3 / 97
麗しの碧ちゃん
神明大学一の美女、大水碧ちゃん
しおりを挟む
「こら、そこ。寝るな!!」
低い声で怒られ「すみません!」と、ほたるはがばっと椅子から立ち上がる。
「あっはっは~。引っかかったー! ほたるちゃんはからかいがいがあるよねー」
「あ、碧(あお)ちゃん??」
振り向けば、麗しい美貌の持ち主が、ほたるににっこり笑いかけていた。
神明大学一の美女(ほたるの知る限り)の大水碧(おおみずあお)ちゃんだ。
いつも、透明感のある水色と黄緑色の中間のような不思議な色味のオシャレなワンピースを着ている。
いつも、というのは、ほたるが碧ちゃんに会う時は、という意味。
『多様性』を掲げる神明大学は、学生が受講できるカリキュラムも多彩。なので、碧ちゃんに会うのも稀なのだ。
どういうことかと言うと、ほたるは神明大学文学部文学科を受験し合格したのだが、入ってみたら、文学部でも理系の学科を履修できるし、その反対もしかりで、 もっと言えば、講義の出席数さえ満たしていれば、どの講義を受けてもOKなのだった。
つまり、実践英語Ⅰの第1回講義を受けて、なんか違うな、と思ったら、同じ曜日の同じ時限の別の講義、例えば英語文法Ⅰとか、または統計学Ⅰとか、国文学Ⅰとかの講義を受けても単位が取れちゃう独自システムになっている。
だから、その日のその時間の自分の気分次第で、理系、文系、学部の垣根も越えて、講義が選び放題ということ。
そんな感じなので、それぞれの単位を取得する方法も、試験、課題、教授の手伝いなど、多種多様。
あまりに『多様性』がすぎて、混乱する学生もしばしばらしいけれど、まあ、そこも、さすが神明大は微妙大ってことで、みんな納得している。
話を戻せば、この節操のない『多様性』カリキュラムを、友達と一緒に受けるつもりなら、事前にDMを送り合って「今日の〇時限目は、○○の講義にしよー」とか、約束する必要がある。
実際に、それをやっている仲良しグループもいるみたいだけれど、ほたるはそういうのが大の苦手なので、いつも単独行動。
その日のフィーリングで、いろんな講義を受けている。
そして、どうやら碧ちゃんもそうらしい。
そんなわけで、碧ちゃんも含め、大学で仲良くなった友達と大学で出会う確率は、運次第。
だから、本日の碧ちゃんとの再会も、随分久しぶりなのである。
でもって、ほたるが碧ちゃんに会う時は、偶然にも、いつも、この透明感のある水色と黄緑色の中間みたいなオシャレワンピースを着ている。だから「いつも」なのである。
(うーん、この色、なんていうんだろう)
わからないから、水黄緑と命名しよう。
碧ちゃんの水黄緑のワンピには、左右の胸元とスカートにひとつずつ楕円形の金色い刺繍が施されていて、横長に深く開いたボートネックは深い色味の朱色で縁どられている。全体的に、高級感というか、高貴な感じがする。
そのワンピに、碧ちゃんはいつも雪ウサギの毛みたいな、見た目にふわっふわの白長ストールを合わせている。細く白い首にひと巻きして両端を長く垂らしているのが、こなれ感を醸し出していて憧れる。
夏休み前に会った時は、ちょっと暑そうだな、と思ったけれど、オシャレ上級者は、季節なんてもろともしないのだ。たぶん。
極めつけは、前髪を上げているアートな形の山吹色のカチューシャ。
碧ちゃんの山吹色のカチューシャは、左右で太さの違うギザギザのコームがついていて、そのカチューシャで前髪を全上げしている。
それによって、美しい逆三角形の色白小顔と、くりっと大きな黒目がちの瞳がより一層引き立って見えるのだ。
このオシャレ上級者ファッションが似合うのは、スタイル抜群美女の碧ちゃんの特権だろうな。
(いいなー、スタイル抜群の美女は)
ほたるは、おしゃれ碧ちゃんを眺め、うっとりした。
と、突然、自分が瑞々しい夏の夜の森に迷い込んだような、不思議な感覚に襲われた。
辺りは暗く、蒸し暑く、森の木々が二酸化炭素を吐き出し湿っぽく呼吸している。夜空の低い位置で、赤い満月がくぐもった光を落としていた。
夜のひっそりとした森に、ひらひら舞うのは。
(蝶?)
大きな蝶が横切っていく。
碧ちゃんのワンピの色に似た、水黄緑をした美しい蝶。
月明かりに粒子をちらちらと振りまき、羽ばたいている。
(この蝶、どっかで)
「どうかしたー?」
はっと、我に返れば、碧ちゃんがモフモフストールを巻きなおしながら、大きな丸い黒目でほたるを覗き込んでいた。
ここは……ごくごく普通の、大学の講義室。
(うわっ! あたし今、白昼夢見てた?)
さすがに、ちょっと寝ぼけすぎっ!
そういえば。と、周りを見渡せば、講義室はもぬけの殻だった。壁の時計を見たら、16:38。講義が終わって10分近く過ぎている。
「ほたるちゃん、よだれのあとがついてるー」
「え、どこどこ?」
「あっはっはー。嘘だよーん」
「うわっ、引っかかったー」
「あっはっはー。でさー、ほたるちゃんは、この後講義あるー?」
「ううん。今日はこれで終わり」
「なら、僕と一緒に帰ろーよー」
碧ちゃんがにっこり笑う。無邪気な笑顔で自分のことを「僕」と呼ぶ碧ちゃん。
これで萌えない男子はいない。
ほたるだって萌える。萌え萌えだ。
こくこくうなずくと、碧ちゃんはほたるに細い腕を絡めてきた。
(相変わらず、距離が近い)
碧ちゃんに腕を絡められて、ドキマギ歩きながら、ほたるは、(それにしても)と、小さく首を傾げた。
(さっきの「こら」は、男の人の声だと思ったんだけどな。寝ぼけてたのかなぁ?)
まあ、いっか。と、疑問ごと忘れることにした。
低い声で怒られ「すみません!」と、ほたるはがばっと椅子から立ち上がる。
「あっはっは~。引っかかったー! ほたるちゃんはからかいがいがあるよねー」
「あ、碧(あお)ちゃん??」
振り向けば、麗しい美貌の持ち主が、ほたるににっこり笑いかけていた。
神明大学一の美女(ほたるの知る限り)の大水碧(おおみずあお)ちゃんだ。
いつも、透明感のある水色と黄緑色の中間のような不思議な色味のオシャレなワンピースを着ている。
いつも、というのは、ほたるが碧ちゃんに会う時は、という意味。
『多様性』を掲げる神明大学は、学生が受講できるカリキュラムも多彩。なので、碧ちゃんに会うのも稀なのだ。
どういうことかと言うと、ほたるは神明大学文学部文学科を受験し合格したのだが、入ってみたら、文学部でも理系の学科を履修できるし、その反対もしかりで、 もっと言えば、講義の出席数さえ満たしていれば、どの講義を受けてもOKなのだった。
つまり、実践英語Ⅰの第1回講義を受けて、なんか違うな、と思ったら、同じ曜日の同じ時限の別の講義、例えば英語文法Ⅰとか、または統計学Ⅰとか、国文学Ⅰとかの講義を受けても単位が取れちゃう独自システムになっている。
だから、その日のその時間の自分の気分次第で、理系、文系、学部の垣根も越えて、講義が選び放題ということ。
そんな感じなので、それぞれの単位を取得する方法も、試験、課題、教授の手伝いなど、多種多様。
あまりに『多様性』がすぎて、混乱する学生もしばしばらしいけれど、まあ、そこも、さすが神明大は微妙大ってことで、みんな納得している。
話を戻せば、この節操のない『多様性』カリキュラムを、友達と一緒に受けるつもりなら、事前にDMを送り合って「今日の〇時限目は、○○の講義にしよー」とか、約束する必要がある。
実際に、それをやっている仲良しグループもいるみたいだけれど、ほたるはそういうのが大の苦手なので、いつも単独行動。
その日のフィーリングで、いろんな講義を受けている。
そして、どうやら碧ちゃんもそうらしい。
そんなわけで、碧ちゃんも含め、大学で仲良くなった友達と大学で出会う確率は、運次第。
だから、本日の碧ちゃんとの再会も、随分久しぶりなのである。
でもって、ほたるが碧ちゃんに会う時は、偶然にも、いつも、この透明感のある水色と黄緑色の中間みたいなオシャレワンピースを着ている。だから「いつも」なのである。
(うーん、この色、なんていうんだろう)
わからないから、水黄緑と命名しよう。
碧ちゃんの水黄緑のワンピには、左右の胸元とスカートにひとつずつ楕円形の金色い刺繍が施されていて、横長に深く開いたボートネックは深い色味の朱色で縁どられている。全体的に、高級感というか、高貴な感じがする。
そのワンピに、碧ちゃんはいつも雪ウサギの毛みたいな、見た目にふわっふわの白長ストールを合わせている。細く白い首にひと巻きして両端を長く垂らしているのが、こなれ感を醸し出していて憧れる。
夏休み前に会った時は、ちょっと暑そうだな、と思ったけれど、オシャレ上級者は、季節なんてもろともしないのだ。たぶん。
極めつけは、前髪を上げているアートな形の山吹色のカチューシャ。
碧ちゃんの山吹色のカチューシャは、左右で太さの違うギザギザのコームがついていて、そのカチューシャで前髪を全上げしている。
それによって、美しい逆三角形の色白小顔と、くりっと大きな黒目がちの瞳がより一層引き立って見えるのだ。
このオシャレ上級者ファッションが似合うのは、スタイル抜群美女の碧ちゃんの特権だろうな。
(いいなー、スタイル抜群の美女は)
ほたるは、おしゃれ碧ちゃんを眺め、うっとりした。
と、突然、自分が瑞々しい夏の夜の森に迷い込んだような、不思議な感覚に襲われた。
辺りは暗く、蒸し暑く、森の木々が二酸化炭素を吐き出し湿っぽく呼吸している。夜空の低い位置で、赤い満月がくぐもった光を落としていた。
夜のひっそりとした森に、ひらひら舞うのは。
(蝶?)
大きな蝶が横切っていく。
碧ちゃんのワンピの色に似た、水黄緑をした美しい蝶。
月明かりに粒子をちらちらと振りまき、羽ばたいている。
(この蝶、どっかで)
「どうかしたー?」
はっと、我に返れば、碧ちゃんがモフモフストールを巻きなおしながら、大きな丸い黒目でほたるを覗き込んでいた。
ここは……ごくごく普通の、大学の講義室。
(うわっ! あたし今、白昼夢見てた?)
さすがに、ちょっと寝ぼけすぎっ!
そういえば。と、周りを見渡せば、講義室はもぬけの殻だった。壁の時計を見たら、16:38。講義が終わって10分近く過ぎている。
「ほたるちゃん、よだれのあとがついてるー」
「え、どこどこ?」
「あっはっはー。嘘だよーん」
「うわっ、引っかかったー」
「あっはっはー。でさー、ほたるちゃんは、この後講義あるー?」
「ううん。今日はこれで終わり」
「なら、僕と一緒に帰ろーよー」
碧ちゃんがにっこり笑う。無邪気な笑顔で自分のことを「僕」と呼ぶ碧ちゃん。
これで萌えない男子はいない。
ほたるだって萌える。萌え萌えだ。
こくこくうなずくと、碧ちゃんはほたるに細い腕を絡めてきた。
(相変わらず、距離が近い)
碧ちゃんに腕を絡められて、ドキマギ歩きながら、ほたるは、(それにしても)と、小さく首を傾げた。
(さっきの「こら」は、男の人の声だと思ったんだけどな。寝ぼけてたのかなぁ?)
まあ、いっか。と、疑問ごと忘れることにした。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)
ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
たったひとつの願いごと
りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。
その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。
少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。
それは…
こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※noichigoさんに転載。
※ブザービートからはじまる恋
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる