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最後に5 終
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広いソファーなのにぴったり隣に座り、少し明かりを落とした部屋でも表情がちゃんと分かる距離いる。
うっとりする時間の中で國実はおもむろに話し出した。
「それから俺の実家のこと、俺んち七条グループやってるところなんだ」
泉水はそう言えば話してくれると言っていたことを思い出したあと、國実の言葉の意味を理解し目を丸くしてしまった。
七条グループといえば誰でも知ってる大企業で、様々な製品を作り、扱っていないものはないのではないかと言われるほどの、いわゆる財閥だ。
「実家がって、お父さんが会長とかそういうこと?」
「たぶんな、詳しくは知らないな-」
「知らないって……、あ、國実さんの会社もそこの子会社だよ」
「そうだな、でも下も下の方の小さいとこだから、親会社の取締役が今どうなっているのかまでは知ってなくても問題ない」
國実は泉水の手を握ったり指を絡めたりして遊びながら適当に言うが、泉水は思慮深い國実が親のことをちゃんと知っていないことはないと思った。
どういうことなのか考えて、違和感を口にした。
「國実さん、苗字が……。それに一般人って」
「戸籍上は違うからな」
ちょっとややこしいけどと前置きをして、その理由を語った。
「俺が五歳の時誘拐されて、すぐに見つかったんだけど、母親がちょっとキレちゃって俺だけ連れて実家のある田舎に戻っちゃったんだよ。しばらくして親は復縁したんだけど、俺はそのままの祖父さんの養子てことにしたんだ」
誘拐と言う単語が馴染みなさ過ぎてもう触れることもできなかった。親を考えれば誘拐もあり得る世界なのだと無理やり納得したが、その後の展開はそういうわけにはいかなかった。
「なんで國実さんだけ」
顔をしかめた泉水を見て少し國実は声を立てて笑ってから泉水の額にそっとキスをして、母親を擁護する言葉を口にした。
「本当は離婚したその時いた子供全員引き取りたかったけど親父が許さなかったかららしい。いろいろな思惑があってひとまず俺だけを連れて家を出た。母さんは時間かけて子供呼び寄せようって、親父は時間かけてでも母さんとより戻すことを考えてて、五年その駆け引きをいろいろし合ってなんとか再婚。弟が生まれるというおまけつき」
國実の中ではなんのわだかまりもないのだと、表情が語っていた。
「……なんだかすごいね」
泉水はそれしか言えなかった。もっと言えることがあるのではないかと思うのに思い浮かばない。
誘拐されて、それが原因で親が離婚して、でもまた再婚して、想像を絶する過去に泉水は対応しきれなかったこともあるうえ、國実は何も変わらず泉水の様子を楽しむように笑っていて、その過去が國実に何をもたらしたか憶測することも難しかった。
言葉を続けられない泉水だったが、國実の話はまだ終わってはいなかった。
「俺は母さんが再婚するとき戻らなかった。母さんの実家には祖父さん一人しかいなかったのもあって、俺はそっちに残ったんだよ。結構な田舎なんだけど、居心地よくてさ。いろんな手続きするのに便利だから戸籍も祖父さんのとこにした。兄弟が他に四人もいるし、母さんも祖父さんも好きにしていいって言ってくれたからな。高3の時祖父さん亡くなったから、親父の勧めもあって大学でこっち出てきたんだ」
とりあえず納得することにした泉水は、本当はもっといろいろあるのだろうことは分かっている。でもそれを今全部聞いても聞き切れないこともちゃんと理解していた。
だから今は笑顔で頷く。
「だから苗字が七条じゃないんだね」
泉水の表情を嬉しそうに眺めている國実はすぐに意地悪そうな顔になった。
「そう、ただ俺が戻らないことを兄弟たちは納得してなかったみたいなんだ。新しく弟もできるし、5年もいなかったんだからそんなに気にしないと思ってたんだけど。再婚するまでもほとんど会ったことなかったしな。再婚してからも年に何回かってくらいだったからその薄情さもまずかったのかもな」
あははと軽く笑う國実だったが、志寿加に会っている泉水には笑いごとで済まないことだと簡単に推測できてしまった。
「でも溺愛されてるって、話聞いてると確執があるみたいなんだけど」
「普通そうだよなー。なんでだろ、誘拐されたのがきっかけだったからなのか、だからやたらと心配性になったのか、あと俺も悪かったなー。ほら調教師とかやっちゃてたから、拍車かけたんだろうな」
「うん、それはなんか納得」
泉水は深く頷いた。離れて暮らしていて、それが近くに来たらあやしい仕事をしだしたら誰だって心配せずにはいられないだろう。
でもその感覚が國実は少し違うようだった。
「いや、祖父さんと暮らしてる時も普通だし、大学もちゃんと通ってたし危ない遊びしてたわけじゃないし、調教師も片手間ではあったけどいい加減にはしてたわけじゃないんだぞ。大体二十歳超えたら自己責任な部分もちゃんと理解してたから実家の迷惑かかるようなことは本当にしてない」
それでも心配するのが家族だろうと思う泉水は純粋に疑問が浮かぶ。
「なんで調教師やろうと思ったの?」
國実は少し考えるように斜め上に視線を飛ばし、昔を思い出しながら説明する。
「ダチがやり始めて、たまたま臨時を頼まれたんだよ。趣味じゃないけど、人助けだとか言ってさ。それがきっかけでご贔屓ができて続けただけ」
需要があれば暇なときに供給するのもやぶさかではないと言って國実は笑う。
懐が広いと言うべきか、悩む泉水だったが、國実が短絡的に何かをすることもないと思う。そして楽しくないことは無理しないとこの三か月で感じたこともあって、國実はその仕事にも何か見出していたのだろう。しかしそれが家族には分からなかったのだろう。
「実は迷惑になってたってことかな?」
普通そうだよなーと國実は何か思い出し笑いをしだした。
「注意されたわけじゃないんだよ、一番上の兄貴は顧客の整理とか斡旋とかしてくれた」
「なにそれ!」
「俺がそういう仕事してるって知ったら協力するっていろいろ手を掛けてくれたよ、だから変な客はいなかった」
家族に反対されたわけでもなく、それなりに楽しんでいた仕事。
なぜ離れようと思ったのか。
「どうしてやめようって」
「単純に就職は祖父さんとこの街でって考えてたから」
あっさりした納得の答えだった。
ディープな仕事はやはり都会の方が需要は高い。それに田舎だというところなら固い仕事をした方が暮らしやすいと泉水にだって分かる。
でも今もこの街にいるとなるとそこで就職しなかったことになる。
「その街で就職だめだったの?」
「就活する前に兄弟からの妨害がな。でも気にせずアルバイトから始めてもいいなってしてたら、ちょっと遠縁の親戚の人に泣きつかれてさ。それで今のとこにしたわけ」
「親戚の人が?」
「今の会社の社長なんだけど、俺の兄弟にいじられる星の元に生まれてるらしい。俺の就職なのにそいつが胃を痛めてたなー。七条の会社に入ると立場的にややこしいから避けたかったけど、面倒にならないように頑張るからって。やりがいもあるし、今は良かったと思ってるよ」
「それって……凄い話だね」
泉水が思うより兄弟からの干渉は強い。息苦しくなったりしないのだろうかと、心配を告げると大したことないとまた笑う。
「二番目の兄貴は実家暮らしっていう絶対条件を満たしてればわりと静観姿勢で、志寿加が一番口挟んでくるな、弟には何故だか盲目的に信頼されてる」
そのうちみんなに会わせると國実は言う。
「國実さん実家暮らしなの?」
反対している家族に会うのは気が引ける。今まで國実の家に行きたいとは思わなかったのは、國実のテリトリーを無闇に侵略したくないと思っていたからだが、家族と同居だと尚更敷居は高い。
その泉水の腰の引け具合をしっかり感じ取りながら、國実はそれさえも楽しそうにしている。
「でかい屋敷だから別にいいんだけどな、知らないとびっくりするくらいの屋敷だから。そのうち招待するよ。大丈夫、俺の大事な人だって紹介すれば身内も同然だからさ」
これで大体おしまいと、國実は話を締めくくった。
質問があればどうぞと泉水を促した。
泉水は少し考えてから口を開いた。
「どうして今まで秘密にしてたのに、急に全部話してくれるの?」
「秘密というか、勘違いされるのを覚悟でいうと少しずつヒントは出してただろ?」
「ヒント? 兄弟がいっぱいいるとかそういうこと?」
泉水にはピンとこないところが嬉しいよ。とニコニコした國実はどこか少し寂しように泉水には見えた。
「ブラコンが酷いとか、金銭面でも一般的で高いプレゼントするわけでもない。あえてマイナス面を主張してたんだけど、それに妨害もあるって言っただろ? あれも嘘じゃないって志寿加が目に見えて証明したし。そういうことでツラいと思うならちゃんと離れてほしいと思ってた」
國実のお試し期間は本当に重要な時間なのかもしれないと、泉水にもようやく分かってきた。自分が試されるだけじゃない、國実は自分も試していたのだ。家族から干渉があってもなお付き合うだけの価値が自分にあると判断されるかどうかを。
「そんな……」
自分の心が満たされることしか考えてなかった泉水はそのことに気付くと國実に申し訳なくなった。性癖に関してだけの遠慮しかなく、今更國実の言葉に甘えていたと自覚できた。
國実は本当に本気で付き合う相手を見極めようとしてくれていたのだ。
「背後の金銭が目当てとか、兄弟の誰かに繋ぎ取りたいとか、俺に近づいてくる人間はいろんな理由があるんだよ。それならそれで相手にするんだけど、仮に俺のことが本当に好きでもそういうことが面倒に思うこともあるだろうからさ。でもそんなこと付き合う前から言われたらウザイだろ」
國実はまた笑った。
だから泉水も笑うことにした。
國実の話はもっと深刻なことかもしれなかったが、それを軽く受け止めることも國実を癒すことができるかもしれないと思ったから。
「ウザいのは俺の方でしょ」
それは本当にそう思った。
突撃するように告白して、好きになってほしいと言っておきながら、何か努力をした覚えもない。
そんな自分をどうして好きと言ってくれるのか分からないけど、泉水はやっぱり自分がどんどん國実を好きになっていってると自信がある。
たとえ國実の兄弟に強く反対されようと、何されようとそれだけは好きの気持ちは負けない。
「でも俺は國実さんが大好き、ダメ?」
國実は首振って、ダメじゃないと優しく笑った。
「俺も好きだよ、でも付き合えるって決まってから真実告げるのも言うのもどうかと思うけどな。泉水はひどい男に捕まったな」
「俺は今知れて嬉しい」
泉水はいたずらに軽く國実の頬にキスをした。
嬉しい気持ちの表れとずっと手を弄ばれた仕返しのつもりだったが、一瞬驚いたように固まった國実は次の瞬間には泉水をソファに押し倒し、ずっと捕まえていた泉水の右手の指を口に含む。
「んっ、國実さん?」
國実の舌は手のひらに移り、握る手首の方まで添わされていく。
そしてそこをきつく吸われ、國実の口が離れた後には赤い跡がはっきりと残っていた。
「印だ、縄の跡よりいいだろう」
泉水が甘く微笑むと國実はその唇ごと口に含み甘さを堪能し、泉水もまたその口づけに心のそこから酔いしれた。
自分の体も心も國実が満たしてくれるように、いつか國実のすべても満たしたいと思う泉水だった。
うっとりする時間の中で國実はおもむろに話し出した。
「それから俺の実家のこと、俺んち七条グループやってるところなんだ」
泉水はそう言えば話してくれると言っていたことを思い出したあと、國実の言葉の意味を理解し目を丸くしてしまった。
七条グループといえば誰でも知ってる大企業で、様々な製品を作り、扱っていないものはないのではないかと言われるほどの、いわゆる財閥だ。
「実家がって、お父さんが会長とかそういうこと?」
「たぶんな、詳しくは知らないな-」
「知らないって……、あ、國実さんの会社もそこの子会社だよ」
「そうだな、でも下も下の方の小さいとこだから、親会社の取締役が今どうなっているのかまでは知ってなくても問題ない」
國実は泉水の手を握ったり指を絡めたりして遊びながら適当に言うが、泉水は思慮深い國実が親のことをちゃんと知っていないことはないと思った。
どういうことなのか考えて、違和感を口にした。
「國実さん、苗字が……。それに一般人って」
「戸籍上は違うからな」
ちょっとややこしいけどと前置きをして、その理由を語った。
「俺が五歳の時誘拐されて、すぐに見つかったんだけど、母親がちょっとキレちゃって俺だけ連れて実家のある田舎に戻っちゃったんだよ。しばらくして親は復縁したんだけど、俺はそのままの祖父さんの養子てことにしたんだ」
誘拐と言う単語が馴染みなさ過ぎてもう触れることもできなかった。親を考えれば誘拐もあり得る世界なのだと無理やり納得したが、その後の展開はそういうわけにはいかなかった。
「なんで國実さんだけ」
顔をしかめた泉水を見て少し國実は声を立てて笑ってから泉水の額にそっとキスをして、母親を擁護する言葉を口にした。
「本当は離婚したその時いた子供全員引き取りたかったけど親父が許さなかったかららしい。いろいろな思惑があってひとまず俺だけを連れて家を出た。母さんは時間かけて子供呼び寄せようって、親父は時間かけてでも母さんとより戻すことを考えてて、五年その駆け引きをいろいろし合ってなんとか再婚。弟が生まれるというおまけつき」
國実の中ではなんのわだかまりもないのだと、表情が語っていた。
「……なんだかすごいね」
泉水はそれしか言えなかった。もっと言えることがあるのではないかと思うのに思い浮かばない。
誘拐されて、それが原因で親が離婚して、でもまた再婚して、想像を絶する過去に泉水は対応しきれなかったこともあるうえ、國実は何も変わらず泉水の様子を楽しむように笑っていて、その過去が國実に何をもたらしたか憶測することも難しかった。
言葉を続けられない泉水だったが、國実の話はまだ終わってはいなかった。
「俺は母さんが再婚するとき戻らなかった。母さんの実家には祖父さん一人しかいなかったのもあって、俺はそっちに残ったんだよ。結構な田舎なんだけど、居心地よくてさ。いろんな手続きするのに便利だから戸籍も祖父さんのとこにした。兄弟が他に四人もいるし、母さんも祖父さんも好きにしていいって言ってくれたからな。高3の時祖父さん亡くなったから、親父の勧めもあって大学でこっち出てきたんだ」
とりあえず納得することにした泉水は、本当はもっといろいろあるのだろうことは分かっている。でもそれを今全部聞いても聞き切れないこともちゃんと理解していた。
だから今は笑顔で頷く。
「だから苗字が七条じゃないんだね」
泉水の表情を嬉しそうに眺めている國実はすぐに意地悪そうな顔になった。
「そう、ただ俺が戻らないことを兄弟たちは納得してなかったみたいなんだ。新しく弟もできるし、5年もいなかったんだからそんなに気にしないと思ってたんだけど。再婚するまでもほとんど会ったことなかったしな。再婚してからも年に何回かってくらいだったからその薄情さもまずかったのかもな」
あははと軽く笑う國実だったが、志寿加に会っている泉水には笑いごとで済まないことだと簡単に推測できてしまった。
「でも溺愛されてるって、話聞いてると確執があるみたいなんだけど」
「普通そうだよなー。なんでだろ、誘拐されたのがきっかけだったからなのか、だからやたらと心配性になったのか、あと俺も悪かったなー。ほら調教師とかやっちゃてたから、拍車かけたんだろうな」
「うん、それはなんか納得」
泉水は深く頷いた。離れて暮らしていて、それが近くに来たらあやしい仕事をしだしたら誰だって心配せずにはいられないだろう。
でもその感覚が國実は少し違うようだった。
「いや、祖父さんと暮らしてる時も普通だし、大学もちゃんと通ってたし危ない遊びしてたわけじゃないし、調教師も片手間ではあったけどいい加減にはしてたわけじゃないんだぞ。大体二十歳超えたら自己責任な部分もちゃんと理解してたから実家の迷惑かかるようなことは本当にしてない」
それでも心配するのが家族だろうと思う泉水は純粋に疑問が浮かぶ。
「なんで調教師やろうと思ったの?」
國実は少し考えるように斜め上に視線を飛ばし、昔を思い出しながら説明する。
「ダチがやり始めて、たまたま臨時を頼まれたんだよ。趣味じゃないけど、人助けだとか言ってさ。それがきっかけでご贔屓ができて続けただけ」
需要があれば暇なときに供給するのもやぶさかではないと言って國実は笑う。
懐が広いと言うべきか、悩む泉水だったが、國実が短絡的に何かをすることもないと思う。そして楽しくないことは無理しないとこの三か月で感じたこともあって、國実はその仕事にも何か見出していたのだろう。しかしそれが家族には分からなかったのだろう。
「実は迷惑になってたってことかな?」
普通そうだよなーと國実は何か思い出し笑いをしだした。
「注意されたわけじゃないんだよ、一番上の兄貴は顧客の整理とか斡旋とかしてくれた」
「なにそれ!」
「俺がそういう仕事してるって知ったら協力するっていろいろ手を掛けてくれたよ、だから変な客はいなかった」
家族に反対されたわけでもなく、それなりに楽しんでいた仕事。
なぜ離れようと思ったのか。
「どうしてやめようって」
「単純に就職は祖父さんとこの街でって考えてたから」
あっさりした納得の答えだった。
ディープな仕事はやはり都会の方が需要は高い。それに田舎だというところなら固い仕事をした方が暮らしやすいと泉水にだって分かる。
でも今もこの街にいるとなるとそこで就職しなかったことになる。
「その街で就職だめだったの?」
「就活する前に兄弟からの妨害がな。でも気にせずアルバイトから始めてもいいなってしてたら、ちょっと遠縁の親戚の人に泣きつかれてさ。それで今のとこにしたわけ」
「親戚の人が?」
「今の会社の社長なんだけど、俺の兄弟にいじられる星の元に生まれてるらしい。俺の就職なのにそいつが胃を痛めてたなー。七条の会社に入ると立場的にややこしいから避けたかったけど、面倒にならないように頑張るからって。やりがいもあるし、今は良かったと思ってるよ」
「それって……凄い話だね」
泉水が思うより兄弟からの干渉は強い。息苦しくなったりしないのだろうかと、心配を告げると大したことないとまた笑う。
「二番目の兄貴は実家暮らしっていう絶対条件を満たしてればわりと静観姿勢で、志寿加が一番口挟んでくるな、弟には何故だか盲目的に信頼されてる」
そのうちみんなに会わせると國実は言う。
「國実さん実家暮らしなの?」
反対している家族に会うのは気が引ける。今まで國実の家に行きたいとは思わなかったのは、國実のテリトリーを無闇に侵略したくないと思っていたからだが、家族と同居だと尚更敷居は高い。
その泉水の腰の引け具合をしっかり感じ取りながら、國実はそれさえも楽しそうにしている。
「でかい屋敷だから別にいいんだけどな、知らないとびっくりするくらいの屋敷だから。そのうち招待するよ。大丈夫、俺の大事な人だって紹介すれば身内も同然だからさ」
これで大体おしまいと、國実は話を締めくくった。
質問があればどうぞと泉水を促した。
泉水は少し考えてから口を開いた。
「どうして今まで秘密にしてたのに、急に全部話してくれるの?」
「秘密というか、勘違いされるのを覚悟でいうと少しずつヒントは出してただろ?」
「ヒント? 兄弟がいっぱいいるとかそういうこと?」
泉水にはピンとこないところが嬉しいよ。とニコニコした國実はどこか少し寂しように泉水には見えた。
「ブラコンが酷いとか、金銭面でも一般的で高いプレゼントするわけでもない。あえてマイナス面を主張してたんだけど、それに妨害もあるって言っただろ? あれも嘘じゃないって志寿加が目に見えて証明したし。そういうことでツラいと思うならちゃんと離れてほしいと思ってた」
國実のお試し期間は本当に重要な時間なのかもしれないと、泉水にもようやく分かってきた。自分が試されるだけじゃない、國実は自分も試していたのだ。家族から干渉があってもなお付き合うだけの価値が自分にあると判断されるかどうかを。
「そんな……」
自分の心が満たされることしか考えてなかった泉水はそのことに気付くと國実に申し訳なくなった。性癖に関してだけの遠慮しかなく、今更國実の言葉に甘えていたと自覚できた。
國実は本当に本気で付き合う相手を見極めようとしてくれていたのだ。
「背後の金銭が目当てとか、兄弟の誰かに繋ぎ取りたいとか、俺に近づいてくる人間はいろんな理由があるんだよ。それならそれで相手にするんだけど、仮に俺のことが本当に好きでもそういうことが面倒に思うこともあるだろうからさ。でもそんなこと付き合う前から言われたらウザイだろ」
國実はまた笑った。
だから泉水も笑うことにした。
國実の話はもっと深刻なことかもしれなかったが、それを軽く受け止めることも國実を癒すことができるかもしれないと思ったから。
「ウザいのは俺の方でしょ」
それは本当にそう思った。
突撃するように告白して、好きになってほしいと言っておきながら、何か努力をした覚えもない。
そんな自分をどうして好きと言ってくれるのか分からないけど、泉水はやっぱり自分がどんどん國実を好きになっていってると自信がある。
たとえ國実の兄弟に強く反対されようと、何されようとそれだけは好きの気持ちは負けない。
「でも俺は國実さんが大好き、ダメ?」
國実は首振って、ダメじゃないと優しく笑った。
「俺も好きだよ、でも付き合えるって決まってから真実告げるのも言うのもどうかと思うけどな。泉水はひどい男に捕まったな」
「俺は今知れて嬉しい」
泉水はいたずらに軽く國実の頬にキスをした。
嬉しい気持ちの表れとずっと手を弄ばれた仕返しのつもりだったが、一瞬驚いたように固まった國実は次の瞬間には泉水をソファに押し倒し、ずっと捕まえていた泉水の右手の指を口に含む。
「んっ、國実さん?」
國実の舌は手のひらに移り、握る手首の方まで添わされていく。
そしてそこをきつく吸われ、國実の口が離れた後には赤い跡がはっきりと残っていた。
「印だ、縄の跡よりいいだろう」
泉水が甘く微笑むと國実はその唇ごと口に含み甘さを堪能し、泉水もまたその口づけに心のそこから酔いしれた。
自分の体も心も國実が満たしてくれるように、いつか國実のすべても満たしたいと思う泉水だった。
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