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2 婚約破棄
しおりを挟むそれはまだお昼過ぎ。
魔塔の仕事が早く終わり。
とても珍しく早く帰って来られた家には、久し振りにエクトル様が訪れていらっしゃった。
だから私は家に着くなり急いで応接室に向かった。
「ただいま帰りました、お父様」
「ああ……帰ったのかブランシェ」
応接室に入ればお父様とエクトル様は難しい顔で、なにかお話をしていた。
「はい、今日はお仕事が早く終わりまして! エクトル様、いらっしゃっていたのですね! それならお知らせ下されば、私もっと早く帰ってきましたのに……」
私はエクトル様に会えた事がとても嬉しくて、直ぐに彼の元へと駆け寄った。
アッシュグレイのふんわりと柔らかそうな髪に、優しげなブラウンの瞳。
私が話し掛ければエクトル様はいつもブラウンの瞳を細めて、優しく微笑んでくれた。
なのに今日はそこに笑顔がなかった。
どうなさったのかと、窺うようにエクトル様のお顔を見上げれば。
「ブランシェ、私と君の婚約は本日を持って破棄された、そして我が男爵家がこの家に借りていた金は本日を持って全額返金する事になった」
「え、エクトル様……? それ、どういう……」
「……だから君とは本日を持って赤の他人だ、もう気安く私の名を呼ばないで貰いたい」
冷たく凍えるような言葉と、冷ややかな視線。
そんな目を貴方に向けられるのは初めてで。
私の足はガクガクと震えた。
「そんな……私、悪いところはすぐ直します! だから婚約破棄なんて、エクセル様……?」
「……醜くボロボロになってしまった君を私はもう愛せない。だからブランシェ、さよならだ」
「あ、嘘……エクトル様どうしてっ! いや……」
そしてエクトル様は、もう私と目をあわせて微笑んでくれる事もなく。
静かに我が家から出て行ってしまいました。
ボロボロの私がダメ……?
私はそんなに醜い……?
日々働き詰めの生活では、自分の事を気遣ってあげている暇なんか全然なくて。
陶器のようだと褒められた肌は荒れてガサガサ、艶々だった黒髪も荒れ放題でボサボサ。
その姿に自分でも鏡を見る度に悲しくなった。
でも、それでも。
好きだと言ってくれた貴方に嫁ぎたくて、それまでの辛抱だと思えばそれも我慢出来たのに。
どうして貴方がそんな事を言うの。
ボロボロになった私はそんなに嫌だった……?
それから毎日泣いて過ごし、魔塔にも行かず家に引きこもって落ち込んでいたら。
「ブランシェ、お前はいつまでそうしているつもりだ? エクトル様にはもう新しい婚約者がいらっしゃる、そしてお二人は来月にはご結婚される予定だ。だからもう忘れなさい」
「エクトル様が……ご結婚……?」
「ああ、そしてお相手は伯爵令嬢だそうだ。お前がいくら望んでも、もうエクトル様とは結婚出来ん」
「そんな……うそ……」
そうお父様に告げられて。
「それとブランシェにも新しく結婚相手を私が見付けてきてやったぞ、喜べ! これでお前は子爵夫人だ! 良かったな!」
「え……」
そしてお父様に釣書を見せられた。
「まあ多少……年は離れているが? まあこのくらいなら問題ないだろう。これで我が商会も立て直せる!」
「っ……これ?」
釣書に書かれていた新しい結婚相手は、お父様とそう年も変わらないようなオジサンだった。
そう、オジサンである。
私は平民でまだ20歳。
相手は貴族だけどオジサンで。
「これでお前も魔塔なんぞで働かなくて済む、やはり女は家に入り子を産むのが仕事だからな」
そして釣書に付いていた手紙には、仕事を辞めて家に入り嫡男を産んで欲しいと書かれていて。
……何かがプツンと切れる音がした。
「この、糞親父……」
「は……?」
グシャグシャと釣書を丸めて。
釣書をお父様の顔面に思いっきり投げ付けて。
「こんな家、出てってやる! 誰がオジサンなんかと結婚するか! こんな糞親絶縁じゃー!」
そしてお父様に絶縁を宣言し、家を出た。
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