32 / 35
32 足枷
黄金に輝くシュワっと弾ける泡。
それは喉を潤し、疲れを消し去ってくれる。
「んふー! 美味しい……! 最高っ!」
「ユーフェミアがそんなにお酒が好きだったとは、全く知りませんでした」
「お酒だけが私の癒し! 毎日毎日嫌味ったらしい事を言いに来る宰相に無視を決め込んでくる夫、それに上っ面だけの会話しかしてこないお父様への精神的疲労をお酒は一時でも忘れさせてくれる恋人のような存在!」
「……ごめんなさい」
「ふふっ……もう謝らなくていいのですよ? 少し貴方にいけずしたかっただけですから」
王宮のテラスで月明かりの元、優雅にグラスを傾けてユーフェミアはシャンパンを一気に飲み干す。
「ですが……」
「でしたら、本当に明日飲みに付き合って下さいませ? それで今までの事は許します!」
「……よろこんで」
まだお昼前だというのに、慌ただしく侍女達が私のお出掛けの用意を始める。
アレクサンドと街に出掛けると侍女達に話したら、最初驚いた顔をしていたが、いったい何を勘違いしたのか私の身体を艶やかに磨き始めた。
「ニーナ? 少しアレクサンドとお食事に行くだけよ、そんな可愛らしい下着なんて……必要なくてよ?」
「何を仰いますか、ユーフェミア様! ナニかあったらその時に適当な下着なんて……!」
「いや、ナニもないって……何の心配してるの」
好きだと、求婚したいと言われた。
だけどあのアレクサンドが私と男女の仲になるだなんて想像出来ない。
そりゃもう嫁入り前とかじゃないし?
清らかな身体だけど。
いい年した大人だし?
恋愛経験ないけど。
そういう事があっても、何らおかしくはないが。
現実味が無さすぎるのだ、だって相手はずっと私に嫌味ったらしい事ばかりネチネチ言ってきた性悪で。
「はい、出来ました! ユーフェミア様は街娘の装いをされても美しさと気品が隠しきれません!」
「ふふ、ありがとうニーナ。でもまだお昼すぎね……? アレクサンドは夜に迎えに来られると思うから……だいぶ早いわね……どうしましょう」
「いえユーフェミア様、侯爵様はもう応接室でお待ちになっていらっしゃいますよ?」
「……へ?」
応接室の扉を開ければそこには。
いつもの格式ばった堅っ苦しい装いではなく、気取らない楽な服装に身を包んだアレクサンドがお茶を優雅に楽しんでいた。
「あれ……夜のはず……?」
「ユーフェミアに会えるのが楽しみで、少し早く来てしまいました……ご迷惑だったでしょうか?」
「いえ、とても早く出掛ける用意が出来ましたので……迷惑ではないですけど」
「それはよかった。少しだけ早いですが、もう出掛けましょうか? ……ユーフェミアはそういった装いも良くお似合いで美しいですね」
「っえ……あ、はい? ありがとうございます」
嫌味を浴びせられるわけじゃなく。
服装をアレクサンドに褒められるのは、なんだかむず痒くて落ち着かない。
馬車に乗って街に行く。
まだお目当ての酒場は開いていない時間なので、とりあえずカフェに行くらしい。
美味しいケーキにお茶、目の前にはアレクサンドがいてなんだか不思議な気分になる。
「ここのケーキとても美味しいんですよ、よく一人で食べに来るんです」
「え……アレクサンドが一人で!?」
「はい、仕事で疲れた頭には甘いものを頂くのが一番良くて。たまに城を抜け出して……こっそりとね?」
「うわ、ずるい! 一人で楽しんでないで、私も誘ってくださればよかったのに」
「あはは、そうですね? 私もそれが出来たら、どんなに良かったのか……」
王妃が王宮から出るなんて公務か里帰りくらいじゃないと、許されない。
……托卵されても困るから。
後ろ楯としての価値しか私にはなかったけど、王妃という立場が足枷になって自由などなかった。
今、考えれば。
毎日王宮に会いにくるアレクサンドが私に好意をもって優しく接していたら。
……問題が起きていただろう。
犬猿の仲とまで社交界で噂されていたから、毎日毎日私の所にやってきても何も怪しまれなかった。
だから毎日私に会いに来れた。
だからあの嫌味ったらしい言葉はたぶん。
ひとりぼっちの私に会いに来る為だったのだろう。
あなたにおすすめの小説
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。