げに美しきその心

コロンパン

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7章

確信に変わる

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シルヴィアは服を着替える為、男達三人で先に応接室へ向かう。

「しっかし、レイフォードがこんなに奥手とは思わなかったな。
俺だったら好きだと自覚した瞬間、告げるがな。」

「余計なお世話だ。
俺の場合、始まりが最悪だった。
それを払拭させなければ、信じてくれないだろう。
だからこそ、慎重にならざるを得なかった。
俺だって言えるものなら、早々に言いたいさ。」

ミゲルの言葉に、苛つきながら返すレイフォード。

「まぁ、お前のは完全なる自業自得だな。」

更にそう返されては、何も言い返せなかった。

「・・・・。」

応接室に着きシルヴィアを待つ間、レイフォードはライオネルの様子を窺っていた。


(先程からのシルヴィアに向ける表情がどうにも気に掛かる。
ミゲルのそれとは何か違う。
一体、何だ?)



「レイフォード、何?」

「ああ、いや。何でもない。」

レイフォードの視線を感じたライオネルが尋ねるが、レイフォードは言葉を濁した。







「お待たせ致しました。」

10分後、着替えを終えたシルヴィアが応接室へとやって来た。

既にソファに座っていた三人を見て、
シルヴィアはレイフォードが座っているソファへ座る。
対面にはミゲルとライオネル。

「ぶっ・・・。」

ミゲルが思わず吹き出す。
ライオネルもくすりと笑みを漏らす。

レイフォードだけ少し不機嫌な表情に変わる。

シルヴィアは三人の反応が何故このようになっているのか分からず、三人の顔を見回すばかり。


「・・・遠い。」

レイフォードの低い声。

シルヴィアはレイフォードと人が二人分離れた距離を取って座った。
ミゲルとライオネルですら、拳が二つ分しか開いていない距離で座っているのにも関わらずだ。

未だに何も分かっていないシルヴィアに、堪り兼ねてレイフォードが努めて穏やかな口調で言う。

「もっと近くに座らないのか?これではあらぬ疑いを掛けられてしまうだろう?」

「あっ!!申し訳ございません!!」

シルヴィアは立ち上がり、距離を詰めてもう一度腰を下ろす。

それでも、まだ離れている。

「ぶっ、くくくく・・・・。」

ミゲルは口元を押さえて肩が小刻みに震える。
小さく息を吐き、レイフォードはシルヴィアの腰に手を回し、そのまま自分の体へ強めに引き寄せる。

「!?、???」

最早言葉にならない声を上げ、シルヴィアは至近距離のレイフォードの顔を見る。
レイフォードは平然とした表情のまま。
シルヴィアの顔がどんどん熱を持ち始める。

「レイフォード様?あの、これでは近すぎる様な気がするのですが・・・?」

「何故?」

そう一言だけ、レイフォードは発する。
どうしようもなくなったシルヴィアは、対面のミゲル達に助けを求める様な目線を送る。

ミゲルはふいと顔を横に逸らす。
シルヴィアは絶望的な気持ちになる。

「レイフォード、シルヴィア嬢が困っているじゃないか。」

柔らかい口調でライオネルがレイフォードを諫める。

「俺達は夫婦だ。くっついて座って何が悪い?」

何の問題も無いだろうという顔でライオネルを睨み付ける。

苦笑するライオネルは穏やかな口調を崩さない。

「レイフォードは良いだろうけれど、シルヴィア嬢を見てみなよ。
可哀想な位、顔が真っ赤だ。」

「・・・・・・。」

渋々、レイフォードが少し腕の拘束を緩める。
シルヴィアはほぅと安堵の息を漏らす。
そして、気持ち程度の隙間を空けて座り直す。

レイフォードの片眉がピクリと上がる。

「ぶはっ!!!もう、駄目だ!ははははははっ!!
シルヴィア嬢、本当に面白い!」

ミゲルが腹を抱えて爆笑する。
レイフォードは依然として不機嫌なままで、
ライオネルは笑顔なのだが、目は笑っていない。
ミゲルは何故か自分の事を面白いと言う。

顔が赤いままのシルヴィアはミゲルは自分の事を面白いと言ってくれたという事は、
少なからず好意的であるだろうと考えた。
ライオネルも今は穏やかではない微笑みだが、先程といい、何かしらシルヴィアを助けてくれた。

この二人にはレイフォードの妻である事を認めてくれたかもしれない、そう捉えた。

自分の気持ちが浮上するのが分かる。
レイフォード達とこうして一緒に過ごせる事が嬉しい。
自ずと笑みが零れる。


「・・・・おっと・・・。」

先程まで爆笑していたミゲルが笑うのを止め、シルヴィアの顔を注視する。
ライオネルも目を大きく見開いてシルヴィアを見る。二人とも心なしか頬が赤くなっている。

レイフォードも二人の様子の変化を感じ取り、隣のシルヴィアを見てぎょっとする。

「これは、これは・・・。自業自得とはいえ、前途多難だな。
相手は中々に手強い。同情するぞ、レイフォード。」

ミゲルの顔も赤い。

「・・・・そんな事位、分かっている。」

レイフォードも心底痛感している。
三人の男の視線を釘付けにするシルヴィアの微笑みは、ある意味凶器だ。
薔薇色に色づく頬。少し潤んだ赤みがかる紫色の瞳。美しく上がる唇。

誰が見ても見惚れるシルヴィアの笑顔を、
自分以外の男に見せたくない独占欲は強まる。

ミゲルは良いとして、
ライオネルは確実にシルヴィアの事を想っている。
自分と同じ想いを抱いている。
ライオネルのシルヴィアを見る目が、
いつかのケビンの目と重なる。


幾ら他者が忠告しても、人を想う気持ちは止められないのだ。

レイフォードも分かっているが、胸の中に蠢くどす黒い感情は増す一方だ。

膝の上に置いた拳を固く握る。




自分の拳に触れる暖かな感触。
視線を落とすと自分の手に重ねられたシルヴィアの手。
顔を上げ、シルヴィアに顔を向けると自分を気遣う様に心配そうなシルヴィアの顔があった。


「レイフォード様、ご気分でも優れないのでしょうか?
何だか顔色がとてもお悪いようでしたので。」

気分は悪い。だが、シルヴィアの心配している方の気分では無い。


「大丈夫だ、心配をかけて済まないな。少し考え事をしていただけだ。」

「そうですか・・・。」

尚も自分を純粋に心配してくれるシルヴィア。

(大丈夫だ、彼女は俺の傍に居ると言ってくれた。
今もこうして、俺を心配してくれている。
何も不安に思う事など無い。)


レイフォードが自分の心に言い聞かせる。

それを見抜いてか、ライオネルが火種を投下する。


「ねぇ、シルヴィア嬢?シルヴィア嬢にはレイフォード以外にも数多の婚約者候補が居た事を知っているかい?」

ライオネルの表情からは何も読み取れない。
どういう意図での発言かも分からない。

これには流石のミゲルもライオネルの方へ顔を向ける。

「おい、いきなりどうしたんだ?」


シルヴィアも目をパチクリさせる。

「は、はい。畏れ多くも陛下から殿下の婚約者にとお声が掛かっていたいた事は先日知りました。」

「殿下以外もだよ。他の貴族からも。」

シルヴィアは全く知らなかったと、目を見開く。

「初めて聞きました・・・。」

レイフォード以外に自分にその様な話があった事すら、シルヴィアには初耳だ。
ライオネルは苦笑を浮かべる。

「きっと、伯の所で話が消えていたのだろうね。伯が家族を何よりも大事である事は有名だったから。」

「はい!お父様は私達をとても愛してくれています。」

優しいジュードの顔を思い浮かべて微笑む。


「俺も・・・。」

ライオネルが続ける言葉に、漸くレイフォードは理解する。

「俺も、シルヴィア嬢に求婚した貴族の一人だったよ。」

シルヴィアを見る瞳は切なくも苦しみの感情が入り混じっている。
対し、レイフォードを見る瞳は自分もライオネルに対して向けたであろう嫉妬と憎しみの感情だった。
















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