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32 お茶会
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お茶会。
それはつまり貴婦人達の社交場という名の戦場。
そんな戦場に敵国の王女である私がいけば、どうなるのか想像するまでもありません。
覚悟はもうすでにできている。
だからなにを言われても、たぶん大丈夫。
……うん、怖くない!
そう自分に言い聞かせながら。
本日のお茶会の会場、王宮の中庭へと私は足を踏み入れた。
……の、ですけれど?
「まあっ王太子妃殿下! 噂でお聞きした通り、お美しいですわね!」
「誓いのキス、とっても素敵でした! まるで絵画のようでしたわ!」
「フリード王太子殿下のあの表情! あれは心から王太子妃殿下を愛していなければできませんわ!」
刺すような冷たい視線や他愛ない会話の裏に巧妙に忍ばせた嫌味を覚悟していたのに、耳に届くのは称賛と憧れの声ばかり。
そこには私が予想していた敵意がどこにもありませんでした。
いやむしろ貴婦人たちは頬を紅潮させ、恋に恋する乙女のような顔で私を囲んでいました。
「まさか、あんなにも情熱的な誓いのキスを見られるなんて。私、式に列席させていただけて本当によかったですわ! お友達に自慢いたしましたのよ!」
「国王陛下も大層お喜びだったとか。そうですわよね、フリード王太子殿下はこれまで一度も浮いたお話がなく、婚約者探しもなさっておられませんでしたし……ほら、男色疑惑もございましたでしょう?」
「あれはほら、戦地で助けてくれた少年を探して……とかじゃございませんでした?」
そして貴婦人達の話は別方向に進んでいき。
私はただそこで、にこにこと微笑んでいるだけでよくなった。
……どうやら、あの誓いのキスが国中で評判になっているらしい。
貴婦人達の話によれば、吟遊詩人が国中で私達の恋物語を歌い広げ。
終いには恋愛小説まで出回り始めているとかなんとか。
そして今度舞台になるらしい。
あれは政治的な演出に過ぎなかった。
なのにこの国の貴族はあのキスを「国境を越えた愛」「和平の象徴」として色々な場所で語り継いでいるらしい。
なんというか、拍子抜けしてしまいました。
四方から罵詈雑言が飛んでくるものとばかり思っておりましたから。
「王太子妃殿下、こちらをどうぞ。薔薇の砂糖漬けを浮かべたローズティーでございます」
「ええ、ありがとう。いただくわ」
侍女に差し出されたティーカップを受け取り、香りを確かめる。
甘く上品な薔薇の香気。
――けれど。
少し口に含んで、気づかれないようにそっとハンカチに出した。
あの時と同じ渋みと苦み。しかも今回は少々量が多い。
すぐに吐き出したので大事には至らないでしょう、ですが油断しました。
私に茶を渡した侍女と、ふと目が合う。
こちらの様子を窺っていたみたいです。
けれど、なんともない私を確認した途端、慌てたように視線を逸らし、奥へと消えていく。
追いかけたい気持ちもありますが、立場上それはできません。
まぁ顔は覚えましたので、後でどうにかするとしましょう。
もう流石に黙っていることはできません。
――そんな時、でした。
「フランツェスカ殿下、お久しゅうございます」
その声に振り向くと。
どこか見覚えのあるご令嬢が立っていました。
この方は六十五点さん……じゃなくて。
えっと、たしか。
「クラウディーヌ公爵令嬢、でしたかしら?」
「まぁ……覚えていてくださったのですか? 嬉しいですわ」
「あの時はご挨拶に来てくださったのに、お返事できず失礼しました。気になっていたのです」
「ご挨拶だなんてそんな……! 私、あの時本当はご挨拶に伺ったのではなくて……敵国の王女が王宮にいると聞いて見に行っただけなんですのよ?」
まるで喧嘩でも売るようなその言葉に、近くにいた貴婦人達が息を呑んだ。
そしてさっきまで華やいでいた楽し気な空気が、少しずつ冷えていったのです。
ああ、やっぱり。
お茶会ってこういう所ですわよね。
お茶会。
それはつまり貴婦人達の社交場という名の戦場。
そんな戦場に敵国の王女である私がいけば、どうなるのか想像するまでもありません。
覚悟はもうすでにできている。
だからなにを言われても、たぶん大丈夫。
……うん、怖くない!
そう自分に言い聞かせながら。
本日のお茶会の会場、王宮の中庭へと私は足を踏み入れた。
……の、ですけれど?
「まあっ王太子妃殿下! 噂でお聞きした通り、お美しいですわね!」
「誓いのキス、とっても素敵でした! まるで絵画のようでしたわ!」
「フリード王太子殿下のあの表情! あれは心から王太子妃殿下を愛していなければできませんわ!」
刺すような冷たい視線や他愛ない会話の裏に巧妙に忍ばせた嫌味を覚悟していたのに、耳に届くのは称賛と憧れの声ばかり。
そこには私が予想していた敵意がどこにもありませんでした。
いやむしろ貴婦人たちは頬を紅潮させ、恋に恋する乙女のような顔で私を囲んでいました。
「まさか、あんなにも情熱的な誓いのキスを見られるなんて。私、式に列席させていただけて本当によかったですわ! お友達に自慢いたしましたのよ!」
「国王陛下も大層お喜びだったとか。そうですわよね、フリード王太子殿下はこれまで一度も浮いたお話がなく、婚約者探しもなさっておられませんでしたし……ほら、男色疑惑もございましたでしょう?」
「あれはほら、戦地で助けてくれた少年を探して……とかじゃございませんでした?」
そして貴婦人達の話は別方向に進んでいき。
私はただそこで、にこにこと微笑んでいるだけでよくなった。
……どうやら、あの誓いのキスが国中で評判になっているらしい。
貴婦人達の話によれば、吟遊詩人が国中で私達の恋物語を歌い広げ。
終いには恋愛小説まで出回り始めているとかなんとか。
そして今度舞台になるらしい。
あれは政治的な演出に過ぎなかった。
なのにこの国の貴族はあのキスを「国境を越えた愛」「和平の象徴」として色々な場所で語り継いでいるらしい。
なんというか、拍子抜けしてしまいました。
四方から罵詈雑言が飛んでくるものとばかり思っておりましたから。
「王太子妃殿下、こちらをどうぞ。薔薇の砂糖漬けを浮かべたローズティーでございます」
「ええ、ありがとう。いただくわ」
侍女に差し出されたティーカップを受け取り、香りを確かめる。
甘く上品な薔薇の香気。
――けれど。
少し口に含んで、気づかれないようにそっとハンカチに出した。
あの時と同じ渋みと苦み。しかも今回は少々量が多い。
すぐに吐き出したので大事には至らないでしょう、ですが油断しました。
私に茶を渡した侍女と、ふと目が合う。
こちらの様子を窺っていたみたいです。
けれど、なんともない私を確認した途端、慌てたように視線を逸らし、奥へと消えていく。
追いかけたい気持ちもありますが、立場上それはできません。
まぁ顔は覚えましたので、後でどうにかするとしましょう。
もう流石に黙っていることはできません。
――そんな時、でした。
「フランツェスカ殿下、お久しゅうございます」
その声に振り向くと。
どこか見覚えのあるご令嬢が立っていました。
この方は六十五点さん……じゃなくて。
えっと、たしか。
「クラウディーヌ公爵令嬢、でしたかしら?」
「まぁ……覚えていてくださったのですか? 嬉しいですわ」
「あの時はご挨拶に来てくださったのに、お返事できず失礼しました。気になっていたのです」
「ご挨拶だなんてそんな……! 私、あの時本当はご挨拶に伺ったのではなくて……敵国の王女が王宮にいると聞いて見に行っただけなんですのよ?」
まるで喧嘩でも売るようなその言葉に、近くにいた貴婦人達が息を呑んだ。
そしてさっきまで華やいでいた楽し気な空気が、少しずつ冷えていったのです。
ああ、やっぱり。
お茶会ってこういう所ですわよね。
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