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8 婚約破棄の慰謝料とバカンス
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「いち、じゅう、ひゃく? えーと……あれ、んんん!? き、金貨五百枚?」
数え間違いかなと、何度数え直してみても渡された小切手には金貨五百枚と記載されておりまして。
これは私のお給金約十年分に相当するような大変大きな金額で、決して少ない金額ではございません。
それに私は第一王子殿下の元でかれこれ五年ほど働かせて頂いている、侍女でございます。
なので自分で言うのもアレなのですが、それなりに高給取り。
なのにそのお給金十年分の慰謝料とは、なんともまあ気前のいい事。
……金貨五百枚。
この金額には、それだけ私に悪い事をしてしまったという罪の自覚があるのか。
それとも金銭感覚が狂ってしまっているかの、どちらか一方なわけで。
まあ罪の自覚がオズワルド様の中に有っても無くても、その結果は変わりません。
それにオズワルド様のあの酷い口ぶりから察しますと、ほぼ確実に後者なのでしょう。
これだけの大金があれば、当分は働かないで遊んで暮らせますでしょう。
それにドレスだって沢山買えますでしょうし、小さな家くらいならこの王都でも買えてしまいます。
ですが、こんなお金は全然嬉しくありません。
それどころかこれを受け取ってしまったことにより、あの二人を責められなくなってしまった。
――突然の婚約破棄から早二週間、私の元へ届けられましたのは婚約破棄の慰謝料という名目の手切れ金。
お金なんて受け取りたくはありませんでしたが、これを大人しく受け取らなかったらいったい何をされるかわかりません。
なので後で適当に使って散財してやりましょう。
本当はこんなお金使いたくはないですが、手元に残して置くのもなんだか癪に障ります。
……ですが私は受け取りを拒否したかった。
けれど弱い身分の私には、侯爵家嫡男であらせられるオズワルド様の命令に逆らう事は現実的に出来なくて胸がモヤモヤ致します。
でもそれが貴族社会。
そしてこれが私の置かれた立場。
「もう絶対に爵位が上の方とはお付き合いなんて致しません、絶対に」
というか、男性はもう本当に懲り懲りです。
いっそこのまま独身。
一生お一人様で侍女の仕事に人生でもかけまして、生きていきたいと考えていたりする私なのでございますが。
本当はそうも言っていられない状況でして、一刻も早く解決すべき問題があるのです。
それは両親と絶縁してしまった事により私の身元を保証してくれるものがなくなったということで。
このままでは確実に私は、侍女としてレオンハルト第一王子殿下の元で働けなくなってしまうのです。
辺境にあるあんなに小さな子爵家でも一応この国の貴族は貴族、王宮で働く私の唯一の後ろ盾でございました。
ですがこの婚約破棄の一件で子爵家と私は絶縁。
なのでどこかの貴族家へ養女にいくなり、結婚するなりして身元を保証して頂き。
後ろ盾となって貰わなければいけないのです。
が、私は結婚などするつもりは全くありませんし、養女に行くようなアテもやはりなく。
完全に八方塞がり。
だから本当はのんびりなんぞしている場合ではないのですが。
「さて、参りますか」
トランク一つを手に持って、いざゆかんバカンスへ。
どうしてこの状況でバカンス!?
と、疑問に思われるかもしれませんが。
つい先日、レオンハルト第一王子殿下に長期の休暇を頂き。
休暇を頂けた私は王宮にある自室で日がな一日なにをするでもなくただぼんやりと、時折うじうじと泣いて過ごしておりました。
ですがそんな私の姿を、同僚の侍女達に目撃されてしまい。
鬱々と泣く私のそんな残念な姿を、ありがたい事に同僚達はとても心配してくれて慰めてくれました。
ですが、大変恥ずかしい事にそれが侍女長様のお耳に入ってしまい。
侍女長様は何を思われたのかわかりませんが、レオンハルト第一王子殿下に私の現況を話してしまいました。
その話を聞いて哀れに思ってしまわれたのか、慈悲深い我が主レオンハルト第一王子殿下は。
一介の子爵令嬢、侍女でしかない私に離宮の使用許可を出してくださり。
その好意を無下にするわけにもいかず、今から私は離宮で一人バカンスに洒落込みに行く。
……という次第で。
海の見える素敵な離宮にうきうきワクワクなんて、私はしておりません。
「いち、じゅう、ひゃく? えーと……あれ、んんん!? き、金貨五百枚?」
数え間違いかなと、何度数え直してみても渡された小切手には金貨五百枚と記載されておりまして。
これは私のお給金約十年分に相当するような大変大きな金額で、決して少ない金額ではございません。
それに私は第一王子殿下の元でかれこれ五年ほど働かせて頂いている、侍女でございます。
なので自分で言うのもアレなのですが、それなりに高給取り。
なのにそのお給金十年分の慰謝料とは、なんともまあ気前のいい事。
……金貨五百枚。
この金額には、それだけ私に悪い事をしてしまったという罪の自覚があるのか。
それとも金銭感覚が狂ってしまっているかの、どちらか一方なわけで。
まあ罪の自覚がオズワルド様の中に有っても無くても、その結果は変わりません。
それにオズワルド様のあの酷い口ぶりから察しますと、ほぼ確実に後者なのでしょう。
これだけの大金があれば、当分は働かないで遊んで暮らせますでしょう。
それにドレスだって沢山買えますでしょうし、小さな家くらいならこの王都でも買えてしまいます。
ですが、こんなお金は全然嬉しくありません。
それどころかこれを受け取ってしまったことにより、あの二人を責められなくなってしまった。
――突然の婚約破棄から早二週間、私の元へ届けられましたのは婚約破棄の慰謝料という名目の手切れ金。
お金なんて受け取りたくはありませんでしたが、これを大人しく受け取らなかったらいったい何をされるかわかりません。
なので後で適当に使って散財してやりましょう。
本当はこんなお金使いたくはないですが、手元に残して置くのもなんだか癪に障ります。
……ですが私は受け取りを拒否したかった。
けれど弱い身分の私には、侯爵家嫡男であらせられるオズワルド様の命令に逆らう事は現実的に出来なくて胸がモヤモヤ致します。
でもそれが貴族社会。
そしてこれが私の置かれた立場。
「もう絶対に爵位が上の方とはお付き合いなんて致しません、絶対に」
というか、男性はもう本当に懲り懲りです。
いっそこのまま独身。
一生お一人様で侍女の仕事に人生でもかけまして、生きていきたいと考えていたりする私なのでございますが。
本当はそうも言っていられない状況でして、一刻も早く解決すべき問題があるのです。
それは両親と絶縁してしまった事により私の身元を保証してくれるものがなくなったということで。
このままでは確実に私は、侍女としてレオンハルト第一王子殿下の元で働けなくなってしまうのです。
辺境にあるあんなに小さな子爵家でも一応この国の貴族は貴族、王宮で働く私の唯一の後ろ盾でございました。
ですがこの婚約破棄の一件で子爵家と私は絶縁。
なのでどこかの貴族家へ養女にいくなり、結婚するなりして身元を保証して頂き。
後ろ盾となって貰わなければいけないのです。
が、私は結婚などするつもりは全くありませんし、養女に行くようなアテもやはりなく。
完全に八方塞がり。
だから本当はのんびりなんぞしている場合ではないのですが。
「さて、参りますか」
トランク一つを手に持って、いざゆかんバカンスへ。
どうしてこの状況でバカンス!?
と、疑問に思われるかもしれませんが。
つい先日、レオンハルト第一王子殿下に長期の休暇を頂き。
休暇を頂けた私は王宮にある自室で日がな一日なにをするでもなくただぼんやりと、時折うじうじと泣いて過ごしておりました。
ですがそんな私の姿を、同僚の侍女達に目撃されてしまい。
鬱々と泣く私のそんな残念な姿を、ありがたい事に同僚達はとても心配してくれて慰めてくれました。
ですが、大変恥ずかしい事にそれが侍女長様のお耳に入ってしまい。
侍女長様は何を思われたのかわかりませんが、レオンハルト第一王子殿下に私の現況を話してしまいました。
その話を聞いて哀れに思ってしまわれたのか、慈悲深い我が主レオンハルト第一王子殿下は。
一介の子爵令嬢、侍女でしかない私に離宮の使用許可を出してくださり。
その好意を無下にするわけにもいかず、今から私は離宮で一人バカンスに洒落込みに行く。
……という次第で。
海の見える素敵な離宮にうきうきワクワクなんて、私はしておりません。
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