処刑され逆行した悪役は悪人になる

白雪慧流

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エピローグ

過去から未来へ

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 バーナード公爵邸中庭。
 そこには、双子の男児の元気な声が響く。

 前バーナード公爵は、政略結婚だったのもあったのか、あまり屋敷内のことには目を向けていなかった。
 公爵夫人も然りである。

 俺自身も宰相職が思いのほか忙しく、あまり目は向けられていないが、その分キャロが、使用人の管理から、中庭の手入れに対することまで、担ってくれている。
 中庭に新たに設置されたガゼボでは、暖かいが故だろう、キャロが目を瞑って寝息を立ている。
 変な夢でも見ているのか、眉間に皺を寄せている。

「ふふっ、シワができるぞ」
「あっ! ととさまー!」
「おかえりなさいませ! とうさま!」
「ただいま、ルイ、ロイ」

 二人は五歳になる、可愛い双子の息子である。銀色の髪に紫色の瞳が、兄のルイ。銀色の髪に青い瞳が弟のロイ。
 双子なので基本的な造形は似ているが、瞳の色と、口調で二人の見分けは簡単だ。なぜか、ルイの口調が荒いんだよな。
 ……俺に似たのか。ロイが丁寧なのはキャロに似たんだろうな。なんというか、俺達を綺麗に割ったような、性格と瞳なのである。まぁ、いいか。

「かかさま、おきないのー!」
「ルイ、かあさまはつかれてるのです」
「えー! なら、ととさまあそぼ!」

 ルイが俺に抱きつくのを、ロイが呆れたように引き離す。
 わたしでいいでしょうと、ぶすっと言い、ルイは首を傾げている。
 うん、仲がいいのは父さん嬉しいけどな? ロイはちょっと、危ない方向に傾きかけてないだろうか。

「二人の婚約者探しは難航しそうだな……」
「こんやくしゃ?」
「とうさま! ぼくたちにはまだはやいです!」
「おぅ……」

 これ、十歳くらいには離れてくれるだろうか? 無理そうだと思うのは、俺だけだろうか。
 ルイは、婚約者が何かをわかってないのだろう、ロイに、まだはやいの? と純粋な目で聞いている。ロイはぎゅっと、まるで誰にも渡さないと言わんばかりに、ルイを抱きしめ、俺を睨んだ。

 公爵家には血は繋がっていないが、とある理由で養子縁組した長男が一人いる。
 彼にというか、彼の伴侶に相談しようかと、手紙を書く算段を頭の中で組み立てていたら、んっ……と密やかな声がした。

 キャロが起きたようだ。

「おはようキャロ、変な夢を見ていたようだな?」
「めるあさま……?」

 起き抜けの舌足らずの喋り方に、悶えながらも、久しく、様などと付けられていなかったので、つい小首を傾げてしまう。
 婚約後、二年後に結婚式を挙げた俺達だが、婚約期間の間一番苦労したのは、二人の関係を主従から、恋人にすることである。

 特にキャロから俺への呼び方が中々補正されず、初夜でようやっと、様が取れたのだ。
 以来、様付けをしなくなったのだが、なぜ今様付けを?

「……生きてる」
「おい、キャロ? きゃーろ?」

 ぼやっとした焦点が定まらぬ瞳で、俺の頬へと手を伸ばしたキャロは、そのまま、ペタペタと俺を触る。
 まるで、その場にいるのを確かめるように。

「…………」
「大丈夫か?」
「っ……! メルア、お、おかえりなさい」

 耳元で声をかければ、現実に引き戻されたキャロが、ガタッ! と立ち上がる。
 ちょっとしたことで恥ずかしがるのも健在だ。

「ただいま。なんだ、悪夢でも見ていたのか?」
「そう……ですね……」

 自身の手元を見るキャロは、次に手首を触る。
 あまりに不安そうだったからだろうか、ルイとロイも、眉を下げて心配そうにしている。

「かかさま、かなしい?」
「かあさま、だいじょうぶですか?」
「ルイ、ロイ……えぇ、母様は大丈夫ですよ、少し嫌な夢を見ただけです」

 しゃがみ二人をぎゅっと抱きしめる。
 二人は、よかった! と元気になり、走り回っても問題なく整えられた中庭を駆ける。

「メルア」
「ん?」
「あの時……僕が奴隷として檻にいた時、見つけてくれてありがとうございます」
「なんだいきなり」
「いえ……幸せだなって。兄上ではなく、メルアの傍にいて良かったなと」

 泣きそうな顔でそう言うものだから、俺はそっとキャロを抱きしめた。
 ポンポンと頭を優しく、撫でると甘えるように頬を擦り寄せてくる。

「俺こそ、選んでくれて感謝してる」
「選ぶ、ですか?」
「あぁ、あの時キャロが俺のところに来たいと言ったから、キャロを買えたんだ」

 でなくば、あの奴隷商人は俺ではなく、カルム殿下に渡していただろう。
 押しに弱い商人で良かったとつくづく思う。

「愛してるよキャロ、これまでも、これからも」
「はい、僕も愛しています」

 ちゅっと、額にキスを落とす。
 すぐに、キャロは飛び退き、顔を真っ赤にする。

「くくっ、いい加減に慣れてくれ」
「メルアは甘すぎるんですっ!」
「甘くしてるんだよ。今回は後悔したくないんだ」

 ぼそりと呟いた言葉は、風に乗り、誰にも届かない。

 いつかのような、清々しい青空だけが、音を拾っていた。
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