【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅

文字の大きさ
12 / 52

12 嬉しくないし

しおりを挟む


 チョコレート色の瞳を丸く大きく開いてアイリスは、ラファエル公爵の事をじっと穴が空くほど見つめた。

 だって高位貴族であるラファエル公爵が、いくら手続き上の妻とはいえ下位貴族の元男爵令嬢に謝るなんてアイリスは思ってもみなかった。

 それに謝った内容はとても些細な事で、ラファエル公爵が謝るようなことでは無い。

 それに自分の事をこの男が気に掛けていたなんて、アイリスは知らなかったから。

 ただアイリスは言えないけど言いたい。

 『そんな些細な事を謝る前に、ラファエル公爵貴方は私になんか言うことがあるんじゃないの?』
 ……と。

 食事の好みなんてつまらない事を謝るくらいならば、三年間放ったらかしにしたことを謝って欲しい。

 そうしたら心の底でくすぶり続けているこの想いが、わだかまりが解けて消えてくれるのに。
 ……と、珍しくアイリスは感傷に浸る。


 だが今さら謝られた所で大して嬉しくないし、その程度の謝罪なんかで絆されてなんてやらん。
 ついでに絶対にラファエル公爵なんて好きにならないし、愛してなんてやらないんだからね!

 と、公爵の言葉にアイリスは心の中で反論する。

 それに謝罪する気持ちがあるなら、私を領地に帰してくれ、私は屋敷に引きこもって悠々自適に遊んでいたいのだ。

 そもそも私は公爵夫人として働きたくない、社交活動などしたくないのだ。

 だって。
 元男爵令嬢の公爵夫人なんてそれ、社交界で除け者ならまだ全然マシで。
 ほぼ確実に私は腫れ物扱いだぞ? 

 あと私、貴族の友達がほぼいない……!

 だって領地にずっと引きこもってたし?

 公爵夫人というやんごとなき立場の人間が夜会やお茶会でボッチで壁の花するとか、それ絶対に目立つし周囲が気を遣う。

 それに引きこもりに社交活動が出来ると本気で思ってんのだろうか、この公爵様は。

 社交活動なんてデビュタントしか経験がなく。
 淑女教育も、ラファエル公爵と結婚が決まってから付け焼き刃で少しやったくらいで教養もほとんどない。

 ダンスも踊れないし、覚えたマナーも今やあやふや。

 今生の親である男爵夫妻は私に全く興味を持たず、淑女教育どころか最低限の貴族教育すら金の無駄だとして行わなかった事を、私は知っている。

 だが結婚する時に。

 『可哀想な事をしてしまう私達を許してくれ』

 とか?

 『これは契約結婚であって彼とはまともな夫婦にはなれないけれど、アイリスは幸せになってね』

 とか言ってたけど。

 あれは絶対に良い親感を出したいとか、あとで私に金の無心をするつもりだと思う。

 だがまあ貴族令嬢の婚姻なんて家の利益の為になされるもので、そんなもんである。

 それに私自身にとっても、この結婚は契約結婚。
 ラファエル公爵はお飾りの夫だから、あの男となんて私は愛し合う夫婦になるつもりは無いのだ。



 ……だけど。

「過分のお気遣いありがとうございます、公爵様」

 アイリスはニッコリと可愛らしく微笑んだ。

 そしてラファエル公爵とのなんだかんだ和やかな晩餐も終わり公爵夫人の部屋に戻ってきたアイリスは専属メイドジェシカに話しかける。

「ただいまジェシカ!」

 公爵夫人の部屋にある浴室で、アイリスの入浴準備をしていた専属メイドであるジェシカはどこか楽しそうな雰囲気のアイリスに。

「おかえりなさいませアイリス様、直ぐにお風呂になさいますか? ……アイリス様なにか良いことでもございましたか?」

「んー……ちょっとだけ、面白いことがあったよ? ……あのラファエル公爵がね私にすごいつまらない事で『すまない』って謝ってきたんだよ? すごく笑えるでしょ? あの仏頂面がさ? 申し訳なさそうな顔したの!」  

「ふふふっ……! それはようございましたね、アイリス様、私も少し見たかったです!」

「うんうん、見物だったよ? 公爵ってね人に謝ること出来るみたい! 私初めて知った!」

 アイリスの数少ない素の表情を知る専属メイドジェシカは、楽しそうな女主人の話を聞く。

 普段自分からラファエル公爵についての話なんて一切しないアイリスが、とても楽しそうに公爵の事を話すから微笑ましくその姿が映る。

 結婚当初、領地に行って直ぐからジェシカがメイドとして仕えているアイリスはいつも一人ぼっちで部屋で静かに過ごしている。

 あまり人と関わる事が得意ではないアイリスは、使用人達とも一定の距離を保ち、いつも一人ぼっち。

 だからアイリスは手がかからないが、普通の令嬢達と違い打ち解けるのにとても時間がかかった。

 だからか、仕えるべき相手ではあったが少し年下のアイリスがジェシカは可愛くて可愛くて仕方がない。

 例えるなら懐かない野良猫を手懐けた気分である。
 
 そんなアイリスが一応夫であるラファエル公爵の事について話すのをとても嫌がるから執事リカルドに頼まれても二人の話には一度も出たことはなかった。

 だが今日はとても珍しくラファエル公爵について自分から話すアイリスは、子猫のように尻尾をピーンと立ち上げて振るわせ喜んでいるように見えて。

 とても楽しそうでジェシカまでつい嬉しくなった。
 
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。 そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。 ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。 そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……? ※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

処理中です...