幼女神の物見遊山観光記

ネコノミ

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 サクヤがいたところと反対側の扉を開ける。
 サクヤでも届く低い位置にある、小さな取っ手をそれよりも小さい手が握り引くと同時にぎぃぃぃと金具の悲鳴が響いた。木目がきれいな扉から一気に光が襲ってきてそのまぶしさに目を細める。

「こっちにどう、ぞ-」

 扉の向こうはカウンター内であったものの誘導されてカウンターの外へ、勧められるまま猫のドアベルのかかった扉の両横にある磨きぬかれた窓からは新緑に萌える木々が見える。

 銀縁の花と葉っぱ、そこにひっそりととまる蝶の羽には幾何学模様が描かれている。そんなひと抱えもあるガラス細工が窓辺を飾る窓際の席に着く。その時に、ちらりと見えたカウンターの中が二段ほどの階段式になっていたことに僕は首傾げた。

 そこはカフェだった。かわいらしいチューリップを逆さにしたような照明に、通ってきたカウンターの中にはたくさんの茶葉や調味料、お酒と思われる琥珀色の液体が窓から入ってきた光に反射してきらきらと輝いていた。

 店内はどこか甘い匂いと茶葉の芳醇な香りが染みついていて、そこにいるだけでお腹が減ってくるようでそわそわしてしまった。
 窓の外にはどこまでも木々の青々しい緑が広がっていて、風にざわざわと揺れる様子が力強さを感じさせた。

「今日のおすすめは、トマトオムレツと野菜のリゾット。デザートには紅茶プリンとアイスティーをご用意しておりま、す!」

 白いテーブルクロスの上に、カウンター内から抱えて持ってきたメニューを置く。
 途中から黒いワンピースのポケットをあさり、紙を取り出して書かれていると思われる内容を読み上げた後は、言えた!とばかりに達成感がその無表情の中に見え隠れしていた。

「じゃあ、おすすめで」

 せっかく言ってくれたのだし。と思って注文すると、サクヤはポケットに紙を戻すとワンピースの袖越しにきゅ、きゅっと手を握られる。
 うれしいらしいと察することが出来るのは、サクヤの持つ雰囲気がほころんだことと僕自身も無表情であるためだ。でも、サクヤは表情こそ動かないものの結構雰囲気で語るというか、わかりやすい。

「少々おまちくださ、い」

 そう言ってカウンター内へと戻っていくサクヤ。どうやら彼女が料理するらしく、どう見ても身長が足りてないと思ったが、さっきの階段式になっていたカウンター内にそういうことかと頷いた。背の低いサクヤでもできるように段差がついていたらしい。
 
 それでも心配になって腰が上がりかけたが、大丈夫だと言うサクヤの言葉になんとか踏みとどまる。
 大丈夫だと言っているのにそばをうろうろされるのはうっとおしいだろう。僕が幼馴染に対してそう思っていたように。

 換気扇の音に邪魔されてよく聞こえないが、何の問題なく料理はできているようだしサクヤに対して巡らせていた気を戻して、さっきまで笑い転げていた<当千>の頬をつねって横に伸ばす。みょーんと面白いくらいに広がるそれに、お前は頬袋でも持っているのかと言いたくなる。

「伸びるね」
「キュア! キュアア!」
「笑ったくせに」
「キュ……キュア」

 少しは反省していたらしいので溜飲をさげて許すことにする。謝るように全身ですり寄ってくる<当千>の頭を撫でる。すべすべとした鱗の感触が、小さいけれども竜であることを示してくる。しばらく撫でた後に、おもむろにそんな<当千>の頭を抱きしめる。
 カウンター内ではじゅうじゅうと何かが焼ける音と食欲をそそるバターの良い香りがしてくる。

「キュア?」
「ごめんね」
「キュア」
「崩れるって思わなかった」
「キュア!キュア!」
「うん。びっくりしたよね」

 料理ができるまで<当千>と会話する。本当に会話できているわけじゃない。ただ、なんとなくこんな感じのことを言ってるんだろうなということがわかるだけだ。
 それだけでも十分異質なことだったらしく、両親は笑って褒めてくれたけれど、スクールでは随分といじめられたものだった。

 思えば人を信用できなくなったのはこの頃からかもしれないってところまで回想が終わったところで、完全にカウンターの向こうから音が消える。

 どうやって作った料理を持ってくるんだろうと思っていたら、大きなお盆にオムレツの皿、リゾットの入っているらしき鍋と取り皿二つを乗せ、腕はぷるぷる足はふらふらで歩いてくるサクヤの姿に、急いで受け取りに行った。



「ごちそうさまでした」
「キュア!」
「おそまつさまでし、た」

 胸の前で手を合わせる。静かにつぶやくと<当千>が続いて、サクヤまで言ってくれた。
 ほわほわとした雰囲気からサクヤが喜んでいるのが感じられる。

 付け合わせのブロッコリー一つ残さず、リゾットはスープの一滴に至るまで食べつくした。胃に優しいメニューは、文句どころか称賛が出るくらいに美味しかった。
 デザートの紅茶プリンの争奪は激戦で、見かねたサクヤがもう一つ持ってきてくれるまで僕と<当千>のにらみ合いは続いた。
 苦みと渋みがしっかりと効いたそれは、口にいれた瞬間ふんわりとまるで紅茶そのものを含んだかのように芳醇な余韻が素晴らしかった。一口食べたときの衝撃はすさまじく、それゆえに戦いは熾烈を極めたと言ってもいい。

 カウンターまで食器を持っていくとサクヤがあわてて中に入り受け取って、流し台に置いた。それを見届けることで食事の問題は解決したとして、疑問が残る。
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