げに美しきその心

コロンパン

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6章

新しい環境

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シルヴィアの悲鳴を聞いて、ソニアがゴードンの制止を振り切り駆けつける。


「シルヴィア様!!」

そこに居たのは、蓑虫状態で顔が真っ赤のシルヴィアと、
それを横抱きにしているレイフォードだった。

お互いが夫婦でなければ、人攫いと断定される状態。

「・・・・何を為さっておいでですか、ご当主。」

殺気を飛ばしてくるソニア。

「何って、シルヴィアの部屋を移動させるのだが?」

事も無げにレイフォードは言う。

「は?」

ソニアが眉を吊り上げる。

「あ、あのぅ・・・レイフォード様・・・。私の部屋を移動するって・・・。」

「ん?そのままの意味だよ。」

優しく応えるレイフォード。
そして、シルヴィアを抱えたまま歩き出す。
ソニアは無言でそれに続く。


レイフォードの部屋の前に到着する。

「・・・ご当主、まさか此処では無いでしょうね?」

「ははっ。まさか!そんな訳ないじゃないか(今は)。
こっちだ、こっち。」

レイフォードは軽快に笑い、レイフォードの隣の部屋を顎で示す。

(本音が聞こえているんだよ、坊ちゃん。)

「これはこれは申し訳ございませんでした。
とうとう順序をすっ飛ばして、実力行使に出たのかと思いましたよ。
まぁ、こちらの部屋でも大差はありませんが。」

微笑みながらソニアは言いのける。
レイフォードは眉毛がピクリと反応し、

「もう、そんな事はしないさ。
少しずつ距離を縮めて置かないとな。
それに実力行使した所で誰かが確実に俺の息の根を止めに来るだろうからな。
そんな無謀な事はしない。」

こちらも微笑みながら言う。

シルヴィアは両者が仲良く話しているのは良い事だと思ったが、
それよりも自分の状況をどうにかして欲しくて、
弱々しくの間に入る。


「レイフォード様・・・。取り敢えず降ろして頂けませんでしょうか?
もう、もう・・・恥ずかしくて・・・・。」

消え入りそうな声を出し、シルヴィアは布の中に顔を隠す。
レイフォードは慌ててシルヴィアに語りかける。

「ああ、済まない。早く部屋の中に入ろう。
ソニアは前の部屋からシルヴィアの荷物を持って来てくれ。」

「・・・承知致しました。」







レイフォードとソニアが部屋に入る。
ソニアは暫く扉の前で無言のままで立っていた。
空気の様に鳴りを潜めていたゴードンは、ソニアから漏れ出る怒りのオーラに戦慄を覚える。


「・・・やけに話を長引かせようとしているかと思ったら、そういう事ですか。
おかしいと思ったんですよね、いつもの貴方にしては無駄な用件を私に言うものですから。
・・・あの坊ちゃんの差し金ですか。」


くるりとゴードンに向き直ったソニア。
瞳は全く笑っていない笑顔に、脂汗が滝の様に流れるゴードン。
獰猛な肉食獣を前にしているかの様に、
震える腕を手で押さえつけ、ゴードンは勇気を振り絞って自分の意思を伝える。

「わ、私はレイフォード様のお気持ちを早く成就させたくて・・・。
シルヴィア様の此処に居て欲しい、屋敷の人間全員の総意もあります。」

ゴードンの言葉に深い溜息を吐く。

「シルヴィア様も此処に居たいと思っていらっしゃるので、
坊っちゃんが馬鹿な事をしなければ、大丈夫ですよ。」

ゴードンは普段の仕様に戻ったソニアに胸を撫で下ろす。

「さて、私は言い付け通りシルヴィア様の荷物を取りに戻ります。」

「私も朝食の準備に戻ります。」

「ああ、それと。先程の事は貴方はただ主人に命じられたに過ぎないので、
お気になさらず。
子リスの様に震えていらして、少し悪い事をしてしまいましたね。」

「子、リス!?」

かあっと顔が赤く染まるゴードン。

「はははっ!冗談ですよ。」

ソニアにしては珍しく声を上げて笑いながら、去って行く。




その場に残されたゴードンは、ソニアが居なくなったのを確認してから呟いた。

「絶対、根に持ってるだろ・・・あれは。
・・・・・・全く、意地悪な人だな。」

苦笑しながら、食堂へ足を向けた。














レイフォードはシルヴィアをベッドの所まで運ぶ。
そして、壊れ物を扱うようにそっと、シルヴィアをベッドへ降ろす。

布を取り、乱れたシルヴィアの髪を整えてやる。

「ありがとうございます。レイフォード様。」

シルヴィアはふう、と息を吐いてまだほんのり赤い顔で微笑む。

化粧台の椅子をベッドまで寄せ、腰を掛けるレイフォード。

「驚かせてしまったな。どうしても、早くシルヴィアにこの部屋を見せたかった。
好みかどうか分からないが、趣味は悪くないと思うのだが、どうだろう?」

そうレイフォードに言われて、部屋を見渡す。
前の部屋は誰の目から見ても、物置部屋だった。
シルヴィア自体はれいレイフォードの屋敷に自分の部屋がある事が、
とても嬉しい事柄であったので、何の不満も無かった。

今のこの部屋はベッドからして、以前と全然違う。
昔絵本で見たような、お姫様が寝ているような天蓋付きのベッド。
刺繍の細やかなレースでベッドを覆う。
所々に金の糸を使っているので、月夜には反射してキラキラ光るのだろうか。


部屋の壁紙も以前は所々に汚れが目立っていたが、
汚れ一つ無い真っ白な壁紙。

確実に値の張る化粧台。
支柱の彫りも一つ一つが丁寧だ。

だが、華美過ぎず、落ち着いた雰囲気でビルフォード家でのシルヴィアの部屋に似ていた。

「・・・こんなに素敵なお部屋・・・。私が使ってもいいのですか?」

何かの間違いでは無いのだろうか。
遠慮がちにレイフォードに聞く。

「当たり前だろう!
シルヴィアの為の部屋だ。使ってくれないと困る。
何の為に伯に聞い・・・・。
いや、何でもない。」

「本当に素敵なお部屋です。ベッドも可愛らしい。
レースに施された刺繍も本当に綺麗。
外を見なくても星が見られるなんて、夢のようです。」

レースを手に取り、うっとりと眺める。

「気に入ってくれたか?」

「はい!勿論です!
ありがとうございます。」

金の刺繍よりも光り輝く笑顔をレイフォードに向ける。

「そ、そうか。気に入ってくれたのなら、嬉しい。」

シルヴィアの笑顔に、思わず唾を呑み込む。
そして、気が付く。
シルヴィアの今の姿を。

薄手のワンピースタイプのナイトドレス。
勿論、肌着は身に付けて居ない。

体のラインがハッキリと分かる。

(この姿を誰にも見られたくないから、布で覆ったのに、自分が一番見てはいけない人間だとは。)

意識しないようにしても、自然と視線がシルヴィアの体の一部へ行ってしまう。

ごくりと喉がなる。
だが、酷く喉が渇く。

疑う事もせず、自分を純粋に見つめてくるシルヴィアが恨めしい。

(俺がそういう事をするなんて一切考えてないのだろうな。
あの時の、あの言葉を未だに信じて。)


シルヴィアの肩を掴む。

「レイフォード様?」

尚も警戒の色を見せない瞳。

(ああ、このまま押し倒してしまえば、簡単に彼女を奪う事は出来るのに。
それが出来たらどんなに良いか。)

「シル、ヴィア。」

声が掠れて上手く言葉が出てこない。

「あ、そこのな、扉、あるだろう。」

シルヴィアはレイフォードの指さす方へ顔向ける。
確かに扉がある。

「はい、ありますね。」

「あの扉の向こうは、俺の部屋に繋がっている。
その意味が分かるか?」

「?・・・・!!!」

ハッとした表情でレイフォードを見る。
レイフォードも理解してくれたのかと、思わず笑みが零れる。

「レイフォード様、」

「ああ。」

「これで、食事の時にわざわざお迎えに来て頂かなくとも、
直ぐに食堂へ向かう事が出来ますね!!」

「・・・・・・・・・・・・・。」

膝から崩れ落ちるレイフォード。
シルヴィアは狼狽える。

「えええ!!レイフォード様!!??」



丁度その時、ノック音が聞こえる。

「シルヴィア様、荷物をお持ちしました。」

「ああ!ソニア、丁度良かった!
大変なの!レイフォード様が体調を崩されたみたいなの!!」

「はぁ。」

「はぁ。って!何て呑気なの!
もう!ゴードンを呼んでくるから!」

ナイトドレスのまま出ようとするシルヴィア。

「おい!待て、待て!いい!俺は大丈夫だから、ゴードンを呼ばなくていい!
寧ろその姿で外に出ないでくれ!」

必死に止めるレイフォード。
ソニアもそれに追随する。

「そうですよ、ご当主は体調が悪いわけでは無いです。
ちょっと宛が外れただけです。」

ギッとソニアを睨み付ける。

「聞いていたのか!?」

知らん顔のソニアは続ける。

「シルヴィア様、ご自分の今の姿を把握してますか?」

「え?」

はた、と自分を見下ろす。
瞬間、火が付いたように顔が赤く染まる。

「やだ!!私!」

辺りを見渡しても、羽織る上着が見当たらない。
パサリ、シルヴィアの体にショールが掛けられる。

「ほぼご当主の責ですね。
シルヴィア様もお怒りになったら宜しいのに。」

「!!シルヴィア・・・。」

不安気にシルヴィアを見るレイフォード。

「レイフォード様を怒るなんて、こんな素敵なお部屋に案内して下さったのに。」

ショールを羽織り幾らか気分が落ち着いたシルヴィアは淡く微笑む。

「シルヴィア!!」

レイフォードはシルヴィアに近づき、抱き締めようとする。

「シルヴィア様はお着替えしますので、退室願いますかね?」

シルヴィアの前に出て、それを阻止するソニア。

「・・・・。少しぐらいいいだろう。」

「駄目です。それだけで済まなくなるでしょう?どうせ。」


「・・・・。ちっ。」

「ご退室お願いします。」

「・・・シルヴィア。また後程。」

ソニアの圧に負けて、大人しく自分の部屋に戻っていくレイフォードを、
シルヴィアは本当に体調が悪いのではないかと心配する。

「ねえ、ソニア。本当にゴードンを呼ばなくていいの?
レイフォード様、凄く顔色が悪かったわ。」

自分の体の危機だったのに、他人の心配をするシルヴィアを、

「他人の心配をする前に、
シルヴィア様はご自分の身をもう少し大事になさってください。」

ソニアはまたお小言を言う羽目になってしまった。







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