げに美しきその心

コロンパン

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7章

ライオネル

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「ところで、ライオネルはどうした?」

この場に居ないもう一人の友を探すレイフォードに、ミゲルはさらりと言いのける。

「ああ。俺はお前達の所へ走って来たから知らん。
アイツは悠長に歩いていたから置いてきた。」

「あら、あそこから歩いて来られているのはライオネル様ではないですか?」

シルヴィアがレイフォードとミゲルに声を掛ける。
少し離れた場所から、ゆったりとした歩調でライオネルがレイフォード達の元へ向かっている事が分かった。

「ひどいな、ミゲル。置いて行くなんて。」

ライオネルはそう言うが、表情は穏やかで全く怒りの感情は見えなかった。

「お前は歩くのが遅すぎる。」

ミゲルも平坦な口調で言う。

「そうかな、自分がそこまで遅いつもりは無いのだけれどな。
あ、あれ?シルヴィア嬢。」

ライオネルはシルヴィアの前に立つ。

「はい、ライオネル様。」

「ちょっと動かないで。」

ライオネルは徐に手をシルヴィアの頭へ伸ばす。
レイフォードが止める間も無く、シルヴィアの髪に触れるライオネル。

「取れた。」

ライオネルの手には一枚の葉。

「シルヴィア嬢の髪に付いていたよ。」

「ありがとうございます、ライオネル様。」

ライオネルとシルヴィアは互いに微笑み合う。
一見何の問題も無い光景の様に見えた。

レイフォードは見逃さなかった。

ライオネルがシルヴィアの髪から葉を取り去る際、
自分の指を滑らすようにシルヴィアの髪に触れていた事。
その時のライオネルの瞳が一瞬、情欲の篭った事も。

(どういうつもりだ、ライオネルの奴!!)

レイフォードは沸き上がる嫉妬の感情を抑える。
此処で怒りを爆発させれば、またシルヴィアがあらぬ方向の思い違いをして、
話がややこしくなると考えた。

レイフォードの葛藤を知らずにシルヴィアはレイフォードに済まなそうに微笑む。

「ライオネル様とミゲル様は、レイフォード様を探しに来られたのですね。
私がお引止めしてしまったみたいで、申し訳ありません。」

「いや、こいつ等は勝手に来ただけだから、シルヴィアは気にしなくていい。
俺はシルヴィアとレッドチェリーの収穫をする。
お前等ももう満足しただろう、早く帰れ。」

シルヴィアの背中に手を置き、レッドチェリーの木へ促す。
ミゲルは溜息を吐いてライオネルに嘆く。

「はぁああ、久しぶりの友に対して薄情だよな。なぁ、ライオネル。」

「そうだねぇ、もう少し話がしたかったのだけれど、
レイフォードはシルヴィア嬢と二人で居たいみたいだし。
邪魔しちゃあ、悪いよ。」

「ああ、邪魔だ。帰れ。」

「レイフォード様!?」

レイフォードの邪険な態度に驚くシルヴィア。
確実に自分のせいで三人が険悪な関係になるのではないか、
シルヴィアは恐れた。

「あ、あのご友人をそんなに邪険にされるのは、その、・・・・良くないと思うのです・・・。」

「・・・・!!」

シルヴィアの言葉に驚愕の瞳で目を大きくさせるレイフォードにシルヴィアは冷や汗が溢れ出る。

(ああ・・・。余計な事を言ってしまったのだわ。怒ったお顔をされているもの。
またレイフォード様に不快な思いをさせてしまった・・・。)

(シルヴィアに怒られた・・・・。最悪だ・・・。
この二人が来なければこんな事にはならなかったのに。)

レイフォードは八つ当たりにも近い感情をライオネルとミゲルに向ける。
その怒りを自分に向けられていると思い、シルヴィアは落ち込む。


「何で俺達、レイフォードに睨まれているんだ?」

「さぁ?俺に聞かれても。」

ミゲルとライオネルはお互い顔を見合わせる。





長い沈黙の後、レイフォードは嫌々ながら口を開く。


「・・・シルヴィアがそう言うのならば、もう少しだけお前等の話に付き合ってやっても良い。
もう少しだけだからな。」

「お、おう。」

「凄く嫌そうな顔で言われると、気が引けるけれどお言葉に甘えて、もう少しだけお邪魔しようかな?」


ミゲルは戸惑い、ライオネルは苦笑する。
シルヴィアは少しだけ安堵し、三人の邪魔をしてはいけないとレイフォードに遠慮がちに話す。

「レイフォード様、では私はお庭の手入れを続けますので、ごゆっくりなさってください。」

「何を言っている?シルヴィアも一緒に来るんだ。」

「え?」

レイフォードもシルヴィアもお互い共に首を傾げて、お互いを見る。

「私が居てはお邪魔では無いでしょうか?」

レイフォードの友人だ。積もる話や自分が居ては話しにくい事もあるだろう。
なので、此処でケビンと先程の苗木を植えようと思ったのだが、
レイフォードはそれを感じ取ったらしく、そうはさせまいとシルヴィアに言い募る。

「邪魔な筈が無い。寧ろ一緒にして欲しい。
俺だけでコイツ等の相手をするのは面倒臭い。
シルヴィアが居てくれるだけで、俺としてはとても助かるのだが、駄目か?」

請うような顔でシルヴィアを見るレイフォードに、
言葉を詰まらせ、シルヴィアは根負けする。

「は、はい。私で宜しければご一緒させてください。」

「・・・そうか!」

ふわりと嬉しそうな表情に変わるレイフォードを見て、シルヴィアは顔が仄かに赤く色づく。


「ライオネル、あれ、どう思う?」

「どう思うって・・・仲が良い、なって思うよ。」

「あれ、まだレイフォード想いを伝えていないんだぜ?」

「え?・・・ああ、言われてみれば、時々齟齬が見受けられるね。」

「早く言えばいいのに、結婚してるからと言って、
誰かに掠め取られたらどうするんだよ、なぁ?」

「そう、だね。」

二人の世界を作っているレイフォードとシルヴィアを余所に、
ミゲルはお腹一杯だと言わんばかりに、腹を擦る。
ライオネルは曖昧に返すだけだった。


「おい、もう中に入ろうぜ。此処で立ち話するつもりか?」

ミゲルの言葉で四人は屋敷の中へ入った。









四人の姿をケビンはずっと見ていた。



「あの人、何であんな事を。」


誰も居ない庭でケビンは呟いた。












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