死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

文字の大きさ
2 / 68

2 裏切り

しおりを挟む
2

 

 
「来週にはシュヴァルツヴァルトから迎えがやって来る予定だ。だからそれまでに輿入れの準備を整えておくように」

「来週、ですか?」

 嫁入りの準備期間がたったそれだけ……?
 それ、いくらなんでも早すぎるでしょうが!?
 
「なぁに、心配することはない。ドレスや装飾品はもうこちらでひと通り揃えてある。フランツェスカ、お前は身の回りの整理をするだけでいい」

 ドレスや装飾品の用意があったとしても、そんな短い期間で他国への嫁入り準備が出来るわけがありません。

 いくら耄碌していたとしても、それがわからないはずがありません。
 ……思惑が透けて見えてきます。

 王位継承者に護衛も付けず戦いの最前線へ送り込み。
 成人の儀を待たずして、他国への輿入れ。
 
 これはつまり、そういうこと。

「……かしこまりました」


***

 
「フランツェスカ」

「っ……レナード!?」

 重い足取りで謁見の間から出ると、レナードが私を待ち受けていた。
 
 その顔を見た瞬間。
 胸倉を掴んで『どの面下げて私の前に出てきた?』と、問い詰めたくなりました。
 
 けれど、次期女王としてこれまで育ってきたせいか……私の理性がその衝動を勝手に抑え込んだ。

「また君に会えるなんて、思っていなかった」

「どういうことか、説明してもらえるかしら? 貴方が私の代わりに王になるとは……どういうことか。それにアリーシアを王妃にって……」
 
「そのままの意味だよ、フランツェスカ。僕がこの国の……モルゲンロートの王になる」

「どう、して……」

 怒りで声が震える。
 今すぐそのすかした顔をぶん殴ってやりたい。
 どの口がそれを言うのでしょうか。

「君が北の前線に行った後、国王陛下が僕に『王配ではなく、王となって国を治めてみるつもりはないか』と提案してくれたんだ。自分が王になるなんて考えた事もなかったから最初は驚いた。でもすごい機会に恵まれたと思った。それに、僕は……」

「……それに、なにかしら?」

「いつも完璧で一人で生きていける強い君よりも、僕がそばに居て守ってあげなくちゃいけないアリーシアの方が本当は……好きだったんだ」

 私との婚約破棄をレナードが受け入れたと聞かされても、心のどこかでこれはなにかの間違いだと期待していた自分がいました。
 
 だけど今この瞬間全て理解しました、私はこの男に裏切られたのだと。
 
 激しい怒りが自分の中で沸き上がるのを感じる。
 このまま感情に任せて怒りをぶつけてしまえれば、どんなに楽なことでしょう。
 けれどまだ、私の中に王族としての理性はかろうじて残っていて。

「……そう。じゃあ貴方は私を、裏切った……のね?」

「君にそう言われても、仕方ないことをしたと思っているよ。でも……」

 なにが『仕方ない』ですか。
 自分の欲を叶える為だけに私を裏切ったくせに。

「私が女王になったら王配として隣で支えてくれると……婚約式の日に約束じゃない! なのにどうして、レナード……!」

「フランツェスカ、君ならいつかわかってくれると信じてる。君はとても強い人だから、シュヴァルツヴァルトでもきっとうまくやって……」

「ふざけないで!」

 ――パンッ!
 鈍い音が響く。
 
 気が付いた時にはすでに、私はレナードの頬を打っていた。

「え……?」
 
 そんな自分に少し驚く、けれど。
 
「あ……すっきり……」

 そして私に頬を打たれたレナードは驚いたように、目を大きく見開く。

「フランツェ、スカ……?」

「勝手に私を決めつけないで、私はどこも強くなんてない。戦場でもずっと、ずっと……次は自分が死ぬんじゃないかって怖くて震えてた。でも私は王女だから、弱音なんて吐けなくて……! 一人で歯を食いしばって……泣きそうになるのを必死に耐えて……」

 思いがあふれ出して、止まらない。
 戦場でも必死に耐えてきた、女王になる為には必要な事なのだと自分に言い聞かせて。

 ……でもそれも全部、無駄でしかなった。

「ごめん……でも、君は……アリーシアと違って僕がいなくても……」

「……もうなにも、聞きたくありません」

「フランツェスカ……?」

「さよなら、レナード」

 これ以上、つまらない言い訳は聞きたくありません。
 それにレナードがなにを言ったところで、私を裏切ったことにかわりはない。
 
 そしてこの日。
 私は全て失ってしまったのです。

 王位も、婚約者も。
 これまでの努力も全部。
しおりを挟む
感想 348

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

処理中です...