幼女神の物見遊山観光記

ネコノミ

文字の大きさ
8 / 78

しおりを挟む
『テリアの店』と道具屋のマークが描かれている、その板の下方に虫眼鏡と迷宮の門が描かれた看板。武器屋の看板の下に連結されているそれは、どこか申し訳なさそうに風に吹かれぶら下がっていた。
 若干頼りなさそうなそれを見て、咲也子は迷わず青いステンドグラスがはめこまれた扉を開けた。

「はい、いらっしゃいませ」
「こんにち、はー」

 中には年若い店員が一人、カウンターの奥で山と積まれた商品らしきものを鑑定していた。
 咲也子を見る前にあいさつをしたからか、言葉には動揺が見られなかったものの、その表情は大きく困惑に揺れ鑑定をする手は止まっていた。

 咲也子の着ているフリルで縁どりされたケープは白く清潔で仕立てが良いものだ。家族からプレゼントされた大きなリボンのブローチもかわいらしく、真ん中の宝石は本物の蒼石である。ケープの隙間からかすかに見えている服は時代遅れなものの、気品のある清潔なもの。抱えているもアンティーク調でさらに、咲也子自身もフードをかぶっているが立ち方にはどこか品位を感じる。

 総合してぱっと見は清潔な子どもだが、よく見るとどこかの貴族のご令嬢が訪ねてきたよう見える。
 貴族の子どもが迷い込んできてしまったと考える方が難しくないだろうと、咲也子は少し首を傾げてみてから、なにやら凍りついている店員に話しかける。

「売りたいものあるんだけど、ね。迷宮品、大丈夫です、か?」
「は、はい。承っております!」

 店内に人影は見当たらないため、目の前の年若い青年が店主なのだろうか。
 鑑定を頼むと慌ててカウンターから出てきて自ら対応する姿勢と、他に店員が見当たらないことが疑問を確定へと変えていく。

 見かけは二十歳いっていないかわからないくらいの童顔で、痩身。黒いスラックスに白いシャツに黒いベストと、リボンタイには紅い玉のついたピンを止めていた。銀縁のメガネがどこか鋭い印象を与えるが、慌ててカウンターから出てくるときにつまずくといった様子から、見かけ通りではないことがうかがえる。
 鮮やかな銀髪を後ろへとなでつけて、腰まで伸びたそれを肩のところで結び、動くたびにさらりと揺れた。

「お、お待たせしました!」
「これ、お願い、ね」

 よく見ると銀縁メガネのレンズになにかの術式がうっすらと浮かんでいることから、鑑定用の術式が埋め込まれた眼鏡だと思われた。鋭い印象を加速させはするものの、青年にはなかなか似合っている。
 そんなことを思いながら、咲也子が【アイテムボックス】から取り出しておいたティーポッドを差し出すと手袋をした丁寧な手つきで下から受け取り、店主は前かがみになって体ごと目を集中させた。鑑定を行っているのだろう。

 それを満足げに見て頷き、抱えていたを木造のカウンターへとさりげなく置く。おしべやめしべまで精緻に彫り込まれた薔薇の時計や迷宮品の証であるコインがついた呼び鈴が置いてあるのをさり気なくどかしながら。
 ふわりと若干の油とまだ新しい店なのだろうか、木の香りの強い店内へと視線を走らせるとカウンターから右手。コの字に配置された棚には迷宮品の証であるメダルがついたウエストポーチや財布、ポーションなとが種類ごとに間隔を開けて、見やすいように置いてあった。

 まだ店を開いてからそう経っていないのではと思われるのに、きちんと客に配慮されたいい店だなと咲也子は思った。
 ほかにも棚の壁部分に【魔道具高価買取中】の張り紙を発見した。

「魔道具……」
「はい? あ、はい。今、城の貴族様方が魔道具を集めて何かしているようで。国中から集められているので、魔道具が高く買い取られているんです」
「じゃ、これもお願いしま、す」

 即決だった。先祖代々から伝わっている【アイテムボックス】内の魔道具には実際に活用する機会が限られているものや、意味の分からないもの、使わないものが多くあったため、これを機会に少しでも減らしてしまおうと咲也子は思った。
 
 ケープの中を漁ったふりをして、【アイテムボックス】の中から十センチ程の大きさ、黒い帽子に赤い軍服で白いパンツに黒いブーツの【くるみ割り人形】を店主へ差し出す。まあ、いろいろあってもバッグ一つ持っていない今、せいぜい出してもおかしくないものはこれくらいしかないのだが。

【アイテムボックス】が珍しいことくらい、咲也子は知っていた。正確には母から聞いていた。
 体ごとティーポッドに集中させていた店主が、咲也子に向き直り、頭を下げると【くるみ割り人形】を受け取り、そちらにも目を凝らして鑑定していく。

「……素晴らしいですね。革命以前にできたもののようですし、保存状態も良好です」
 
 ひたすら鑑定に目を走らせていた店主がぽつりとつぶやいた。その直後、はっとしたかのように咲也子を見て、顔を青ざめさせる。

「申し訳ありません! 失礼なことを……」
「ん、褒めてくれてありがと、う」

 あからさまにほっとした表情を浮かべた店主の顔には、貴族に対する恐怖よりも畏れおおいといった色が見え隠れしていた。その態度で、この大陸における貴族の立ち位置、この大陸の治安といったものがわかる。
 貴族、ひいては上に立つものがなめられていると政治や治安にまで及ぶ、というのが咲也子の考えだ。恐怖を感じるほど評判が悪いのも考え物だが、親しみ過ぎて同列に見られるのも困ってしまう。
 この大陸の貴族たちはうまいこと舵を取っているらしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...