フィリピン放浪記

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第1話 不謹慎極まりないスローガン『働かざるして喰っていこう』を 掲げ私の旅の始まりです。(2)

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「先ずは早急に必要な生活用品を買いそろえなければ」

ネットカフェ営業時間の合間をって、ジョイを伴いトライシクルに乗り込みにぎわい通りへと向かいました。

   

(アジア特有の乗合いバイク トライシクルです)

朝夕のラッシュ時を避けた昼日中。砂煙舞うメインの幹線道の通りは、南国特有の熱気と人混みで溢れていました。
ジョイは上機嫌でした。常日頃から笑顔の絶えない彼女ではありましたが・・・
頼られた事が余程嬉しかったのでしょう。いつも以上の大きな声でまくし立ててくるのです。美人とは言いがたい。しかし愛嬌のある、そばにいるとパッと華やぐ、恐らくは二十歳後半の女性でした。

会話の中身は意味不明でしたが、
幾つもの商談が彼女の功績で飛ぶように好転していく様は実に見事でした。
それもそのはず。商談事は生まれた時から彼女の身に染み付いていたからです。つまりは、荒くれた南海の市場で5歳から働いてきた彼女も、どこか荒くれた商売慣れな狼藉者ろうぜきものでした。栃木で2年間ほどヌードダンサーを経験したらしく、彼女の日本語は不気味で荒い栃木弁。特別美人でもなければブサイクでもない。小さく華奢きゃしゃな体躯には計り知れないエネルギーが詰まってた。

寝具類・食器類・キッチン用品の数々・当座の食品類・簡素な作りのプラスチックテーブルに数個の椅子。5リットルペットボトルの飲料水。私が最も必需とするテレビは後日中古を手に入れました。

「金はダイジョブかぁタロさん」タロさんとは私の事。私の名前健太郎から派生し更に短縮されちまった呼び名です。
大声でまくし立てるジョイ。私はもうそろそろ限界だと告げると・・・
「タロさんと私は一緒にタロさんのアパートメントに帰るっぺ。私いる。私が助けっから」

そんなこんなで多種多様な生活の品々をトライシクルの屋根に積み上げて荒縄で縛り上げました。


我が家の様子もイスとテーブル及びテレビが収まると、果然生活がにおい立ち「俺は見知らぬ他国の地で確実に生きてるんだ」という実感が沸き上がり、微かな笑みがこぼれました。兎にも角にも気にしなければ、すべては結果オーライです。私は心底気に入っていたのです。目覚めて直ぐに冷たいシャワーを浴びます。シャワーのエリアも当然外(おんも)です。キッチンでコーヒーを入れテレビのスイッチをオンする。コーヒーをすすりながらイス(中国製の安物のプラスチック作り。普通に腰掛けているにも関わらず3回もへし折れた)に腰掛けてボンヤリ朝のニュースに目を配る。そのアクションの場がすべて屋外です。この解放された心持ち。
閉鎖した日本では決して味わえない・・・
ノアさんの感性に感謝です。

   

週の半分は雨か降る季節。温帯のフィリピンでも肌寒い季節です。ネットカフェでの勤務時間以外、ほとんどの時間を3畳ほどの狭い寝室で過ごす羽目となりました。雨が激しさを増すとテレビの音が聞こえません(何ぶんオンモ。つまり外であるが故に)テレビを寝室に引き込みました。いつものように理解不能な現地の番組をボンヤリ眺めていた夜半の午後8時ごろ・・・我が家の玄関ドアを激しく打ち鳴らす音。あれはノックとは言いがたい。例えるなら「破壊活動」。雨音が激しかったのは確かです。雨音に負けじと思う気持ちも理解できる。

・・・にしても、やりすぎな激しく打ち鳴らす破壊活動。確かな恐怖を覚えた程です。なぜならジェネラルサントス。当時、「中央政府の統制が完全には及ばない危険地域」と言う触れ込み。

玄関ドア横の小窓から外を伺います。雨の水飛沫の中の暗がり。女性らしい姿をとらえました。その向こうに更にふたつの人影。

そして数秒後の我が家のリビングの状況・・・

首回りから足首まで、全身に刺青(タトゥー)を施した二人の男。そして例の彼女。日用品の買い出し及び荷解にほどきの手助けをしてくれたジョイがいました。



      
      

今宵の雨が激しさを増す中、ひとり静かに暮らして来たはずの私の、唐突に舞い込んだ慌ただしい出来事についてつづります。
ずぶ濡れの3人の来客。タイルで敷き詰めたリビング床は、したたる水滴による水溜まりがみるみるうちに広がっていく。水溜まりの上にオッ立つ全身を刺青(タトゥー)で覆われた二人の見知らぬ男達。
      

肌寒い雨の夜。彼等の出で立ちは、Gジャン及び深々とフードを着込んだ現地の防寒スタイル。耳には片方だけのイヤリング。手首に重々しく見え隠れするのは、銀色に輝く細かな細工が施された分厚いブレスレット。利き腕に巻かれた派手目の腕時計。胸元そして両足に伺えるのは「すね毛」ではありません。浅黒い肌に立派な刺青(タトゥー)を施しています。私の勝手な思い込みですが、彼等に施された刺青(タトゥー)はファッションという赴きとは異り、何処か部族の象徴とでも言うのか・・・ある種ネイティブの誇りのような印象を受けました。
そして、いつも通りにゲラゲラとまくし立てる陽気なジョイ。それらを、不安な心を悟られぬよう満面の笑みで迎える私。
「タオルねえガ???」
私の笑みを不審そうに覗き込みながら、栃木なまりのジョイが二人の男達を従え、びしょ濡れの身体を指さして「タオル」と連呼します。
男達の手にはパンパンに膨らんだ手土産らしい深紅のビニール袋。中身は恐らくビッグサイズのガラスボトル。
      

定番のフィリピン産ビール「レッドホース」でしょう。

おおよそ一時間後、我が家のリビングルームの住人達はボロボロ酔いの状況でした。「レッドホース」。いわゆる日本のビールとはおおいに異なりリキュールに近い感触。「とりあえずビール」と言う乗りではないのです。かなりのアルコール濃度。氷を浮かべるぐらいが丁度良い感触です。

「タロさん・・・お前は銃を撃った事があるか?」
刺青(タトゥー)の男達と私の会話はジョイがすべて通訳です。
「無いです!」酔いが体の芯まで染み込んだ爆酔いの私が、当たり前だとばかりに答えました。
兎にも角にもレッドホースの威力たるや半端ない!
「無い。なぜ無い??タロ・・・撃ちたいか?銃!」黒豚を思わせる片方の巨漢の男が不服そうに返しました。
「そうじゃなくてね、私は銃にまったく興味が無いんだ」
「そうかタロお前は銃が撃ちたいか。心配ない。俺に任せろ。俺がお前の望みを叶えてやる」
「ありがとう。でもお断りです。興味が無いんで」
「分かったタロ。来週俺の娘の誕生日。お前を娘の誕生日に招待する。その時、お前の望みを叶えよう」
「ありがと・・・?」怪訝そうにジョイを見つめる私。時折意味不明の奇声を雄叫おたけぶ彼女。どうやら酔い騒ぐ輪の中で最も酔っているようでした。
「気に入った。俺の相棒タロ!俺とお前は生涯の友達。俺がお前の望みを叶えてやろう」
つまりは爆爆酔いのジョイ。通訳がまったく覚束おぼつかない有様で、私達は意思の疎通がまともに図れませんでした。

「お仕事は?何をしていますか?」無理矢理に会話の流れを修正した私。酔ってはいますが比較的落ち着いた、狐目の小動物を思わせる、もう片方の男に語り掛けました。
「僕??僕だね。僕は音楽家」狐目さんが素っ頓狂な声を上げた。
「音楽家?」
「そう。音楽家・・・僕は自分で楽器をコサえてそれを毎日演奏して過ごしてる」
私の質問が愚かな問いかけである事は、この時点では気付きませんでした。私は不勉強な愚か者でした。彼等の多くが、職を持てずにいたわけです。私がジェネラルサントスで出会ったすべての男達(私の周りに限って)が無職でした。誇張では無く事実です。

「タロ・・・俺達が何故お前を訪ねて来たか教えてやろう」黒豚さんが虚ろに緩んだまなこで意味不明な笑みを浮かべてる。
「???」何か怪しげな空気の漂いを感じた私。

黒豚さんと狐目さんが軽くお互いで目配せした後、大声で笑い出しました。私は当然当惑です。何がそんなに可笑しいのか!?

そのくだりの・・・その刹那です。ジョイが異様にはにかむ姿を私は見逃しませんでした。私の脳裏に「一生の不覚」というワードがクッキリと浮かんできました。
あの日、日用品買い出しの日。何気なく交わしたジョイと私の会話。ソレがこんな結果になろうとは・・・




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