ようこそ、むし屋へ2 ~麗しの碧ちゃん&むしコンシェルジュの卵編~

箕面四季

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神明神社

たかが虫、されど虫

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「変って何が?」と、優太君が指さした場所をほたるも目で追う。

 宝石箱をひっくり返したように、極彩色豊かな蝶たちが水盤の上の花々に群がり、優雅に蜜を吸っていた。
 呼吸するように、羽を閉じたり開いたりする様は、洞窟の中でぴかぴか輝く財宝のようだ。

「つまり、こんなにいろんな種類のチョウとガがいっぺんにいること」と、優太君が考え込む。

「確かに蝶の種類は多いよね。この中に蛾はいないそうだけど」
 花の上で飛び回ったり休んだりしている、美しい羽の蝶たちを眺め、ほたるも同意する。

「ダメほたるは、やっぱわかってねーな。さっきも言ったけど、綺麗なガだっていっぱいいるんだぜ」
 呆れ顔で優太君が、「ほら、あそこ」と指さした。

「白い羽に茶色っぽい模様がついてるやついるだろ」
「あのモンシロチョウがどうかしたの?」

「あれは、モンシロモドキっていうガの仲間。日中にひらひら飛ぶ姿がモンシロチョウに似てるから、モンシロモドキ。それからほら、スズランみたいな白い小さな花にとまってる個体も、アゲハチョウに見えるけどキンモンガっていうガの仲間なんだぜ」

「うそ! あの可愛い蝶たちが? 蛾って夜に飛び回る茶色いやつだと思ってた」
「だからそれが偏見なんだって。昼行性のガもいるし、チョウに負けないくらい綺麗なガもいっぱいいるんだ。ほら、あっちのオレンジ色の花にとまってる、羽が黒い個体もアゲハモドキっていうガだよ」

 優太君がまた別の方を指さす。
 そこに見えるのは、黒い大きな羽にオレンジ色の斑点模様が美しい、どっからどう見てもアゲハチョウの仲間のような羽の蛾だった。

「あたしには、クロアゲハに見えるけど」
「クロアゲハにも似てるけど、体内に毒を持つジャコウアゲハっていうチョウに擬態して、身を守っていると言われてるんだ。ちなみにアゲハモドキに毒はない」

「毒があるのが蛾で、毒が無いのが蝶じゃないの? あたし、ちっちゃい頃に、そうやって幼稚園の先生に教わった気がするけど」

 確か、年長さんの時、教室に茶色い蛾が一匹張り付いているのを、クラスの男の子が触ろうとして、先生が慌てて止めて、そんな風に教えた。

「チョウチョは触ってもいいけど、蛾は毒があるから触っちゃダメよ」って。

「いるんだよな。そうやって決めつけで教えちゃう先生。確かに毒を持つガはいるけど、毒を持たないガだってたくさんいるんだよ。毒のないケムシもいるしな。逆に毒を持つチョウもいっぱいいる」

「毒のない蛾がいて、毒を持つ蝶がいるの? おまけに毒がないケムシもいるって……なんか、あたしの知ってた常識が、オセロみたいに見事にひっくり返された気分」

 ほたるの言葉に「オレ、思うんだけどさー」と優太君が難しい顔をする。

「たぶん、オセロみたいに白黒パキっと分類できる生き物なんて、この世にいないんじゃね? 例えば、昆虫の性別はざっくりオスとメスに分けられるけど、チョウなんかでは、雌雄モザイクっつって、オスとメス両方の特徴を持ってる個体もいたりするし、カタツムリみたいに雌雄同体っつってオスとメス両方の生殖器を持っているやつもいる。人間だって、男子と女子ってパキっと分けらんないじゃん。だからさ、なんでもこれは、こうって、決めつけで教えちゃうのはまずい気がするんだよな。そういうのが偏見の根っこな気がするんだよ」

「……確かにそうかも」

「それとさ、人間は自分の身を守るために、得体のしれないモノを無意識に嫌う傾向があるって言われてるんだ。だから、知識の少ないイモムシやガに対して、なんとなく怖いとか、なんか気持ち悪いって思っちゃうんだよ、きっと。でも、イモムシもガも、もっとちゃんとよく知れば、変に怖がる必要もないし、気持ち悪いって気持ちも薄れると思うんだよな。そういうのもさ、人間関係とかにも言えると思うんだ」

「……確かに。なんか、深いね」

 ほたるが感心すると「たかが虫、されど虫!」と、優太君がニヤっと笑う。

「虫から学ぶことって、いっぱいあるんだぜ」
「なるほど」と、ほたるも頷いた。

 たかが虫、されど虫。かぁ。
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