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ほたるの記憶 ~小学生編~

ひいじいじが亡くなって

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 ひいじいじが亡くなったのは、修学旅行が終わってほどなくのことだった。

 清々しい秋の日の夕刻、空には沢山のアカトンボが舞っていて、稲穂と落ち葉の匂いの風がそよぐ中、ひいじいじは、縁側に置いたお気に入りのロッキングチェアの上で、膝に愛読書を乗せたまま眠るように亡くなっていたそうだ。

 細く開けた窓から心地よい秋風が入り込み、ひいじいじの髪をそよいでいて、それはそれは気持ちよさそうな顔をしていた。と、発見したおばあちゃんは話していた。

 ひいじいじの死は静かな老衰で、お葬式で「蜻蛉さん、お疲れさん。大往生だったねぇ」と、みんなひいじいじに声をかけていた。

 和やかなお葬式はいいことだよ、と、おばあちゃんに言われた。
 でも、ほたるはみんながひいじいじの死を喜んでいるように見えて嫌だった。

 記憶は途切れ途切れで、気づいたら葬式で、気づいたら火葬場で、気づいたらひいじいじの仏壇ができていて……

 写真になったひいじいじ。
 引き延ばされた白黒写真には、妙にカッコつけた二十代くらいの若い男性がニカっと笑っていた。
 これがひいじいじだって言う。

 写真は、ひいじいじの愛読書に挟んであったそうだ。

「遺影はこれにして欲しいって、写真の裏にメモ書きがあったけどやっぱ若すぎかねぇ」
 仏壇の前でおばあちゃんが苦笑する。

 お母さんがまじまじと写真を眺め「これ、いつ、どこで誰が撮ったのかしらね」と首を捻り「さあねぇ」とおばあちゃんも首を傾げた。

 ひいじいじが亡くなる前日、ほたるはひいじいじの部屋にいた。
 ひいじいじは、いつもと変わらず茜色の夕焼け空をしょぼしょぼの目で眺めていた。
 縁側の近くを沢山のアカトンボが舞っていて、ひいじいじはそれを眺めていた。


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