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39 耳障りのいい言葉
しおりを挟む「へ、陛下!?」
「オクレール伯、そう心配せずとも大丈夫だ。そなたの領地だった地域は、ブランシェ・バルテ侯爵と余の弟が向かってくれる。だからスタンピートも直ぐに鎮圧してくれるだろう」
「私の領地……だった?」
「だからオクレール伯は、無償で領地をブランシェ・バルテに譲り渡すとこの誓約書に書くんだ」
「っ無償って!? そんなこと私は一言も……!」
「……もし異を唱えるならば、オクレール伯そなたを余は罪に問わねばならん。その場合この王都を危険に曝し、国から貸し与えられた領地を管理出来なかった責でそなたは処刑、そして親族も連座になることだろう」
と、国王は先程までのにこやかな笑顔を消し去り淡々とオクレール伯爵に告げた。
「しょ、処刑に連座……? そんな」
国王の言葉に、オクレール伯爵は信じられないというように頭を抱え苦悶の声をあげる。
そんなオクレール伯爵に。
「お父様!? 連座なんて、処刑なんて……絶対に嫌よ! 私を巻き込まないでよね!」
そうダフネは激しく詰め寄り、『連座』は嫌だと周りの目を気にも止めず叫んだ。
「だ、ダフネ……」
「伯爵……私もダフネと同じ意見です。大人しくサインしてしまいましょう?」
「だが、しかし……」
と、伯爵にサインを迫る娘婿であるエクトル。
エクトルとしてはオクレール伯爵が領地を失った所で痛くも痒くもなし、この男はダフネと離婚してブランシェと復縁して自分が侯爵になるという妄想中。
それに加えてエクトルの男爵領は伯爵領と隣接しているので、自分の領地にも被害が出る前に早くスタンピートを鎮圧して欲しいのだ。
だからここで連座になど絶対になりたくない。
なのでエクトルはオクレール伯爵に。
「大丈夫ですよ伯爵。領地などなくてもこれまでのように商売で稼げばいいんです。それにスタンピートが起きた領地なんて元に戻すのにどれだけの金と時間がかかるか、わかったものではありませんよ?」
などと甘言を言って、早く国王が用意した誓約書にサインするようにオクレール伯爵を説得し誘導した。
「そ、そうだろうか……?」
そしてオクレール伯爵は、娘婿エクトルの耳障りの良い言葉によって。
誓約書に渋々ながらサインしたのだった。
だがこの書類にサインした事によって。
オクレール伯爵はこの後数ヶ月も経たず、財産の全てを失う事になる。
まあそれもそのはずで。
伯爵が経営する商会で取り扱う品の殆どは伯爵領で生産されていたもので、正当な対価も払わず領民達から仕入れていた。
だからブランシェに領地の権利が全て移った事により、今までのような暴利な仕入れが出来なくなったのである。
そして。
オクレール伯爵にサインするよう説得していたエクトル自身も、この後財政難に陥る事になる。
理由は簡単。
伯爵家からの資金援助が断たれてしまった為だ。
そして男爵家は財政難。
しかも以前とは違って、金遣いの荒い妻ダフネが財政難に拍車をかけた。
その為エクトルは最終的に男爵位を売り渡し、見下していた平民にダフネ共々なってしまい。
貴族になったブランシェに、近付く事さえ出来なくなったのだった。
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