YUZU

箕面四季

文字の大きさ
58 / 84

【本物のお母さん】

しおりを挟む
 ママは、柚樹と手を繋いだまま、ただ静かに待っていた。

 そうだった。いつもママは、柚樹が止まると一緒に止まってくれた。柚樹が再び動き出すまでじっと待ってくれた。
 柚樹が考えれば、一緒に考えてくれた。
 何分でも、何十分でも、もっともっと長い時間でも。

「本当に、ママ、なの?」
 柚樹の問いに「うん」とママは頷いた。

「柚葉の中身も、ママ、だったんだよね」
「うん。今時な可愛い女子高生だったでしょ」

「柚葉って、ママの高校生の頃の姿だったの?」
「それがねぇ」
 ママはうーん、と首をひねる。

「ママもと~っても可愛い高校生ではあったんだけれど、あの姿は、ママじゃないのよ。一体、誰だったのかしらね」
 首を傾げるママの仕草や喋り方が柚葉と重なって、やっぱり柚葉の中身はママだったんだな、と、柚樹は確信する。

(どうりで高校生にしてはおばさんっぽかったわけだ)
「どうりで高校生にしてはおばさんっぽかったわけだ、とか思ったでしょ」

 ママがじとっと柚樹を見たので「思ってない、思ってない」と、柚樹は慌てて首を振る。

「もう! あんなに可愛くって、素直で無邪気で天使で、将来はママと結婚するって言ってた柚樹が、いっちょ前に口悪くなっちゃって。ママ、せつないわ~」

 ぷくぅと膨れるママ。そうそう、ママってこんなだった。と柚樹の中に懐かしさが込みあがる。
 今思えば、保護者にしては随分と子供っぽい人だったんだな。
 母さんと違って。

 妹を妊娠中の母さん。そんでもってママは。

「ママはオレを産んだんだよね」
「陣痛、ほんっと痛かったのよー」

 当たり前だけど、オレはちゃんとママから生まれて来たんだと、胸がじんわり熱くなる。
 そんでもって柚葉が熱心に喋っていた赤ちゃんはつまり……オレのことで。
 つまりママはオレの。

「オレの……本物のお母さん」

 噛みしめるように呟いた柚樹に「本物って……そんな風に言われると、なんか、照れるわね」と、ママは困ったように笑ったのだった。

 その瞬間、ハズいとか何だとか、そんなの全部吹っ飛んでいた。柚樹はママに抱きついた。 

 知っている匂いがする。
 懐かしい匂いがする。
 とても恋しかった匂い。
 自分を包み込んでくれる、温かくて優しい匂い。

 ママは「ぎゅーーーーーっ」と言いながら、柚樹を力強く抱きとめた。
 心の奥底にしまわれていたママへの気持ちがどんどん溢れていく。

 そうだった。オレは、こんなにもママが好きで。大好きで大好きで。だから。

 すごく悲しかったんだ―。

 久々のハグは、柚樹が知っているそれと少し違って、抱きしめられているのか、それとも柚樹がママを抱きしめているのか、よくわからなかった。

「大きくなったね、柚樹」と、ママは笑っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...