【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅

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32 足枷



 黄金に輝くシュワっと弾ける泡。

 それは喉を潤し、疲れを消し去ってくれる。

「んふー! 美味しい……! 最高っ!」

「ユーフェミアがそんなにお酒が好きだったとは、全く知りませんでした」

「お酒だけが私の癒し! 毎日毎日嫌味ったらしい事を言いに来る宰相性悪に無視を決め込んでくるあんぽんたん、それに上っ面だけの会話しかしてこないお父様狸親父への精神的疲労をお酒は一時でも忘れさせてくれる恋人のような存在!」

「……ごめんなさい」

「ふふっ……もう謝らなくていいのですよ? 少し貴方にしたかっただけですから」

 王宮のテラスで月明かりの元、優雅にグラスを傾けてユーフェミアはシャンパンを一気に飲み干す。

「ですが……」

「でしたら、本当に明日飲みに付き合って下さいませ? それで今までの事は許します!」

「……よろこんで」



 
 まだお昼前だというのに、慌ただしく侍女達が私のお出掛けの用意を始める。
 
 アレクサンドと街に出掛けると侍女達に話したら、最初驚いた顔をしていたが、いったい何を勘違いしたのか私の身体を艶やかに磨き始めた。

「ニーナ? 少しアレクサンドとお食事に行くだけよ、そんな可愛らしい下着なんて……必要なくてよ?」

「何を仰いますか、ユーフェミア様! ナニかあったらその時に適当な下着なんて……!」

「いや、ナニもないって……何の心配してるの」

 好きだと、求婚したいと言われた。

 だけどあのアレクサンド性悪が私と男女の仲になるだなんて想像出来ない。

 そりゃもう嫁入り前とかじゃないし?

 清らかな身体だけど。

 いい年20歳した大人だし?

 恋愛経験ないけど。

 そういう事があっても、何らおかしくはないが。

 現実味が無さすぎるのだ、だって相手はずっと私に嫌味ったらしい事ばかりネチネチ言ってきた性悪で。

「はい、出来ました! ユーフェミア様は街娘の装いをされても美しさと気品が隠しきれません!」

「ふふ、ありがとうニーナ。でもまだお昼すぎね……? アレクサンドは夜に迎えに来られると思うから……だいぶ早いわね……どうしましょう」

「いえユーフェミア様、侯爵様はもう応接室でお待ちになっていらっしゃいますよ?」

「……へ?」

 
 応接室の扉を開ければそこには。

 いつもの格式ばった堅っ苦しい装いではなく、気取らない楽な服装に身を包んだアレクサンドがお茶を優雅に楽しんでいた。

「あれ……夜のはず……?」

「ユーフェミアに会えるのが楽しみで、少し早く来てしまいました……ご迷惑だったでしょうか?」

「いえ、とても早く出掛ける用意が出来ましたので……迷惑ではないですけど」

「それはよかった。少しだけ早いですが、もう出掛けましょうか? ……ユーフェミアはそういった装いも良くお似合いで美しいですね」

「っえ……あ、はい? ありがとうございます」

 嫌味を浴びせられるわけじゃなく。

 服装をアレクサンドに褒められるのは、なんだかむず痒くて落ち着かない。

 馬車に乗って街に行く。

 まだお目当ての酒場は開いていない時間なので、とりあえずカフェに行くらしい。

 美味しいケーキにお茶、目の前にはアレクサンド性悪がいてなんだか不思議な気分になる。

「ここのケーキとても美味しいんですよ、よく一人で食べに来るんです」

「え……アレクサンドが一人で!?」

「はい、仕事で疲れた頭には甘いものを頂くのが一番良くて。たまに城を抜け出して……こっそりとね?」

「うわ、ずるい! 一人で楽しんでないで、私も誘ってくださればよかったのに」

「あはは、そうですね? 私もそれが出来たら、どんなに良かったのか……」

 王妃が王宮から出るなんて公務か里帰りくらいじゃないと、許されない。

 ……托卵されても困るから。

 後ろ楯としての価値しか私にはなかったけど、王妃という立場が足枷になって自由などなかった。

 今、考えれば。

 毎日王宮に会いにくるアレクサンドが私に好意をもって優しく接していたら。

 ……問題が起きていただろう。

 犬猿の仲とまで社交界で噂されていたから、毎日毎日私の所にやってきても何も怪しまれなかった。

 だから毎日私に会いに来れた。

 だからあの嫌味ったらしい言葉はたぶん。

 ひとりぼっちの私に会いに来る為だったのだろう。
 
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