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〈天井の無い夜〉1
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「俺、上手くなったよな?」
夕方秋人の病室に訪ねて来て質問する虎太郎の雰囲気は、何故だか反論を求めてはいない。
「自分で言ってる内はまだまだだよ~」
質問の意図を読み取れない秋人は笑い飛ばしたが、真剣な表情で一睨みする虎太郎にすぐに頷き返す。
「‥‥?」
理由を聞ききれず唖然としている秋人に「行くぞ!」と急かす虎太郎は、相変わらず説明しようとはしない。
柄にもなく少し緊張した様子の虎太郎が移動した先は、千夏の居る病室だった。
「二人で来るの珍しいね」
突然の来訪にも関わらず、千夏は人懐っこい笑顔で二人を迎える。
「今日は作詞の参考に俺の歌聴いてもらおうと思ってな」
「それって私だけにスペシャルライブ?」
悪戯な言葉のやり取りに「そんな大袈裟なもんちゃうわ」と虎太郎は照れ隠しに強がりを口にするが、特別な思い入れが有るのは言うまでもない。
「楽しみだな~」
二人の後を追う千夏は、まるで子供のようにスキップで駆けて行く。
「素敵~!ココがライブ会場?」
「いつもは練習場やけどな」
珍しく患者の居ない屋上の空は、三人を祝福しているかのように綺麗な夕焼けに染まっていた。
「じゃあ始めるか‥‥」
そう言って虎太郎がケースから取り出したのは、この日の為に用意したであろうアコースティックギター。
秋人は一瞬驚いた表情をするが、何も言わない虎太郎を気遣かってか聞こうとはしない。
視線を合わせた二人がギターを弾き始めると同時に、虎太郎の歌声が屋上に響く。
「アコギやと、こんなもんやな‥‥」
一曲弾き終えた虎太郎が遠慮気味にギターを置くと、千夏は感想を言い忘れる程夢中で拍手を送っている。
「‥‥どうや?」
真剣な表情で尋ねる虎太郎に「コレ位良かった~!」と陽気に跳びはねる千夏の感想は、全く説明になっていない。
だが簡単には説明出来ない程、虎太郎の歌声に力が有るのは事実だった。
「どれ位やねん‥‥」
照れ臭さそうに虎太郎は呟くが、それ以上聞こうとはしない。
「次はライブ会場で聴かせたるわ」
まるでプレゼントを渡すみたいに、希望に満ちた瞳で虎太郎は宣言するが「良いな~!二人共‥‥」と羨ましそうに涙声で呟く千夏は、何故か目に涙を浮かべ沈みゆく夕日を眺めている。
彼女がいつになく陽気に振る舞っていたのが空元気だった事に、二人が気付いた時はすでに遅く。
千夏の頬に涙が落ちたのと同時に逸れを照らしていた夕日は沈み、屋上の景色は暗い夜に変わっていた。
「もう夜になっちゃったね‥‥」
見た事の無い消沈する千夏の姿に、動揺する二人は返事も返せない。
「私‥‥、手術するか悩んでるんだ」
気を使わせまいと千夏は明るく切り出すが、詳しく聞き出せるような内容ではない。
「夜が嫌い‥‥、時間なんか止まったら良いのに‥‥」
来てほしくない明日を拒むように、千夏は話し続ける。
「どうせ死ぬなら死ぬ前に見たい所が沢山あったな~、スタジオでもライブ見たかったし、お酒も飲んでみたかったし‥‥」
せきをきるように溢れ出る千夏の言葉と涙は、優しさの余りに今日まで誰にも言わなかった我慢を物語っていた。
「解った行くぞ‥‥」
例の如く何の説明も無しに千夏の手を引き歩き始める虎太郎に、驚きを隠せない千夏の服装はパジャマ姿だった。
「ちゃんと許可とか取らないと駄目だよ~」
心配そうに秋人は引き止めるが「しばくぞ、そんなんどうでもええねん」と虎太郎は聞き入れず、千夏も掴まれた手を振りほどこうとはしない。
「もう~、しょうがないな~」
そう言って諦め口調で二人の後を追う秋人だが、微笑する其の表情は満更でもない。
二人のギターは秋人の病室に置き、千夏の病室には[すぐ戻ります、千夏]と短めの書き置きだけを残し、三人は緊急搬送者用の裏口から病院を抜け出す。
虎太郎の運転するバイクに三人で乗り、移動した先は近くのコンビニだった。
「ちょっと待ってな」
バイクを停めた虎太郎は二人を降ろすと、一人コンビニに入っていく。
待たされた二人は不安そうに辺りを見回すが、振り返らない虎太郎は気にもしていない。
「じゃあ行こか」
数分後コンビニで何やら大量に買い出しをした虎太郎は、逸れを秋人に手渡し再びバイクで移動を始める。
「ここやったらええやろ、来るの鉄鬼の奴達くらいやしな」
そう言ってバイクを停めた虎太郎は、慣れた様子でベンチに腰掛ける。
着いた場所は町外れの静かな公園。
落ち着きなく秋人は辺りをキョロキョロと見渡すが、陽も落ちきった夜の公園には他に誰か来る気配すらない。
「三人乗りは駄目だよ~、信号無視もしてたし、一人は女の子なんだよ~」
今更な秋人の正論に、当然のように聞く耳を持たない虎太郎は「早かったやろ!」と悪戯な笑顔を返し。
「ジェットコースターみたい!まだドキドキしてる」と虎太郎を庇う千夏は、いつものように無邪気な笑顔を返した。
「先ずはコレやろ!どれが良い?」
買い出しした袋の中から自分が飲む缶ビールを取り出した虎太郎は、袋を開き千夏に選ばせる。
「未成年にアルコールは駄目だよ~」
情けない声を上げて秋人は止めようとするが「俺の奢りや気にするな!」と問題をすり替える虎太郎との会話は成立していない。
「コレ美味しそう!」
そう言って千夏が上機嫌に一缶取り出すと、まだ納得していなさそうだった秋人も「どうなっても知らないよ~」と諦めたように呟く。
夕方秋人の病室に訪ねて来て質問する虎太郎の雰囲気は、何故だか反論を求めてはいない。
「自分で言ってる内はまだまだだよ~」
質問の意図を読み取れない秋人は笑い飛ばしたが、真剣な表情で一睨みする虎太郎にすぐに頷き返す。
「‥‥?」
理由を聞ききれず唖然としている秋人に「行くぞ!」と急かす虎太郎は、相変わらず説明しようとはしない。
柄にもなく少し緊張した様子の虎太郎が移動した先は、千夏の居る病室だった。
「二人で来るの珍しいね」
突然の来訪にも関わらず、千夏は人懐っこい笑顔で二人を迎える。
「今日は作詞の参考に俺の歌聴いてもらおうと思ってな」
「それって私だけにスペシャルライブ?」
悪戯な言葉のやり取りに「そんな大袈裟なもんちゃうわ」と虎太郎は照れ隠しに強がりを口にするが、特別な思い入れが有るのは言うまでもない。
「楽しみだな~」
二人の後を追う千夏は、まるで子供のようにスキップで駆けて行く。
「素敵~!ココがライブ会場?」
「いつもは練習場やけどな」
珍しく患者の居ない屋上の空は、三人を祝福しているかのように綺麗な夕焼けに染まっていた。
「じゃあ始めるか‥‥」
そう言って虎太郎がケースから取り出したのは、この日の為に用意したであろうアコースティックギター。
秋人は一瞬驚いた表情をするが、何も言わない虎太郎を気遣かってか聞こうとはしない。
視線を合わせた二人がギターを弾き始めると同時に、虎太郎の歌声が屋上に響く。
「アコギやと、こんなもんやな‥‥」
一曲弾き終えた虎太郎が遠慮気味にギターを置くと、千夏は感想を言い忘れる程夢中で拍手を送っている。
「‥‥どうや?」
真剣な表情で尋ねる虎太郎に「コレ位良かった~!」と陽気に跳びはねる千夏の感想は、全く説明になっていない。
だが簡単には説明出来ない程、虎太郎の歌声に力が有るのは事実だった。
「どれ位やねん‥‥」
照れ臭さそうに虎太郎は呟くが、それ以上聞こうとはしない。
「次はライブ会場で聴かせたるわ」
まるでプレゼントを渡すみたいに、希望に満ちた瞳で虎太郎は宣言するが「良いな~!二人共‥‥」と羨ましそうに涙声で呟く千夏は、何故か目に涙を浮かべ沈みゆく夕日を眺めている。
彼女がいつになく陽気に振る舞っていたのが空元気だった事に、二人が気付いた時はすでに遅く。
千夏の頬に涙が落ちたのと同時に逸れを照らしていた夕日は沈み、屋上の景色は暗い夜に変わっていた。
「もう夜になっちゃったね‥‥」
見た事の無い消沈する千夏の姿に、動揺する二人は返事も返せない。
「私‥‥、手術するか悩んでるんだ」
気を使わせまいと千夏は明るく切り出すが、詳しく聞き出せるような内容ではない。
「夜が嫌い‥‥、時間なんか止まったら良いのに‥‥」
来てほしくない明日を拒むように、千夏は話し続ける。
「どうせ死ぬなら死ぬ前に見たい所が沢山あったな~、スタジオでもライブ見たかったし、お酒も飲んでみたかったし‥‥」
せきをきるように溢れ出る千夏の言葉と涙は、優しさの余りに今日まで誰にも言わなかった我慢を物語っていた。
「解った行くぞ‥‥」
例の如く何の説明も無しに千夏の手を引き歩き始める虎太郎に、驚きを隠せない千夏の服装はパジャマ姿だった。
「ちゃんと許可とか取らないと駄目だよ~」
心配そうに秋人は引き止めるが「しばくぞ、そんなんどうでもええねん」と虎太郎は聞き入れず、千夏も掴まれた手を振りほどこうとはしない。
「もう~、しょうがないな~」
そう言って諦め口調で二人の後を追う秋人だが、微笑する其の表情は満更でもない。
二人のギターは秋人の病室に置き、千夏の病室には[すぐ戻ります、千夏]と短めの書き置きだけを残し、三人は緊急搬送者用の裏口から病院を抜け出す。
虎太郎の運転するバイクに三人で乗り、移動した先は近くのコンビニだった。
「ちょっと待ってな」
バイクを停めた虎太郎は二人を降ろすと、一人コンビニに入っていく。
待たされた二人は不安そうに辺りを見回すが、振り返らない虎太郎は気にもしていない。
「じゃあ行こか」
数分後コンビニで何やら大量に買い出しをした虎太郎は、逸れを秋人に手渡し再びバイクで移動を始める。
「ここやったらええやろ、来るの鉄鬼の奴達くらいやしな」
そう言ってバイクを停めた虎太郎は、慣れた様子でベンチに腰掛ける。
着いた場所は町外れの静かな公園。
落ち着きなく秋人は辺りをキョロキョロと見渡すが、陽も落ちきった夜の公園には他に誰か来る気配すらない。
「三人乗りは駄目だよ~、信号無視もしてたし、一人は女の子なんだよ~」
今更な秋人の正論に、当然のように聞く耳を持たない虎太郎は「早かったやろ!」と悪戯な笑顔を返し。
「ジェットコースターみたい!まだドキドキしてる」と虎太郎を庇う千夏は、いつものように無邪気な笑顔を返した。
「先ずはコレやろ!どれが良い?」
買い出しした袋の中から自分が飲む缶ビールを取り出した虎太郎は、袋を開き千夏に選ばせる。
「未成年にアルコールは駄目だよ~」
情けない声を上げて秋人は止めようとするが「俺の奢りや気にするな!」と問題をすり替える虎太郎との会話は成立していない。
「コレ美味しそう!」
そう言って千夏が上機嫌に一缶取り出すと、まだ納得していなさそうだった秋人も「どうなっても知らないよ~」と諦めたように呟く。
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