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「あ、あの」
「ん」
「……鑑定させていただいてからで大変申し訳ありませんが、ご両親に売買の許可はいただいておりますでしょうか」
そう。重要なのはそこで。この外見の一番のネックがそこなのだ。
咲也子は小さい。六歳の子どもとそう変わらない身長しかない幼い少女が、魔道具を買いに来るならばともかく。売りに来たとして、まともなところはほとんど買い取ってくれないだろう。ましてやフードを深くかぶっていて顔もまともに見えない相手だ。なおさらに怪しい。
革命以前ならまだよかったが、現在は作れる職人がいなくなってからというもの、魔道具は高価だ。何も知らない令嬢が持ち出して、後になってから親の貴族に睨まれるなんてことになってしまったら店の経営すら立ち行かなくなってしまう。革命云々なんてことは、咲也子は知らなかったが。
こういうことにもきちんと頭が回るなんていい店をみつけたなと内心で喜んでいることをおくびにも出さず、首をかしげて見せた。
「おとーさんと、おかーさんはバイバイしなさいって言って、た」
「ご両親から許可をいただいているのですね? お手紙などはありませんか?」
重要なことのため何回も確認してくる。間違いがあってはいけないからだ。子どもの勘違いであってはいけないということはわかるのだが。ワンピースの袖に包まれた両手を見下ろす。当然のように咲也子は手紙など持っていない。
許可をとる相手も、手紙を書いてくれる相手ももういないのだから。
ちょっとだけ唇をかみしめてきゅっと両手でワンピースの裾を握る。
「おとーさんとおかーさん、もういないから」
この一言で今度は店主の顔が泣きそうにゆがめられる。感受性の強い子だと思う。きっと、この鋭い印象よりもずうっと柔い感性を持つのだろう彼の中では。没落した貴族の両親が最後の力を振り絞って我が子へと魔道具を託したのではないかという妄想がひろがっているのではないだろうか。
基本、没落した貴族は社交界に出たことのない者すらも人里離れたところで過ごす。なぜなら、町で働くなど家名を汚すとして貴族のプライドが許さないことだし、不用意に外出することで社交界での話のネタを提供することになるからだ。
しかし、貴族の誇りというものはすさまじい。
没落となった時点で一家心中を図る一族が大半だという。つまり咲也子をその時に残されてしまった子ではないかと。店内でフードを取らないことも、顔を見られたくないからなのではないかと。
店主の中ではそうなっているのではないかと考えて、若干咲也子は細めた目を閉じ、もう一度開く。そのために、気の弱そうな、もっと言えば押しに弱そうな店を選んだのだから。
「じゃいくらになりそうです、か?」
「あ、はい……迷宮品のティーポットは金貨五十枚、こちらの【クルミ割り人形】は光金貨三枚程になります」
ためらいなく言い切った店員を、こてりと首を傾げて見上げる。‘傲慢‘の魔力感知で魔力の乱れを見る。少しでも安く買いたたこうとしたら乱れるそれがすぐにわかるように、フードの中で青い瞳がきらめく。
一応没落しようとも貴族である者に対し喧嘩を進んで売りたい商人はいないとは思うが。別に咲也子は貴族でも何でもないのだが、そう見えることを利用しない手はない。幼い容姿もそうだった。やましいことがあれば何か反応を返すだろうし、そうでなくとも魔力には何らかの乱れが生じるだろう。
「んー……」
少なくとも、現状での魔力の乱れは確認できなかったため、安く取り上げようなんて微塵も思っていない証拠だ。
幼い容姿で没落した貴族、なめられる要素しかないといっても過言ではないのにも関わらず一切敬語を外さず客として扱うその態度。さらに咲也子の中でテリアの店の評価が上がった。
「なにか……」
「い、や。お願いしま、す」
「はい!」
普段大事に使っている日用品よりも、全く使っていないくるみ割り人形の方が高額に買い取られるという事実に内心結構荒んだ。だが、そんなことはひとかけらも表には出さない。
すぐにご用意しますね、と店の奥に入った店主は本当にすぐに戻ってきた。突発的な訪問にも対応できるような店は好ましいなあと、咲也子は少し口元を緩めてみた。
「お待たせいたしました、金貨五十枚と光金貨三枚です」
「これ、持っていくの大変だ、ね」
「あ、お財布をお持ちではなかったですか」
赤い大袋二つと青の絹袋の計三つを持ってくる店主。袋のつまり具合から言って赤く染色してある方が金貨だろうか。
それとなく光金貨の上の存在にかえてくれないだろうかと突っついてみるものの、藪の中には蛇はいなかったようだ。つまり、光金貨以上の存在はないということかと咲也子は思った。まあ、店主が鈍かったという可能性も捨てきれないが。
少々お待ちください、と棚に飾られている財布の入ったショーウインドウに近づいていく店主。とりあえず、自分の手には抱えきれない量のこの金貨を持ち運ぶすべを提示してくれるらしかった。
(【アイテムボックス】の親戚とかか、な)
普通の財布では入りきらない量の硬貨を見て、咲也子は思う。
「こちらが、お売りできる財布です」
静かに靴音を響かせてショーケースに入った何点かの財布を両手で抱えてくる。
普通貴族の買い物に貴族自身が金をはらうことはない。店から家に請求が来ることで一括に支払われることが普通なのだ。きっとこの店に貴族との付き合いはなくとも知識としては知っているのだろうということを推測して、財布に対する興味を隠そうとはしなかった。
「かわいい、の」
「か、かわいいもの、ですか? ……これなどどうでしょうか。お揃いでウエストポーチもございます。空間魔法がかかっていますので、たくさんものを入れることができますよ」
咲也子の目線の高さまで財布が入ったケースを下げてくれた店主の腕の中をのぞき込む。
店主が差し出したのは純白の布に薄桃色の花の刺繍が施されており、銀細工のされたボタンがついている、なかなかに品が良くかわいらしいものだった。
「これ、で。あとこれと同じポーチとポーション、そこにある、の。一緒にお願いしま、す。お金はそこからひいて、ね。あと金貨一枚は銀貨にできます、か? それとその銀貨一枚を銅貨、に」
「え、あ、はい!」
「あ、からカード、も」
「はい!」
咲也子の中指ほどの大きさであるカードやポーションがおいてあるコの字の棚をさして、店主に一緒に購入することを伝える。戸惑いながらもきちんと要望に応え、返事がいいだけではない店主に好感が持てた。なかなか好みの財布とカバンを選んでくれたと目を細める。
頷いた咲也子にほっとしたように赤い袋から35枚金貨を抜く。金貨は半分以上を持っていかれてしまったが、空間魔法が添付された財布とウエストポーチ、ポーション、空カードまで買っておいてこの値段なら妥当だろう。と先ほどの露店で割り出した妥当な価格から推測する。
店主はせっせこと抜いた金貨を赤いベルベッドのトレイに乗せさらに両替した銀貨九十九枚と銅貨百枚を乗せる。
「お財布にいれてくださ、い」
「あの、確認をしなくても……」
「信じてるからいい、の」
枚数確認をしていないまま財布に詰めるように言われ、店主があわてる。ここでごまかされていないか貨幣の数を数えるのが普通なのに。でも、咲也子の信じてるという言葉に。うれしいのを耐えようとしてできなかったような奇妙な笑みを浮かべて財布の中に詰め始めた。
詰めている間に、他にめぼしい物がないかと店内を見回したが、今の咲也子に必要なものは特に見当たらなかった。
全て詰め終わるとウエストポーチの中に財布とポーション、空カードをいれて渡してくれた。それを腰に巻いて、とりあえず必要なものはそろったかと店内に一周目を回し、カウンターの上においておいたクマのぬいぐるみを回収して店の扉に手をかける。
「また、ねー」
「はい! ありがとうございました。……え?」
「ん」
「……鑑定させていただいてからで大変申し訳ありませんが、ご両親に売買の許可はいただいておりますでしょうか」
そう。重要なのはそこで。この外見の一番のネックがそこなのだ。
咲也子は小さい。六歳の子どもとそう変わらない身長しかない幼い少女が、魔道具を買いに来るならばともかく。売りに来たとして、まともなところはほとんど買い取ってくれないだろう。ましてやフードを深くかぶっていて顔もまともに見えない相手だ。なおさらに怪しい。
革命以前ならまだよかったが、現在は作れる職人がいなくなってからというもの、魔道具は高価だ。何も知らない令嬢が持ち出して、後になってから親の貴族に睨まれるなんてことになってしまったら店の経営すら立ち行かなくなってしまう。革命云々なんてことは、咲也子は知らなかったが。
こういうことにもきちんと頭が回るなんていい店をみつけたなと内心で喜んでいることをおくびにも出さず、首をかしげて見せた。
「おとーさんと、おかーさんはバイバイしなさいって言って、た」
「ご両親から許可をいただいているのですね? お手紙などはありませんか?」
重要なことのため何回も確認してくる。間違いがあってはいけないからだ。子どもの勘違いであってはいけないということはわかるのだが。ワンピースの袖に包まれた両手を見下ろす。当然のように咲也子は手紙など持っていない。
許可をとる相手も、手紙を書いてくれる相手ももういないのだから。
ちょっとだけ唇をかみしめてきゅっと両手でワンピースの裾を握る。
「おとーさんとおかーさん、もういないから」
この一言で今度は店主の顔が泣きそうにゆがめられる。感受性の強い子だと思う。きっと、この鋭い印象よりもずうっと柔い感性を持つのだろう彼の中では。没落した貴族の両親が最後の力を振り絞って我が子へと魔道具を託したのではないかという妄想がひろがっているのではないだろうか。
基本、没落した貴族は社交界に出たことのない者すらも人里離れたところで過ごす。なぜなら、町で働くなど家名を汚すとして貴族のプライドが許さないことだし、不用意に外出することで社交界での話のネタを提供することになるからだ。
しかし、貴族の誇りというものはすさまじい。
没落となった時点で一家心中を図る一族が大半だという。つまり咲也子をその時に残されてしまった子ではないかと。店内でフードを取らないことも、顔を見られたくないからなのではないかと。
店主の中ではそうなっているのではないかと考えて、若干咲也子は細めた目を閉じ、もう一度開く。そのために、気の弱そうな、もっと言えば押しに弱そうな店を選んだのだから。
「じゃいくらになりそうです、か?」
「あ、はい……迷宮品のティーポットは金貨五十枚、こちらの【クルミ割り人形】は光金貨三枚程になります」
ためらいなく言い切った店員を、こてりと首を傾げて見上げる。‘傲慢‘の魔力感知で魔力の乱れを見る。少しでも安く買いたたこうとしたら乱れるそれがすぐにわかるように、フードの中で青い瞳がきらめく。
一応没落しようとも貴族である者に対し喧嘩を進んで売りたい商人はいないとは思うが。別に咲也子は貴族でも何でもないのだが、そう見えることを利用しない手はない。幼い容姿もそうだった。やましいことがあれば何か反応を返すだろうし、そうでなくとも魔力には何らかの乱れが生じるだろう。
「んー……」
少なくとも、現状での魔力の乱れは確認できなかったため、安く取り上げようなんて微塵も思っていない証拠だ。
幼い容姿で没落した貴族、なめられる要素しかないといっても過言ではないのにも関わらず一切敬語を外さず客として扱うその態度。さらに咲也子の中でテリアの店の評価が上がった。
「なにか……」
「い、や。お願いしま、す」
「はい!」
普段大事に使っている日用品よりも、全く使っていないくるみ割り人形の方が高額に買い取られるという事実に内心結構荒んだ。だが、そんなことはひとかけらも表には出さない。
すぐにご用意しますね、と店の奥に入った店主は本当にすぐに戻ってきた。突発的な訪問にも対応できるような店は好ましいなあと、咲也子は少し口元を緩めてみた。
「お待たせいたしました、金貨五十枚と光金貨三枚です」
「これ、持っていくの大変だ、ね」
「あ、お財布をお持ちではなかったですか」
赤い大袋二つと青の絹袋の計三つを持ってくる店主。袋のつまり具合から言って赤く染色してある方が金貨だろうか。
それとなく光金貨の上の存在にかえてくれないだろうかと突っついてみるものの、藪の中には蛇はいなかったようだ。つまり、光金貨以上の存在はないということかと咲也子は思った。まあ、店主が鈍かったという可能性も捨てきれないが。
少々お待ちください、と棚に飾られている財布の入ったショーウインドウに近づいていく店主。とりあえず、自分の手には抱えきれない量のこの金貨を持ち運ぶすべを提示してくれるらしかった。
(【アイテムボックス】の親戚とかか、な)
普通の財布では入りきらない量の硬貨を見て、咲也子は思う。
「こちらが、お売りできる財布です」
静かに靴音を響かせてショーケースに入った何点かの財布を両手で抱えてくる。
普通貴族の買い物に貴族自身が金をはらうことはない。店から家に請求が来ることで一括に支払われることが普通なのだ。きっとこの店に貴族との付き合いはなくとも知識としては知っているのだろうということを推測して、財布に対する興味を隠そうとはしなかった。
「かわいい、の」
「か、かわいいもの、ですか? ……これなどどうでしょうか。お揃いでウエストポーチもございます。空間魔法がかかっていますので、たくさんものを入れることができますよ」
咲也子の目線の高さまで財布が入ったケースを下げてくれた店主の腕の中をのぞき込む。
店主が差し出したのは純白の布に薄桃色の花の刺繍が施されており、銀細工のされたボタンがついている、なかなかに品が良くかわいらしいものだった。
「これ、で。あとこれと同じポーチとポーション、そこにある、の。一緒にお願いしま、す。お金はそこからひいて、ね。あと金貨一枚は銀貨にできます、か? それとその銀貨一枚を銅貨、に」
「え、あ、はい!」
「あ、からカード、も」
「はい!」
咲也子の中指ほどの大きさであるカードやポーションがおいてあるコの字の棚をさして、店主に一緒に購入することを伝える。戸惑いながらもきちんと要望に応え、返事がいいだけではない店主に好感が持てた。なかなか好みの財布とカバンを選んでくれたと目を細める。
頷いた咲也子にほっとしたように赤い袋から35枚金貨を抜く。金貨は半分以上を持っていかれてしまったが、空間魔法が添付された財布とウエストポーチ、ポーション、空カードまで買っておいてこの値段なら妥当だろう。と先ほどの露店で割り出した妥当な価格から推測する。
店主はせっせこと抜いた金貨を赤いベルベッドのトレイに乗せさらに両替した銀貨九十九枚と銅貨百枚を乗せる。
「お財布にいれてくださ、い」
「あの、確認をしなくても……」
「信じてるからいい、の」
枚数確認をしていないまま財布に詰めるように言われ、店主があわてる。ここでごまかされていないか貨幣の数を数えるのが普通なのに。でも、咲也子の信じてるという言葉に。うれしいのを耐えようとしてできなかったような奇妙な笑みを浮かべて財布の中に詰め始めた。
詰めている間に、他にめぼしい物がないかと店内を見回したが、今の咲也子に必要なものは特に見当たらなかった。
全て詰め終わるとウエストポーチの中に財布とポーション、空カードをいれて渡してくれた。それを腰に巻いて、とりあえず必要なものはそろったかと店内に一周目を回し、カウンターの上においておいたクマのぬいぐるみを回収して店の扉に手をかける。
「また、ねー」
「はい! ありがとうございました。……え?」
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