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7章
美しい花達に囲まれて
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植物園に到着した。
レイフォードの手を借りて、シルヴィアが馬車から降りる。
顔を上げた瞬間、シルヴィアは思わず声が出る。
「ああ!」
目の前には様々な花が咲き乱れ、木々が生い茂る。
シルヴィアはこの夢の様な光景に無意識のうちにレイフォードの手をぎゅっと握っていた。
レイフォードは突然、シルヴィアが自分の手を強く握ってきて驚きはしたが、
いつも自分からしか触れる事が出来ないシルヴィアが、彼女自身から触れてくれる事が嬉しくなり、何も言わずにいた。
シルヴィアも嬉しくて堪らないと言う顔でレイフォードを見て話しかける。
「レイフォード様、何て素晴らしいのでしょう!」
「ああ、本当に美しいな。」
シルヴィアの顔を見て微笑む。
(この美しい花に囲まれていても、シルヴィアの笑顔の方が美しく見えるとは、重症だな。)
「レイフォード様、あちらをご覧になってください!」
シルヴィアが指差す方向に顔を向ける。
そこには薄桃色の花を沢山咲かせた、離れていても巨大であると分かる程の大木がそこに在った。
「あれはヤエの木です。小さい花が沢山咲いているのも可愛らしいのですが、
風に吹かれてその花びらが散る様が、息を飲むほど美しいのですよ。
ビルフォード家にもあるのですが、あんなに大きくて立派なヤエの木は初めて見ました。」
そう言って、レイフォードの手を離し、ヤエの木へと歩いて行く。
こうも、あっさりと手を離されるとは。と、少し切ない気持ちになりつつもレイフォードも後に続く。
近くまで来ると、よりヤエの木の荘厳さが分かる。
枝は大きく広がり、そこには惜しげも無く花が彩られている。
「確かにとても立派な木だな。」
シルヴィアは自分の顔の近くまで枝垂れた花にそっと触れて、
慈しむような瞳でそのヤエの花を撫でる。
「こんなに大きな木に育つにはとても沢山の時間を有するのです。
そしてこれ程までに沢山の花を付けるには、細やかな手入れと豊かな土壌が無いと、
こうはなりません。
余程、此処のお手入れをされている方が、愛情を持って育てているのでしょうね。
私、その方を尊敬致しますわ。」
花から手を離し、次はヤエの幹を優しく撫でる。
シルヴィアは他意が無いのは分かるのだが、少し面白くない感情を抱いてしまうレイフォードは、
ヤエの木に向いているシルヴィアの注意を惹きたくなり、
「もし、何か持ち帰りたい苗があれば言ってくれ。
ある程度は融通が利くだろうから。」
シルヴィアの肩に触れる。
「レイフォード様・・・。ありがとうございます。」
ほんのり瞳が暖色へ変化する。
シルヴィアが本当に喜んでくれているみたいで、レイフォードも心が温かくなる。
「では、他も見て回ろう。」
「はい!」
シルヴィアの手を引き、園内をエスコートする。
シルヴィアは興奮しながら、様々な花達をレイフォードに教えた。
レイフォードはそれを微笑みながら、聞いていた。
一息入れようとレイフォードが切り出し、
園の中央に位置する場所にある休憩室へ向かう。
そこのテラス席へ腰を下ろし、二人は足を休めた。
「とても広いですね。
まだ半分も回れていませんね。」
運ばれた紅茶を飲んでシルヴィアは、嬉しそうに話す。
「今日で全てを見て回らなくてもいいだろう。
時間は幾らでもあるんだ。
いつでも来ることが出来るさ。」
「そうですね。
私ったら、本当に欲張りで恥ずかしいです。」
「好きな物に対しては誰でもそうさ。
俺だってそうだ。
自分にこんな欲深い感情があるなんて初めて知った。」
「レイフォード様もですか?」
レイフォードはシルヴィアを見つめる。
その瞳には熱が篭り、真剣な眼差しだ。
「全てが欲しくなる。自分だけの物にしたい。
誰にも譲りたくない。誰にも。」
まるで自分の事を言っているのかと、シルヴィアは自分の心臓がドクリと脈打つ。
(レイフォード様が言っているのは好きな物に対してよ。
私に言っているのではないわ。
勘違いしては駄目。)
「レ、レイフォード様にもそんなにお好きな物があったのですね?
失礼ながらお聞きしても良いでしょうか?」
顔が熱いのは紅茶のせい。
シルヴィアは自分に言い聞かせる。
レイフォードは切なげに眉を寄せる。
「俺は学習しないな。直接言わないと伝わらないって言われていたのに。
シルヴィア、俺の好きなものは物ではない。人だ。」
そう言ってレイフォードは立ち上がり、シルヴィアの前で跪く。
そして、シルヴィアの両手を包み込むように握る。
風が吹いて、ヤエの花が散る。
風に乗って花びらが舞う。
シルヴィアは息を飲む。
ドクンドクンと心臓が大きく鳴り響く。
まさか、まさかと自分の心の中で呟く。
レイフォードはシルヴィアを見上げて口を開く。
「俺が好きな人は、・・・シルヴィア、君だよ。」
レイフォードの手を借りて、シルヴィアが馬車から降りる。
顔を上げた瞬間、シルヴィアは思わず声が出る。
「ああ!」
目の前には様々な花が咲き乱れ、木々が生い茂る。
シルヴィアはこの夢の様な光景に無意識のうちにレイフォードの手をぎゅっと握っていた。
レイフォードは突然、シルヴィアが自分の手を強く握ってきて驚きはしたが、
いつも自分からしか触れる事が出来ないシルヴィアが、彼女自身から触れてくれる事が嬉しくなり、何も言わずにいた。
シルヴィアも嬉しくて堪らないと言う顔でレイフォードを見て話しかける。
「レイフォード様、何て素晴らしいのでしょう!」
「ああ、本当に美しいな。」
シルヴィアの顔を見て微笑む。
(この美しい花に囲まれていても、シルヴィアの笑顔の方が美しく見えるとは、重症だな。)
「レイフォード様、あちらをご覧になってください!」
シルヴィアが指差す方向に顔を向ける。
そこには薄桃色の花を沢山咲かせた、離れていても巨大であると分かる程の大木がそこに在った。
「あれはヤエの木です。小さい花が沢山咲いているのも可愛らしいのですが、
風に吹かれてその花びらが散る様が、息を飲むほど美しいのですよ。
ビルフォード家にもあるのですが、あんなに大きくて立派なヤエの木は初めて見ました。」
そう言って、レイフォードの手を離し、ヤエの木へと歩いて行く。
こうも、あっさりと手を離されるとは。と、少し切ない気持ちになりつつもレイフォードも後に続く。
近くまで来ると、よりヤエの木の荘厳さが分かる。
枝は大きく広がり、そこには惜しげも無く花が彩られている。
「確かにとても立派な木だな。」
シルヴィアは自分の顔の近くまで枝垂れた花にそっと触れて、
慈しむような瞳でそのヤエの花を撫でる。
「こんなに大きな木に育つにはとても沢山の時間を有するのです。
そしてこれ程までに沢山の花を付けるには、細やかな手入れと豊かな土壌が無いと、
こうはなりません。
余程、此処のお手入れをされている方が、愛情を持って育てているのでしょうね。
私、その方を尊敬致しますわ。」
花から手を離し、次はヤエの幹を優しく撫でる。
シルヴィアは他意が無いのは分かるのだが、少し面白くない感情を抱いてしまうレイフォードは、
ヤエの木に向いているシルヴィアの注意を惹きたくなり、
「もし、何か持ち帰りたい苗があれば言ってくれ。
ある程度は融通が利くだろうから。」
シルヴィアの肩に触れる。
「レイフォード様・・・。ありがとうございます。」
ほんのり瞳が暖色へ変化する。
シルヴィアが本当に喜んでくれているみたいで、レイフォードも心が温かくなる。
「では、他も見て回ろう。」
「はい!」
シルヴィアの手を引き、園内をエスコートする。
シルヴィアは興奮しながら、様々な花達をレイフォードに教えた。
レイフォードはそれを微笑みながら、聞いていた。
一息入れようとレイフォードが切り出し、
園の中央に位置する場所にある休憩室へ向かう。
そこのテラス席へ腰を下ろし、二人は足を休めた。
「とても広いですね。
まだ半分も回れていませんね。」
運ばれた紅茶を飲んでシルヴィアは、嬉しそうに話す。
「今日で全てを見て回らなくてもいいだろう。
時間は幾らでもあるんだ。
いつでも来ることが出来るさ。」
「そうですね。
私ったら、本当に欲張りで恥ずかしいです。」
「好きな物に対しては誰でもそうさ。
俺だってそうだ。
自分にこんな欲深い感情があるなんて初めて知った。」
「レイフォード様もですか?」
レイフォードはシルヴィアを見つめる。
その瞳には熱が篭り、真剣な眼差しだ。
「全てが欲しくなる。自分だけの物にしたい。
誰にも譲りたくない。誰にも。」
まるで自分の事を言っているのかと、シルヴィアは自分の心臓がドクリと脈打つ。
(レイフォード様が言っているのは好きな物に対してよ。
私に言っているのではないわ。
勘違いしては駄目。)
「レ、レイフォード様にもそんなにお好きな物があったのですね?
失礼ながらお聞きしても良いでしょうか?」
顔が熱いのは紅茶のせい。
シルヴィアは自分に言い聞かせる。
レイフォードは切なげに眉を寄せる。
「俺は学習しないな。直接言わないと伝わらないって言われていたのに。
シルヴィア、俺の好きなものは物ではない。人だ。」
そう言ってレイフォードは立ち上がり、シルヴィアの前で跪く。
そして、シルヴィアの両手を包み込むように握る。
風が吹いて、ヤエの花が散る。
風に乗って花びらが舞う。
シルヴィアは息を飲む。
ドクンドクンと心臓が大きく鳴り響く。
まさか、まさかと自分の心の中で呟く。
レイフォードはシルヴィアを見上げて口を開く。
「俺が好きな人は、・・・シルヴィア、君だよ。」
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