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45 理想の上司

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 体調が回復したと言ってもまだ万全ではないということで、当分の間のスカーレットの勤務先は、神殿長室にて、神殿長のお手伝いになった。

 上司の元で常に上司からの監視付きで上司の仕事のお手伝いなんて、社畜時代ならば、会社員時代ならば確実にストレスで胃に穴が開きそうな環境だが…

 この上司、神殿長はなんというか…田舎のおばあちゃんの様に朗らかで、穏やかな空気を纏い、暇さえあればスカーレットにお茶やお菓子を食べさせて、にこにこしているのだ。

 それに、とても話しやすく聞いたらなんでも嫌な顔一つせずに丁寧に教えてくれて。

「ああ、そうだ、私だけが君の名前で呼ぶのもなにか違和感があるからね、私の事も名前で、アシェルと、呼んで欲しいな?」

 と、とても親しみやすく、フレンドリーで。

 理想の上司だった。
 
 社畜は、糞上司とか昔は思っててすまんな、と心のなかで謝罪する。

 それに神殿長の仕事の手伝いは、簡単過ぎず難しすぎない、貴族としての教育が活かせるような、御礼状書きだったり、お布施の管理や、神殿の運営に関わる資料作成など色々と多岐に渡りやりがいがあった。

 そう社畜は、転生し悪役令嬢となって、始めてこんなに有意義で充実し、理想的な環境で己のスキルを活かせる理想の上司のいる職場に配属されたのだった。

 それは、社畜の承認欲求を見たしたし、礼拝堂で行われる礼拝での聖書朗読はみんなに注目されて自己顕示欲や達成感まで満たせた。

 それに、神殿長の、アシェルの独特のほんわかした雰囲気や、スカーレットを心から心配し、世話をやいてくれたり、叱ってくれるその行動が、スカーレットを少しずつ癒していく。

 だから、スカーレットはアシェルといることに、喜びを安らぎを次第に感じて恋心を芽生え…そうになる度に…社畜がそれを邪魔するのだ。 
 
 この社畜は恋愛経験なんてないから神殿長のアシェルのその気持ちを、全く理解せず。
 
 でもそれなんか近くない?セクハラかな?

 とか……横やりを入れる。

 
 それに……神殿長も、アシェル自身も、スカーレットに対して、遠慮がありすぎるのだ。

 正直もっとぐいぐいそこはアピールして、落とせ!という場面でも、アシェルは…押しきれない。

 それは、神殿長のアシェル自身の事情と、スカーレットが出家して恋をした所で結ばれる事はないと、わかっているからだった。

 神殿長はアシェルは
 ……現国王陛下の婚外子だった。
 王太子サミュエルの腹違いの兄にあたる。
 
 だから、王妃を恐れて産まれてすぐに神殿に隠された。
 決して王妃に見つかってはいけない。

 だから、麗しいその容姿すら目立って邪魔なだけだと、隠れて過ごす。

 幸いな事に王妃は全く信心深くなく神殿になど絶対に来ない。

 それにアシェルはあまり国王に似ていなかった。

 だから…
 もしスカーレットが神殿から出られても
 アシェルは、神殿から出られない。

 それがあるからか、アシェルはスカーレットに想いを伝えることが出来ないでいたのだった。
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