28 / 97
神明神社
たかが虫、されど虫
しおりを挟む
「変って何が?」と、優太君が指さした場所をほたるも目で追う。
宝石箱をひっくり返したように、極彩色豊かな蝶たちが水盤の上の花々に群がり、優雅に蜜を吸っていた。
呼吸するように、羽を閉じたり開いたりする様は、洞窟の中でぴかぴか輝く財宝のようだ。
「つまり、こんなにいろんな種類のチョウとガがいっぺんにいること」と、優太君が考え込む。
「確かに蝶の種類は多いよね。この中に蛾はいないそうだけど」
花の上で飛び回ったり休んだりしている、美しい羽の蝶たちを眺め、ほたるも同意する。
「ダメほたるは、やっぱわかってねーな。さっきも言ったけど、綺麗なガだっていっぱいいるんだぜ」
呆れ顔で優太君が、「ほら、あそこ」と指さした。
「白い羽に茶色っぽい模様がついてるやついるだろ」
「あのモンシロチョウがどうかしたの?」
「あれは、モンシロモドキっていうガの仲間。日中にひらひら飛ぶ姿がモンシロチョウに似てるから、モンシロモドキ。それからほら、スズランみたいな白い小さな花にとまってる個体も、アゲハチョウに見えるけどキンモンガっていうガの仲間なんだぜ」
「うそ! あの可愛い蝶たちが? 蛾って夜に飛び回る茶色いやつだと思ってた」
「だからそれが偏見なんだって。昼行性のガもいるし、チョウに負けないくらい綺麗なガもいっぱいいるんだ。ほら、あっちのオレンジ色の花にとまってる、羽が黒い個体もアゲハモドキっていうガだよ」
優太君がまた別の方を指さす。
そこに見えるのは、黒い大きな羽にオレンジ色の斑点模様が美しい、どっからどう見てもアゲハチョウの仲間のような羽の蛾だった。
「あたしには、クロアゲハに見えるけど」
「クロアゲハにも似てるけど、体内に毒を持つジャコウアゲハっていうチョウに擬態して、身を守っていると言われてるんだ。ちなみにアゲハモドキに毒はない」
「毒があるのが蛾で、毒が無いのが蝶じゃないの? あたし、ちっちゃい頃に、そうやって幼稚園の先生に教わった気がするけど」
確か、年長さんの時、教室に茶色い蛾が一匹張り付いているのを、クラスの男の子が触ろうとして、先生が慌てて止めて、そんな風に教えた。
「チョウチョは触ってもいいけど、蛾は毒があるから触っちゃダメよ」って。
「いるんだよな。そうやって決めつけで教えちゃう先生。確かに毒を持つガはいるけど、毒を持たないガだってたくさんいるんだよ。毒のないケムシもいるしな。逆に毒を持つチョウもいっぱいいる」
「毒のない蛾がいて、毒を持つ蝶がいるの? おまけに毒がないケムシもいるって……なんか、あたしの知ってた常識が、オセロみたいに見事にひっくり返された気分」
ほたるの言葉に「オレ、思うんだけどさー」と優太君が難しい顔をする。
「たぶん、オセロみたいに白黒パキっと分類できる生き物なんて、この世にいないんじゃね? 例えば、昆虫の性別はざっくりオスとメスに分けられるけど、チョウなんかでは、雌雄モザイクっつって、オスとメス両方の特徴を持ってる個体もいたりするし、カタツムリみたいに雌雄同体っつってオスとメス両方の生殖器を持っているやつもいる。人間だって、男子と女子ってパキっと分けらんないじゃん。だからさ、なんでもこれは、こうって、決めつけで教えちゃうのはまずい気がするんだよな。そういうのが偏見の根っこな気がするんだよ」
「……確かにそうかも」
「それとさ、人間は自分の身を守るために、得体のしれないモノを無意識に嫌う傾向があるって言われてるんだ。だから、知識の少ないイモムシやガに対して、なんとなく怖いとか、なんか気持ち悪いって思っちゃうんだよ、きっと。でも、イモムシもガも、もっとちゃんとよく知れば、変に怖がる必要もないし、気持ち悪いって気持ちも薄れると思うんだよな。そういうのもさ、人間関係とかにも言えると思うんだ」
「……確かに。なんか、深いね」
ほたるが感心すると「たかが虫、されど虫!」と、優太君がニヤっと笑う。
「虫から学ぶことって、いっぱいあるんだぜ」
「なるほど」と、ほたるも頷いた。
たかが虫、されど虫。かぁ。
宝石箱をひっくり返したように、極彩色豊かな蝶たちが水盤の上の花々に群がり、優雅に蜜を吸っていた。
呼吸するように、羽を閉じたり開いたりする様は、洞窟の中でぴかぴか輝く財宝のようだ。
「つまり、こんなにいろんな種類のチョウとガがいっぺんにいること」と、優太君が考え込む。
「確かに蝶の種類は多いよね。この中に蛾はいないそうだけど」
花の上で飛び回ったり休んだりしている、美しい羽の蝶たちを眺め、ほたるも同意する。
「ダメほたるは、やっぱわかってねーな。さっきも言ったけど、綺麗なガだっていっぱいいるんだぜ」
呆れ顔で優太君が、「ほら、あそこ」と指さした。
「白い羽に茶色っぽい模様がついてるやついるだろ」
「あのモンシロチョウがどうかしたの?」
「あれは、モンシロモドキっていうガの仲間。日中にひらひら飛ぶ姿がモンシロチョウに似てるから、モンシロモドキ。それからほら、スズランみたいな白い小さな花にとまってる個体も、アゲハチョウに見えるけどキンモンガっていうガの仲間なんだぜ」
「うそ! あの可愛い蝶たちが? 蛾って夜に飛び回る茶色いやつだと思ってた」
「だからそれが偏見なんだって。昼行性のガもいるし、チョウに負けないくらい綺麗なガもいっぱいいるんだ。ほら、あっちのオレンジ色の花にとまってる、羽が黒い個体もアゲハモドキっていうガだよ」
優太君がまた別の方を指さす。
そこに見えるのは、黒い大きな羽にオレンジ色の斑点模様が美しい、どっからどう見てもアゲハチョウの仲間のような羽の蛾だった。
「あたしには、クロアゲハに見えるけど」
「クロアゲハにも似てるけど、体内に毒を持つジャコウアゲハっていうチョウに擬態して、身を守っていると言われてるんだ。ちなみにアゲハモドキに毒はない」
「毒があるのが蛾で、毒が無いのが蝶じゃないの? あたし、ちっちゃい頃に、そうやって幼稚園の先生に教わった気がするけど」
確か、年長さんの時、教室に茶色い蛾が一匹張り付いているのを、クラスの男の子が触ろうとして、先生が慌てて止めて、そんな風に教えた。
「チョウチョは触ってもいいけど、蛾は毒があるから触っちゃダメよ」って。
「いるんだよな。そうやって決めつけで教えちゃう先生。確かに毒を持つガはいるけど、毒を持たないガだってたくさんいるんだよ。毒のないケムシもいるしな。逆に毒を持つチョウもいっぱいいる」
「毒のない蛾がいて、毒を持つ蝶がいるの? おまけに毒がないケムシもいるって……なんか、あたしの知ってた常識が、オセロみたいに見事にひっくり返された気分」
ほたるの言葉に「オレ、思うんだけどさー」と優太君が難しい顔をする。
「たぶん、オセロみたいに白黒パキっと分類できる生き物なんて、この世にいないんじゃね? 例えば、昆虫の性別はざっくりオスとメスに分けられるけど、チョウなんかでは、雌雄モザイクっつって、オスとメス両方の特徴を持ってる個体もいたりするし、カタツムリみたいに雌雄同体っつってオスとメス両方の生殖器を持っているやつもいる。人間だって、男子と女子ってパキっと分けらんないじゃん。だからさ、なんでもこれは、こうって、決めつけで教えちゃうのはまずい気がするんだよな。そういうのが偏見の根っこな気がするんだよ」
「……確かにそうかも」
「それとさ、人間は自分の身を守るために、得体のしれないモノを無意識に嫌う傾向があるって言われてるんだ。だから、知識の少ないイモムシやガに対して、なんとなく怖いとか、なんか気持ち悪いって思っちゃうんだよ、きっと。でも、イモムシもガも、もっとちゃんとよく知れば、変に怖がる必要もないし、気持ち悪いって気持ちも薄れると思うんだよな。そういうのもさ、人間関係とかにも言えると思うんだ」
「……確かに。なんか、深いね」
ほたるが感心すると「たかが虫、されど虫!」と、優太君がニヤっと笑う。
「虫から学ぶことって、いっぱいあるんだぜ」
「なるほど」と、ほたるも頷いた。
たかが虫、されど虫。かぁ。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)
ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
たったひとつの願いごと
りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。
その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。
少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。
それは…
こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※noichigoさんに転載。
※ブザービートからはじまる恋
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる