CASTエソラ〜異世界で出会ったのは大きなペンギンでした〜

nano ひにゃ

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第一章

3−2

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 それにしたって、いつまでもこのままじゃ授業が始まらない。二人ともどうも本気でやり合っている様子だから、止めなければ本気でどちらかが傷付く事になるかも。

 僕と幼なじみの口げんかであれば、放っておかれても大丈夫なんだけどな。むしろほっといてくれた方が楽しいし。ま、あいつの場合、みなみちゃんとあいつの妹の前以外では爽やか王子気取ってるから止めてくれた人なんていないんだけど……。

「もうそろそろいいですか? お二人の事はよく分かったので、社会を教えてください」

 片方はボロボロと泣きながら、もう片方も不機嫌オーラ全開でむくれている。それでも二人とも、こっちを向いてくれた。

「ケンカを止めろとはいいませんが、今じゃなくてもできるケンカの内容だったので、授業が終わってからってことで」
今度は二人とも俯いて黙り込んでしまった。落ち着くのに時間がかかるんだろう。
「あのノサさんって呼べばいいですか?」

 気が付けばウサギさんの方からは名前を聞いてもいない。

「うん…、ノサです。一応これでも16歳です」
「じゃあ、僕とほとんど変わらないですね」

 そしてまた訪れる沈黙。普段ならば絶対にそのままでいる場面だけど、不思議と僕の口は勝手に話し始めてしまった。

「あの。暇つぶしにちょっと鬱陶しい事言いますけど、気にしないでください。僕はリューさんの名前もノサさんの耳もとっても素敵だと思いますよ。お世辞じゃなくね。でも二人ともコンプレックスになってるんだから、それを他人から何と言われようと突然好きにはならないでしょ。僕にもコンプレックスってあるし、すっごくよく分かる」

 コンプレックスのない人なんていないだろうけど、自分の中にあるそれを誰かにそのまま伝えることはできない。だから誰にも本当の辛さなんて分からない。

「僕の場合は気付かないふりしてやり過ごしてる。でもそうできるのも理由があって、一番身近な人がそれを受け入れてくれてるからなんだよね。好きなんだ、大切なんだよってずっと言ってくれてるから、全然平気」

 面と向かって言葉で伝えられた訳じゃない。みなみちゃんが気付いてそうしてくれてるかは分からないけど、それでも僕はみなみちゃんがそうあってくれた事で今の自分があると確信を持って言える。

 今でも苦しもうと思えばいくらだってできる。何の解決もしていない。

 でも、それでも逃げ続けていられるうちはいくらだって目を背けていくつもり。それで今の平和が続くなら、誤魔化し続けることは何てことないんだ。

 だからいくらだって笑ってられる。

 その代わり…あまり他人には干渉しない。しないってか、できないだけなんだけど。係わりすぎると引きずられるから。
 だからこの話もこのくらいで終わらなくっちゃ。もともとお節介したことないから言っている内に恥ずかしくなってきた。どうもこの世界に来てから、口が軽いと言うか、感情的になりやすいというか、人のケンカに口出すようなタイプじゃなんだけどな。

「あのですね、そのー、僕のコンプレックスというか、それはですね、目に見えるものじゃないから、隠してる分には他人に気付かれる事はないんですよねー。その分二人のは人に指摘されやすいものだから傷付く事も僕よりずっと多いかも。だからさあ、早く受け入れちゃった方が楽なんじゃない?」
「え?」
「ん?」
「どうかしました?」
「お前、そこは何か格好いいこと言うところじゃないのか? 僕が好きになってあげますとか、辛いのは分かりますが人に当たるのは良くないですよ、ぐらい言えないのか」
「そうよ、大体さっき受け入れるのには時間が掛かるっていったのはアオイじゃない。せめて友達同士で罵り合うのは止めた方がいいくらい言えないの」
「じゃあ、そうした方がいいですよ」
「ちょ、そうじゃなくて」
「慰めてくれるつもりじゃなかったのか」
「慰めて欲しいんですか? だったら頭くらい撫でてあげますよ」
「いらん」
「じゃ勉強しましょうね、僕は勉強しにきてるのですよ」

 それだけ言って教科書を開くと、ハッとした二人もあせあせと教科書をめくり始めた。
 そしてようやく社会の授業は開催、目的としていた社会の知識を教えてもらえることとなった。

 教え始めた二人は素晴らしいもので、一つの質問に十も二十も返ってくるほど知識が豊富だった。さっきまでケンカしていたとは思えないほどのコンビネーションで、めくるめく歴史の世界を存分に味わわせてもらった。

 ただ不思議なことにこの国には外交の記録がなかった。

 この国の地図には大きなひとつのドーナツ状の大陸が描かれていて、その大陸がすべて国家の領土になっている。大陸の外は海に覆われていて、その先に何があるのかは誰も知らないらしい。

 歴史の始まりも国家統一から。大陸を二分して西軍と東軍での大戦争。そして現王の先祖率いる西軍が勝利し、この国の歴史は始まっている。それ以前の歴史は分からない、というか誰も調べたことがないとリューは言っていた。
 現在149代目の王が統治しているこの国は建国2005年。地球の西暦とほとんど変わらない。しかし、地球の様な争いはほとんどなく、もちろん政権の交代もない。革命に近いものは起こったようだが、それも平和的に解決したとのことだった。日本の歴史とは大きく違う、平和と呼べる二千年を送ってきた国。

 そんなことあるんだろうか。

 ただでさえ姿も形も地球以上に違う人々がいる世界なのに、大きな諍いもなく二千年も暮らしてこれるものなのか……。

 文明の発達の違いなのか……。
 その一番の大きな違いは、電気がないことだ。存在はしているがエネルギーとして活用はしていないのだ。電力がない生活、生まれて初めての経験。テレビやパソコンはもちろんない。明かりさえ電気ではない。

 その代わり、魔法に近いものが存在している。近いという言い方には訳があって、こっちの科学で少し証明されているからだ。それでも不思議なままの部分も多い。それでもこの国はその未知な力を上手く利用することで、文明の発達を遂げてきている。

 そういう風に何代目かの王がしたらしい。分からないものを排除しようとはせずに積極的に取り入れること、そういう条例を出すことで、昔は少数の者しか使えなかった魔法も今やほとんどのヒトは使えると言う。

 だから、街を照らしているランプは石が発光している。燃えているのとは違う、熱もなく輝いている石は魔法のおかげ。

 そんなことまで、リューとノサは教えてくれた。さっと大まかな歴史をなぞるだけで一日は過ぎ、気が付けばすっかり日が暮れだしていた。
取りあえず今日の分は終わり、詳細な部分はまた後日にしようと二人と別れた。






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