【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅

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31 淑女



「そこを早く退きなさい! たかが近衛騎士風情がこのレオノーレの道を塞ぐなんて不敬ですわ……!」 

 王の私室がある王城で、キレ散らかすレオノーレ王女に近衛騎士達は顔を見合わせる。

 輿入れしてきたからといって、まだ成婚前。

 他国の王族を何の許可もなく王の私室に通す事は出来ない、しかしながら王女をこのままにするいうわけにもいかなくて。

 困り果てた近衛騎士達は、新しく就任した宰相を夜会の会場にまで呼びに行くかと王女に隠れて相談していると。

「あら……どうされましたの?」

 ふわりとドレスの裾を優雅に揺らしマナーに厳しい貴婦人達をも全てが美しいと感嘆させるユーフェミアが、前宰相アレクサンドにエスコートされて現れて。

 近衛騎士達は歓喜した。

「ユーフェミア様! その……ナサリアのレオノーレ王女殿下が陛下のお部屋に行くと申されまして……」

 その騎士達の言葉にユーフェミアが、いまだ通せんぼされているレオノーレ王女に視線を向けると。
 
「っ……廃妃! 貴女……私の陛下とお部屋で何をしていたの! まさか厭らしい事を……この阿婆擦れが!」

 レオノーレ王女はユーフェミアと目があった途端、鬼のような形相になって。

 嫋やかな淑女を体現していると言っても何ら過言ではないユーフェミアに対して、そんな侮辱するような言葉を浴びせかけた。

 瞬間、場の空気が凍る。

 それはユーフェミアをエスコートしていたアレクサンドが王女を冷たく睨み付けたということも勿論あるが、そこにいた近衛騎士達が腰に携えた剣に手をかけたから。

 国民皆が知っているのだ。

 ユーフェミアの境遇を。

 そして国民に愛される善き王妃であったユーフェミアに対し、その言葉はあまりにも許しがたい。

「……ワタクシは、陛下と少しお話をしていただけですよ、レオノーレ王女殿下?」

「夜会を抜け出し、陛下の……男性のお部屋で?」

「ええ、陛下に呼ばれましたので。 ……色々と積もる話しもありまして楽しくお話させて頂きました」

「そんなの嘘! きっと厭らしい事をしていたんだわ! 私の陛下に未練があるからって……!」

「どんな想像をレオノーレ王女殿下がされているのかワタクシには図りかねますが、こんな所で貴婦人を大声で侮辱されるのは……如何なものかと思います」

「なんですって! 貴女私に口答えすると言うの!? 私はこの国の王妃になるのというのに……たかが廃妃の分際で……!」

「……何を言ってもわかって頂けないようなので、ワタクシはこれで失礼致しますレオノーレ王女殿下?」

「貴女、逃げるつもり!?」

 まだ元気に一人騒ぎ立てるレオノーレ王女の相手をするのがもう疲れたのかユーフェミアは、王女から視線を外して。

「あ、それと近衛騎士の方は陛下のお部屋に我が父シュバリエがいますので、父を呼んで王女殿下の対応をさせて下さい……よろしくお願いいたしますね?」

「はい、ユーフェミア様!」

 にっこりとユーフェミアは嫋やかに微笑む。

 たとえ何があったとしても。

 貴婦人や令嬢が人前で激昂したり騒いだりするのは、このガーディンでは恥ずべき行為。

 その場では笑顔で。

 後から何倍にも増して報復するというのがこの大国ガーディンの貴婦人達のやり方で、その場で争うよりも明らかに厄介。

 まあ先程シュバリエ公爵に対してユーフェミアは『狸親父』など色々と言っていたが、その口調は淡々としていて今と変わらぬ笑顔を浮かべていたので。

 ……たぶん、大丈夫だろう。
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