・。」

ゴードンはレイフォードが変わろうという姿勢に感動し、涙ぐむ。
胸のポケットからハンカチを取り出し、
目に当てる。

「私はシルヴィア様が来てくださって、本当に良かったと思っています。
ずっとレイフォード様と共に歩んで頂きたいと。
私で出来ることがあれば、幾らでもお申し付け下さい。」

レイフォードは眉尻を下げて、ゴードンを見る。
が、瞬間剣呑な目でゴードンのそれを凝視する。
ゴードンがハッと気付いた時には、既に遅く、
レイフォードはゴードンのハンカチから目線を外す事無く、

「そう言えば、俺はまだシルヴィアのハンカチを貰っていないのに、
お前はいつの間に貰ってるんだろうな?」

(いやいや!貴方全然屋敷に居らっしゃらなかったじゃないですか!!)

ゴードンは心のツッコミが口から出そうになるのを、寸前で押し込める。
レイフォードは更に続ける。

「なあ、ゴードン。
俺の隣の部屋って空いていたよな?」

「は、はい。」

「あそこは俺の部屋と扉で繋がっていたよな?」

「は、はい。」

「ゴードン、頼みたい事があるのだが。」

ゴードンはただただ嫌な予感しかしなかったが、
自分で申し出た手前、
意見する事も出来なかった。








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