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10 思ってたより
しおりを挟む好きな人に『醜い』とか言われて婚約破棄されてしまった絶望で、お仕事を何日も休んでしまっていたら。
魔塔にある私の机の上には、うず高く積まれた書類の山がいくつも出来上がってしまっていた。
婚約破棄されたのも勿論悲しいし辛いが、書類の山を一つ一つ片付けていくのも辛くて苦しい。
正直放り出して逃げ出してしまいたい気持ちにはなりますが、仕事中毒の上司が目を光らせておりますので逃げられません。
それにこの上司には、これから公私ともに大変お世話になる予定ですので。
私は黙々と仕事を片付けていきました。
そして夕方過ぎ。
死に物狂いで終わらせました書類の山を、半分意識を飛ばして眺めていましたら。
「ブランシェ、仕事が終わったならすぐに出かける準備をしなさい。今から私の屋敷で謁見用のドレスを試着してもらう予定だ」
と、業務連絡のようなお誘いを頂きまして。
アレクセイ様の乗り心地の大変よろしい馬車に同乗させて頂きやって参りましたのは、私が今まで見たお屋敷の中で一番豪華なお屋敷でした。
「うわぁ……すごぉ……! なんかよくわかりませんが、とりあえずすごいですよアレクセイ様のお屋敷!」
「語弊力が壊滅的だな君は……」
「いや、だってすごい! うちも昔はそれなりに裕福で、立派なお家に住んでいましたが流石はお貴族様ですね! 贅の極み! でも……アレクセイ様っぽくないような?」
アレクセイ様ならもっとこう実用性重視で、質実剛健的な感じのお屋敷を想像していましたが。
このお屋敷は絢爛豪華を絵に描いたような美しい外観の、私好みなロマンチックなお屋敷で。
「これは私が建てた物ではない、兄に贈られたんだ」
「ほほぅ、これを王様が……! だから贅の極み! 国民の血税が惜し気もなくこれでもかとこのお屋敷には注ぎ込まれているのですね!」
「……ブランシェは王族や貴族に、なにか恨みでも?」
「貴族に恨みならありますね! ついこの間、お貴族様の婚約者に『醜い』とか言われて婚約破棄されたばっかりですしー?」
お貴族様には恨み辛みだらけです!
主に婚約破棄の件で。
あとは後妻とか、継母な件で。
「知っていると思うが私も貴族だからね? 君はそれ、わかって言ってる?」
「あら、不敬で処罰でもなされますか? アレクセイ様、これからはお仕事一人で頑張って下さいませね? ブランシェは影ながら応援しております!」
「……やはり私は教育を間違ったのだろうか?」
「大して教育されてませんよ、私。成人の儀をした会場から誘拐されるように魔塔に連れてこられて、『これを読みなさい』とアレクセイ様に本を与えられた後ちょっと補足事項を説明されただけですし……?」
アレクセイ様に有無を言わさず成人の儀式会場から、魔塔に連れていかれてしまった十五歳の私。
よく泣きませんでした!
とっても偉いですよ!
「それで十分だろう? 君は文字の読み書きが最初から出来たし、渡した本の内容も全部覚えたし」
「いやいや……本の内容をちょっと覚えたからって、実際に出来るとは限りませんよ?」
「でも実際に君は出来ているだろう?」
そうおっしゃったアレクセイ様は微笑まれ。
そして微笑まれたアレクセイ様のお顔は、目映いほどに美しく、それは人外のようで。
ゾワリとした悪寒が私の背中を撫でました。
『仕事が忙しいから愛するつもりはない』と言うような愛の枯れた冷たい男性と結婚するなんて、やはり私は判断を間違えてしまったのかもしれません。
ですが婚約の書類にサインをしてしまいましたから、今さら止める事なんて出来ません。
なのでもう私に逃げ道はありません。
「そりゃ……一応出来ていますけど、それで教育間違ったとか言われても私は困るわけでして……」
そして先に馬車を降りてアレクセイ様は、私に手を差しのべられました。
「さあお手をどうぞ、レディ?」
「あ、はい……」
でも触れたアレクセイ様の大きな手は、私が思っていたものよりとても温かくて。
何故か安心できるものでした。
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