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24 言うに事欠いて何を言い出すのか

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 結婚式まであと三ヶ月だったあの日。
 仕事をしながらたった一人で結婚準備しておりました私に、オズワルド様がお掛けになられた言葉は愛の言葉でも労いの言葉でもなく。
 一方的な婚約破棄でございました。

 私の婚約者を奪ったリリアン、そして私を裏切って妹を選んだオズワルド様。
 この二人はあれから私がどんな気持ちで結婚式が中止になった事による後処理をしたのか、想像すらしていなかった様でごさいまして。

「もう色々と疲れました」

「マリアベル、大丈夫か……?」

「はい、大丈夫ですわクロヴィス様。ご心配ありがとうございます」

「こうなってしまっては立ち去るのも得策じゃない、この場をなんとかしないといけないな……」

「申し訳ございませんクロヴィス様、私の事情に巻き込んでしまって……」

「マリアベルの助けになれるなら俺は嬉しいけど? もしかしたらそれで惚れて貰えるかもしれないし」

「ふふっ、それは思っていても黙っているほうが女性には効果的だと思いますよ?」

「あっ……じゃあ今のとこだけちょっと忘れてくれるとすごい嬉しい」

 こんな最低最悪な状況でも、クロヴィス様が私の隣にいてくださる。
 それだけで心強いですし、こんなにも安心させてくれるなんてやはりクロヴィス様は凄い方。

 身分が違いすぎる、それに年下だからと男性として見た事が今まで一度もありませんでしたが。
 よくよくクロヴィス様を見てみますと、整った容姿にスラリとした体躯の美丈夫。

「うっ……!」

「え、マリアベル!? ほんとに大丈夫か?」

「大丈夫です、ちょっと……動悸がしただけなので! 何もご心配なく……!」

「それ、本当に大丈夫……?」

 いけません。
 今はこんな事を考えているような状況ではございません、気を取り直しましょう。
 
  
 さて、私達の後方には黒山の人集り。
 そして前方にはラフォルグ侯爵様に羽交い締めにされるオズワルド様と、ラフォルグ侯爵夫人。
 ……そして私の両親がそこに。
  
 オズワルド様とリリアンの二人がした酷い行いの数々を、私は一生許す事が出来ないでしょう。

 ですがそんな身勝手な二人よりも許せないのは、それを容認していた両親で。

「……どうして貴方達はそこで他人のフリなんて馬鹿な真似をしているのですハインツ子爵、それに子爵夫人? 地味な私と違ってリリアンは可愛い可愛い愛娘なのでしょう?」

「なっ!? 誰が馬鹿だって! 親に向かってなんだその口の利き方は……!」

「貴方達はもう私の親ではございません、絶縁致しましたので」

「そんなもの、私達は認めんっ!」

「認めぬと言われましても……国の方にも貴方達二人が署名と捺印をされました絶縁の書類は提出済ですし、処理も滞りなくされました。知ってらっしゃるでしょう?」

「それはだな……お、お前が勝手に書いて私の印を押したんだ!」

「なっ!? ご自分が今なにをおっしゃったのか、わかっているのですか!」

 開いた口が塞がりません。
 言うに事欠いて、こんな公の場でそんな事をおっしゃられるだなんて。
 うちの両親馬鹿だったみたいです。

「……マリアベルが国に提出する公文書の偽造をしたと? もしそれが事実だとすると彼女はもれなく極刑、家門も無事では済まされませんがハインツ子爵は本当にそれでよろしいのですか」

 両親の馬鹿さ加減に呆れて私が絶句しておりますとクロヴィス様が、助け舟を出して下さいます。
 こんなのが私の親だなんて恥ずかしい。

「あ、いや……違っ……」

「ハインツ子爵、ご自分の発言にはお気をつけになったほうが宜しいかと? ここは辺境ではなく王都ですので、言葉一つで首が飛びますよ」
 
「な、なんだ偉そうにこの若造が! 貴様はいったい誰だ、名を名乗らんか失礼だぞ! それに何故私の娘と一緒にいる!?」

「……私はルーホン公爵家のクロヴィス、レオンハルト第一王子の側近を務めさせて頂いております」

「公爵家、第一王子……側近……ひっ!」

 クロヴィス様のその言葉に、私の父はどんどん顔が青ざめていってしまいます。
 お馬鹿でも自分が行った失態くらいはおわかりになるみたいです、今さら遅いのですが。

 私がレオンハルト第一王子殿下の侍女と両親は知ったのですから、殿下の側近の方と一緒にいたとしても何もおかしくはないのに。

 ――そこに。 

「まあまあ……親子喧嘩はよくなくてよ、マリアベルさん?」

「っあ、ラフォルグ侯爵夫人……?」

 先程まで普段のお姿からは想像も出来ないくらい取り乱しておられたラフォルグ侯爵夫人が、にこやかな笑みを浮かべて私に声を掛けられます。

 多少気を取り戻されたようで何よりでございますが、私に何か御用でしょうか?

「あら、お義母様とは呼んでくれなくて?」

「オズワルド様とは婚約破棄しましたので、申し訳ございません」

「……このウェディングドレス私はマリアベルさん、貴女に着て欲しいの」

「あ、申し訳わけございませんラフォルグ侯爵夫人。サイズ直しまでして譲ってくださったのに破談になってしまい……着る事が出来ませんで」
  
「ならもう一度オズワルドと婚約すればいいわ! そうすればこのウェディングドレス貴女が着れるでしょう! ふふっ名案ね!」

「は、い……?」

 ……ラフォルグ侯爵夫人まで。
 言うに事欠いて、何を言い出していらっしゃるのでしょう?

 
 
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